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私達の冒険譚  作者: 喜求
1/8

日常の終わり

 




  穏やかな午後の日差しが机に差し込む。

  その日差しを受けながらうとうとしてると…。


「どーん!」


  気さくな声とともにバンッと机が叩かれる。


「わ!?なに!?…て沙織じゃん、脅かさないでよー、心臓が止まるかと思ったじゃない」


  突然の音と声に驚き跳ね起きると親友の沙織がいた。ドッキリが成功したのがうれしいのかニヤニヤしている。


「ごめんごめん、眠そうにうとうとしてたから脅かしたくなっちゃた」


  そういって私の目の前の席に座る。 沙織は私と話すときによく脅かしてくる。最初は少し面倒だと思ったこともあるが、いつもこうなのでもう慣れてしまった。


「全くもう、そんなことばっかりしてると、周りから変な目で見られるよ?」


「いいもん別に、私がやりたくてやってるんだから」


  いつもの何気ない休憩時間。すると教室に担任がやってきた、気がつけば休憩時間も終わりだった。


「おらー休憩時間は終わりだぞー席につけ~」


「やば、座らなきゃ。またあとでね、美花」


 そういって沙織は慌てて自分の席に戻る。

  なにか話があったようだけどなんだろう。

 

「さーて、次の授業は昨日いった通り履歴書を書く練習をするからな。会長、号令」


「起立!礼!着席!」


  号令をして席に着き、私はため息をついた。


「はあ、履歴書かあ」


  履歴書といえば就職。三学年になり、一気に就活ムードになったクラス。皆は大体どんな進路に就くか決めているのに、私はまだどんなことをしたいのかすら決まってない。決めなきゃいけないのはわかってはいるけど、やりたい仕事がわからないのだ。


「就職か…」


 ラノベやゲームの世界のような暮らし…出来ないかな…。








  あれからHRを終えいつもの喫茶店にて愚痴を言い合い、自転車を押しながら帰路を歩く。


「はあー、すっかり遅くなっちゃったね」


  時刻はもうすぐ8時、大体3時間は愚痴っていたことになる。


「沙織が店長について長く語りすぎなのよ」


  会話の3分の1ぐらいが沙織のバイト先の店長の変態具合についてだった。


「だってあの店長すごい変態なんだもん」

「はいはい………はあ」


  私は適当な返事をしたところでため息を吐く。


「どうしたの美花、今日はなんだか元気ないじゃん」


「うん、もう一年もしないうちに就職か…って思ってね」


  就職?と首をかしげる沙織。


「美花は進学しないの?美花の成績なら大学くらい入れるんじゃない?」


 確かに私の成績ならそれなりの大学は狙えるだろう。


「行けなくもないけど行きたい大学もないし、親から就職しろって言われてるからね」


  私のその言葉に沙織はふーんと言ったあと。


「そっか、美花もいろいろあるんだね、でも自分が行きたいって思った道に進むのが一番だと私は思うよ」


「私が行きたい道…そうだよね、考えておくよ」


  私はなにがしたいのだろう。



 …と、悩んでいたら家に着いてしまった。


「あ、もう家だ、じゃあね沙織、また明日」


「じゃあね美花、悩んでるなら相談に乗るからね」


  そういって自転車に乗り沙織は自分の家の方に走って行ってしまった。あれで勉強ができたならもっと人気者になるだろうに。


  私はそんな事を思いながら誰もいない家に入り、食事等を済ませ部屋に行きネットサーフィンを始める。何分か色んなサイトを転々としているとこんなサイトが出てきた。



  [異世界 行き方]



  …すごい露骨なタイトルである。さすがにここまでストレートに書かれていると逆に内容が気になってしまう。


 危ないサイトかなと思いながらも気になるので開いてみる。



[このサイトを閲覧したあなたは明日から異世界に行けます]



  ………やばいサイトだったかな。


  変なサイトを開いてしまったかなと少し焦っていると。


  ピロピロピロリーン。


  自分の携帯が鳴った。

  タイミングがタイミングなだけにビクッとしてしまったが、見てみると沙織からの電話だった。


「もしもし?」


  電話に出て声をかける。


「もしもし美花、今時間大丈夫?」


  沙織の声が返ってきてホッとする。


「うん、大丈夫、ちょっとびっくりしたけど」


「なにかあったの?」


「今さっきネットサーフィンをしてたら…」


  今起きたことを共感してもらうべく事情を説明した。








「ふーん、変わったサイトだね、しかも文章これだけっていうのがまた不気味」


「でしょ?なんだか気味が悪くてー」


 事情を説明し、沙織も同じサイトを開いた様子。


「にしても美花がそんな事を調べるなんてね~」


  沙織がからかう口調で言ってくる。痛いところを付かれてしまった。


「う…い、いいじゃない、ちょっとこういうの興味があるのよ。ところで、沙織の用件はなに?」


「あ、そうそう忘れてた、明日の事についてなんだけど。何時に美花の家に行けばいい?」


  すっかり忘れていた、明日は沙織と勉強会をする約束をしていたのだ。


「えっと…私は7時以降なら大丈夫だよ」


「わかった、7時だね、りょうかーい」


「それじゃあ私はもう寝るから、お休み沙織」


「はーい、お休み、美花」


  通話を切り布団に潜る。


  普段ならもう少し起きているのだが、今日はなぜだか引き込まれるような眠気に襲われた。


  その睡魔に身を委ねながら目を閉じる。





  …。



  ……。




  これは夢なのだろうか。

  どこか都会の路地裏と思わしき場所に、寝る前の服装で私は佇んでいる。夜だからか、辺りは暗い。夢と思うもこの体にはしっかりとした感覚があり、近くで車の走る音、さらにはゴミの臭いまで感じる。

 いやにハッキリとした感覚にこれが夢なのかを疑うが、確かに私は自分の部屋の布団で寝たのを覚えている。


  キョロキョロと辺りを見回していると、誰かが奥のほうから歩いてくる気配を感じた。

  不思議と[逃げよう]という感情は湧いてこなかった、私は段々近づいてくる人影を一歩も動かずに見つめていた。


  やがてあと数メートルの距離まで来て相手が止まり、姿が確認できるようになる。

 その人影は、黒いローブに身を包み、フードを目元まで被っていているが、その体型とわずかに覗く口元から女性であることが伺える。その立ち姿はまるでファンタジーなどに出てくる魔女のようだ。


  私が呆然とその人を見ながら立ち尽くしているとその女性が口を開いた。


「あなたは異世界に行くことを望みました、審査の結果、あなたは異世界転移をするのに十分な素質があります」


  突然そんな話をしてきた。


  審査とはいったいなんだろう、あのサイトは釣りではなかったの?


  そんな事を考えるが、まず聞いておくべきことがある。


「あなたは…誰ですか?」


 まだ夢ではないかと半信半疑ではあるけれど、名前くらいは聞いておこう。

 名前を聴かれたお姉さんは少し悩むような仕草をしたあと。


「うーん、あなたたちの世界とあなたたちの言う異世界の橋渡し、かしらね」


 名前を言わずに濁されてしまった、名前を知られると不都合なことでもあるのだろうか。

 それとも名前という文化がないのかもしれない。


「名前とかはあるんですか?」


「今は言えないわ。話を本題に戻すけど、まずあなたをこれから送り出す世界には2つの国があります」


  言えないと言われるとすごく気になるけれど、話が進まなそうだし静かにしておこう。

  …というか異世界転移確定なの?


「あの…戻るという選択肢は…」


「無理ね、ここに来てしまった以上私にはどうすることも出来ないわ。元の世界が名残惜しいかも知れないけど頑張って頂戴」


  なんて理不尽な話なんだろう。

  確かに異世界には行ってみたい。が、準備というものがあるし、なにより沙織に何も言わずにいなくなるというのはしたくない。


「…ならせめて親友になにか伝言を残せませんか?なにも言わずにいなくなるのは嫌なんです」


  そう、あの世界での心残りは沙織なのだ、もう戻れないというのならせめて遺書ではないがなにか伝言を伝えたい。

 一瞬一緒にとも思ったが巻き込む訳にもいかない。


「親友って、宮本沙織って娘かしら?」


 その言葉を聞いて驚いた、なぜ知っているのだろう。


「え、知ってるんですか?」


「ええ、その娘もエントリーシートに書いてあったからね」


 エントリーシート?なぜそのような…



 ………あ。



 そういえば沙織も同じサイトを観ていたのである、審査がどうのいっていたのできっとあのサイトを観ることが参加条件なのだろう。

 もはや詐欺ではと思ったが。考えるだけ無駄なので思考を放棄することにした。


「その沙織さんには大体の流れは説明しといてあげるから安心してちょうだい」


「あ、はい。お願いします」


 まだよくわかってないが、これで大体の問題は解決した。

 親には申し訳ないが、私もう18。親離れというやつだ。


「それじゃあそろそろ異世界について説明するわね」


  そういってローブのお姉さんは淡々と異世界について解説した。


  要約すると、今から転移する世界の私の行く国では魔法があり、モンスターやそれを狩る冒険者のような仕事に就く人たちがいて、私達の言う中世ヨーロッパの様な文明だという。

  いかにも異世界、といった世界観だった。


「さて、大体の説明は終わったかしら。なにか聞きたいことはある?」


  聞きたいこと…あ。


「私、そちらの世界の言葉は喋れるんですか?」


「あ、すっかり忘れてたわ。大丈夫よ、問題なく会話できるし文字も読めるわ。」


  向こうに行って話が通じないのは難易度高いというどころでない。確認しておいて良かった…。


「他にはないわね?」


  頷く私。

  その様子を見てお姉さんも頷き。


「うん、ならまずはこれをやらないとね」


  そういうとお姉さんはブツブツとなにか魔法の詠唱のような事を呟き、なにかを叫んだ。



  その叫びと共に私の体に変化が起きる。

  今までの五感と違う別の感覚が認識出来るようになり、なんだか目の前のお姉さんの存在感が増したような気がする。


「これは?」


「あなた達地球人が忘れていた魔力の使い方をほんのちょっと思い出させたのよ。これであなたも魔法が使えるようになるわ…頑張ってね」


 頑張る?一体なにを…と言おうとしたところで。


「よし、ならばこれでの私の仕事も終わりね!コホン、では今からあなたを異世界に転移させます…あなたの第2の人生に幸のあらんことを!」


 といって聴く暇を与えてくれない。


  するとお姉さんが今度は別の詠唱を行いなにかを叫ぶ。

  その内容は、押し寄せるめまいによって聞き取れなかった。



 遠のく意識の中、ふと美花は思った。






 異世界なら、私のやりたいこと。見つかるといいな。

主人公のステータスをここに。

石田美花 18歳の身長164㎝

髪型はセミロング。



次回があったらよろしく。

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