強さのために
「ここでは積もる話もできませんので、場所を変えましょう」
そう言って歩き出したコウ殿の後ろをついて行く。緊張が表情に出ないように気を付けながら。
「さあ、着きました。どうぞお入りください」
そう言って案内された場所は、薄暗く、この荒れた町にぴったりの場所。ではなかった。
その反対。この荒れた街にもこのような場所があったのだなと驚くくらい、趣きのある所。異国の木造建築をイメージさせる、とても綺麗な旅館だった。高級旅館と言われるところだろう。
奥の部屋に通され、畳二枚分は離れて向かい合って座った。
「では、商談を始めましょうか」
「はい、よろしくお願いいたします」
このような始め方なのか、と初めての事に戸惑いながらも、私は深々と頭を下げた。ここからが勝負だ。
「と、その前に、翠蓮殿、今回はなぜ貴方がいらしたのか、聞いてもよろしいですか?」
きっと、この質問も、私を試しているのだろう。一言一句に神経を尖らせる。
「自分自身のためです」
「というと?」
「今回の商談、成立させれば我が国にとってとても利益のあるものです。しかし、成立させるのは難しい。そう聞きました。ならば、もし私一人で成立を成し遂げられれば、それは強さや自信へつながるでしょう。私は、強さも自信も、自分を高められるものを、欠片でもいいからこの手にしたい。そう思うようになりました。自分の弱さを嘆くより、強さを求めて我武者羅になる方が格好良いというものです。なので、この機会を逃すまいと思い、私からここへ向かわせてもらえるよう申し出ました」
「……ほう」
コウ殿は口出しをせず、最後まで静かに私の話を聞いてくれた。
こんなことを聞いても、商談の何になるのかは分からない。それに、今話した内容だけれど、私自身が強くなるための踏み台にしている、という事になる。機嫌を損ねられても文句は言えない。本気で成立させる気があるのならば、嘘でも、もっとましな事を言えば良いのに。でも、その考えは一瞬で消えた。きっと嘘を言っても見抜かれる。そう思ったから、ありのままを話した。
あくまで冷静に、相手の反応をうかがう。
「私は翠蓮殿のお役に立てそうです」
「……といいますと?」
「貴方の判断は正しかった。嘘をつく人に、心を許すわけにはいかないので」
コウ殿は微笑み、言葉を続ける。
「もし、私の気を引くための嘘をついたのならば、その時はこの商談、無かったことにしようと決めていました。しかし、貴方は事実を話した。とっさの判断だったのでしょう。よく話してくれました」
この人は、私の心の中を見透かしているようだ。どんなにうまく隠しても、ばれてしまうのだろう。私が、嘘と真実、どちらを話すか迷った事も、もちろん見透かされたようだ。
「では、この商談、現時点ですでに成立している、という事でよろしいのですか?」
「いいえ、まだです」
え……?
今の話の流れだと、そういう事だと思ったが……そうだな、そんなに簡単に決まるはずがないか。
「翠蓮殿。貴方にひとつ、頼み事を聞いて頂きたい。返答次第で、成立の有無を決めたいと思います」




