綺麗な人
一つため息をついて、これからの行動を考える。約束の日にちは今日。時間に指定は無い。いつでも来てくれ、という事らしい。ならば、今すぐに言っても問題は無いだろう。
とりあえず、町を歩いてみる。場所の指定が明確にされていない以上、こちらが探さねばならない。見ればすぐに分かる、と言われたはいいけれど、コウという者が室内にいた場合、どうすればいいのだろう。
さっきのような危険を避け、出来るだけ大きい道を歩くようにする。それでも、見るからに悪そうな輩がちらほら見られる。お願いだから絡んでこないでよ、と心の中で呟きながら、すれ違う人を横目で観察しながらひたすら歩いた。
すると、後ろから何者かに肩を捕まれた。気配が全くなかったので、その手が肩に触れられるまで、背後に人がいることに、全く気付かなかった。
心臓がうるさい。振り返るのが怖い。たったこれだけで怖がっているのに、今向かっている場所に辿り着いた時、どうなってしまうのだろう。
強くならないと。
一息置いて、肩に置かれた手を振りほどくように、後ろを振り返った。
「っ……!?」
「こんにちは、可愛いお嬢さん」
今、自分の顔が赤くなっていることが、鏡を見なくても分かる。ただのごろつきかと思っていたが、全くの見当違いだった。容姿の整った、とても綺麗な男性。格好良いと言ってもいいが、こんなに綺麗という言葉が似合う容姿の男性はなかなかいないだろう。不覚にも赤面してしまったが、落ち着こう。変に狼狽えるより、静かに落ち着きを取り戻す方が、こちらの余裕を少しは見せることが出来るだろう。
「旅人かな?この町は危ないよ?」
早く出ていった方が身のためだと言ってくれているのだろう。普通に心配されてしまった。
もっと、容姿すら怖い人なのかと思っていたが、そうでもなかった。きっと、怒らせたら怖いのだろうとは思うが。
とりあえず、ただのお嬢さんでない事を伝えよう。
「こんにちは。初めまして、私は翠蓮と申します。燕国から、商談のため、この街を訪れました。お伝えしていた人員と違いますが、本日は私一人、という事で、どうぞよろしくお願いいたします。コウ殿」
見ただけで分かるとは本当の事だった。他の人とは違う存在。そういう人を見つければそれがコウという者なのだろう。そう思って探していたが、まさかそちらから現れてくれるとは。好都合だ。
コウ殿は、興味深そうに、私を上から下までじっと観察してくる。
「翠蓮殿、あなたはお美しい。それだけで今回の商談、うまくいきそうですよ」
にこっと笑って見せてくれるが、その裏で何を考えているのかが全く読めない。アオの話が本当ならば、絶対に油断は禁物だ。しかし、商談がうまくいくのであれば、少しくらい無理はしてみよう。私の容姿だけで、少しでも成立に持っていけるのならば、願ったり叶ったりだ。自然な笑顔を作り礼を言った。