〜2016年9月16日夜〜
また俺は例の部屋に来ていた。
――正直それどころじゃない。
恐らく作業中に寝落ちしたのだろう。だが、正直こんなよく分からない世界に閉じ込められている場合ではなかった。一刻も早く目覚めて作業の続きをやらなきゃならない。
――そうだあの本。
この世界から出るには例の本があればすぐだ。そう思い、ひとまず本を探すために学習机を漁る。
しかし、どこを探しても黒い革のカバーの本なぞ見当たらなかった。さらにクローゼットの中身を全てひっくり返したり、テレビの裏、本棚の裏、ベッドの下、ありとあらゆる場所を探しても、どこにもそんな本は見つからない。
その本は、この部屋から完全に消失したのである。
――おかしい。そんなはずはない。
もしこの事実が正しければ、俺はこの部屋に完全に閉じ込められたことになる。出られる手段はない、ということだ。
「おい!ふざけるな!!とっとと出せ!」俺は叫ぶ。
俺はこんなところにいるわけにはいかない。早く作業に戻らないとアニ研が廃部になるんだ。
部屋の怪物に襲われるのはヤバいので、さすがにこれ以上壁は叩けない。
「糞!」俺は手当たり次第に部屋を出ようと模索する。そして、ドアの取っ手に手をかけた時だった。
ハンドルが、回る。
――ドアが開く!?
つまり、部屋の外に出られるということである。俺はドアを開けてついにこの薄汚れた部屋から外に・・・・・・
出られなかった。
そこにあったのは、またしても部屋。つまり、結局この世界からは出られていない、ということである。
――こんなことってあるかよ。
天国から地獄に突き落とされたような気分だった。
まだ出られない。閉じ込められたままだ。
待てよ、と俺はふと思う。もしかしたら、あの黒い本はこの部屋にあるかもしれない。そこで、ひとまず俺はこの部屋の探索を始めることにした。
この部屋は隣の部屋より若干広く、家具の配置も大きく異なっていた。恐らく隣部屋とは別の人の部屋だろう。
探索をしてみると、この部屋はどうやら小学生が使っているようだった。本棚は小学生用の教科書や参考書で一杯であり、ランドセルらしきものがクローゼットから見つかった。
さらに、この部屋にはゲームや漫画の類は一切部屋に置いていなかった。床には塵一つ落ちていないし、クローゼットの中の衣服は綺麗に畳まれていてほのかにいい匂いがする。
正直、隣の部屋を使っていた奴も見習って欲しいものである。しかし、俺はこの部屋がどことなく殺風景なものに見えてならなかった。まるで人形の部屋のようだったのである。
そして、探索を始めて数十分後のことである。
俺はついに黒い本をベッドの下に見つけたのである。
早速開く。中身は以前みたものとは大分異なっていた。小学生が書いたものだろう、それは文章の羅列ではなく日記のような形で綴られていた。一番の違いは、その本が日本語の、そしてちゃんと意味が通じる文章になっていたことである。
9月14日 曇り。僕のため、なんて嘘だ。こんなの、あいつらのためでしかない。僕はあいつらの操り人形じゃない。
9月15日 快晴。今日も退屈な一日が始まる。どうして僕は生きているんだろう。一体何のために生きているんだろう。つらい。死んでしまいたい。
9月16日 風強し。僕はあいつらのために生きているんじゃない。僕は一人の人間だ。
9月17日 あいつらが憎い。ナイフで心臓を滅多刺しにしてから腹を掻っ捌いて動物のエサにしてやりたい。生きたまま皮を一枚一枚剥いで死ぬよりつらい目に味あわせたい。
その日記は、ひたすら「あいつら」のことについて書かれていた。この日記の作者は「あいつら」のことを憎み、殺したいとすら思っているようだった。
前のページを読もうとしたところで例の眩暈が始まる。今回のものはいつも以上に強く、すでに立っていられないほどであった。
――――――まぁ、これで外に出られるのなら安いもんだ。
俺は、そのまま膝から崩れ落ち、そして、意識を失った。