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ROOM  作者: あへうん
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〜2016年9月16日朝〜

翌朝、俺は自分の部屋にいた。窓の外は普通の空だし、部屋はいつも通り綺麗だった。どうやら帰ってこれたようだ。俺は喜びよりも昨夜の出来事のせいで疲れの方が先に来ていた。


 「あら、今日は早いのね」


ユリエが窓から這い出してくる。相変わらず窓から入るのが好きな奴だ。


「お前の一撃はもう食らいたくないからな。おかげで毎朝健康的に起床できていますよ。」俺はひとまずユリエに心配させたくないがために言った。


「それはよかった。あんたはもっと私に感謝すべきね!」なぜか胸を張るユリエ。


「あ、ああ。ありがとう」


「何だか調子狂うわね」ユリエは不審そうに俺を見る。


「な、何でもないよ。さ、早く下に降りよう」俺は逃げるように下に降りる。




「具合悪いの?大丈夫?」


母が階段から降りてきた俺の顔を覗き込む。


「い、いや大丈夫・・・心配しなくていいから」母の目はごまかせないものである。


「そう・・・・・・あまり深くは聞かないけど、何かあったらいつでもお母さんに言ってくれていいのよ?」母はあくまでも優しく俺を見つめてくれる。


母が台所に向かったところでユリエが俺に聞いてくる。


「あんた、一体どうしたの?今朝から本当に顔色悪いわよ?」


「・・・実はさ、この前話した夢あっただろ?またそれを見ちゃってさ」


俺は昨日の夜の話を手短にユリエに話す。


「あんた、本当に疲れているんじゃない?そんな変な夢をいつも見るなんて。病院とか行った方がいいわよ」


「夢か……でも、あの夢は妙にリアリティがあったんだよな。妙に夢だ、と言い切れなくてさ」俺は昨日の怪物のことを今でもありありと思い出すことができる。あれは夢にしては現実感がありすぎる。


「夢よ」ユリエはやはりそっけなく言う。


「でも…」


「うるさい」


俺はびっくりした。ユリエは時々無茶苦茶なことをする奴だとは言っても、意味もなく人の言葉を遮るようなことをする奴ではなかったのだ。


「私が夢だと言ったらそれは夢なの。リアリティがあろうがなかろうが、それは夢なのよ」その時のユリエは、よく知る俺の幼馴染ではなかった。冷たく、まるで機械のように淡々と、俺を拒絶していたのである。


「みんな!卵焼きができたわよ!」まるでタイミングを見計らったかのようにレイコの声がした。


「あっありがとうございます」気付くと、いつものユリエに戻っていた。さっきの様子が嘘のようだ。


レイコはユリエに微笑みかけていう。


「ユリエちゃん、今日は朝早くないのね」


「あっはい。たまには朝練抜きでもいいだろって先生が。その代り夜はビシバシしごかれるっぽいですけど」


「試合よね?いつからなの?」レイコはユリエに聞く。


「今週の日曜です。正直自信ないですけど」ユリエは笑っている。


「ユリエちゃんなら大丈夫よ」


「あ、ありがとうございます!」


俺は母と幼馴染の会話を聞きながら、考えていた。


今朝のユリエの様子は少し気にはなるが、確かに俺の考えすぎかもしれない。彼女の言う通りあれは悪い夢だったんだ。


そもそも、昨日であの世界に閉じ込められてもあの本を見れば、外に出られることが分かったんだ。何も悩む必要なんてない。ないはずだ。


俺はそう自分に言い聞かせた。


「母さん!卵焼きのおかわりくれよ!」


俺はいつもの日常に戻ることにした。




「はああ…現実がつらい」部室に来て開口一番俺は暗かった。


「期末試験、ちゃんと勉強しないからでしょ?学生の本分は勉強なのよ?」


期末試験。俺の成績はひどいものだった。


「これで補修確定か……死にたい」


「全く、情けないわねぇ。普段から勉強をサボっていた罰よ」


「そういうお前は何点だったんだ?」


「ふっふーん」ユリエはドヤ顔で俺に答案用紙を見せつけてくる。満点から数えた方が早い数のオンパレードだった。


「まじかよ……」


さすがの文武両道美少女である。


「あっおはよー。一年生はテスト返ってきたんだね」


カオリ先輩は眠そうに眼をこする。


「カオリ先輩といい、ユリエといい、何でうちのアニ研は成績いい奴が多いんだよ」


俺は成績弱者のやっかみを呟く。


「ネコミちゃんも成績いいから、実質あんただけね」ユリエは可哀そうな人を見る目で俺を見る。

「そ、そんなぁ…」悔しいが、何も言い返せないのが弱者のつらいところである。


「それよりさぁ、この部室にもそろそろ布団が欲しいよね」カオリ先輩は横になりながら緊張感のかけらもないことを言い始める。


「それは先輩だけですよ」俺は言う。


「第一、先輩はゲームのし過ぎなんですよ!昨日も言いましたけど、授業も行かずそんなことばっかりやってたら、いつか足元掬われますよ!」


「いいよ私成績いいし」厳しいユリエに対してもマイペースさを崩さないカオリ先輩であった。


「カオリ先輩だけじゃないです!皆さん最近だらけすぎです!このままじゃアニ研はダメになっちゃいます!」


「ユリエ様お母さんみたい」先輩がからかう。


「どういう意味ですか!」


「いや、お母さんというより嫁ですよね。毎日尻に敷かれたい」俺はフヒヒと笑い声をあげる。


「そこ!変態発言禁止!」言いながら、ユリエは俺の脳天に綺麗な一本を決めた。


「みんなお揃いみたいだにゃ」ネコミの声が聞こえる。


「おっネコミ。今日はちょっと遅かったんじゃないか?」俺は床を転げまわりながら言った。


「会議だったんだにゃ」


ネコミは俺に一瞥もくれない。その表情は真剣そのものだった。


ネコミのただならぬ様子に他の部員たちも心配する。


彼女はまっすぐ部室のテーブルにある一枚の紙を置いた。


「率直に言うにゃ。これは学校側からネコミ達に送られてきた通知書にゃ。これによれば、アニメーション研究会は来年で廃部とすると書かれているのにゃ」


時間が止まる。


「は、廃部!?嘘でしょ?」ユリエが驚いたような声を上げる。


「嘘でも間違いでもないのにゃ。このままでは我がアニ研は廃部になるにゃ」ネコミはあくまでも真面目な顔である。


「廃部・・・・・・」俺は呟いた。廃部ってことは、俺は来年居場所がなくなるってことか。みんなと放課後だらだらとだべっていることもできなくなるってことか。


「何で?そんなの横暴だよ!抗議しに行こう!ユリエは立ち上がる。


「まってにゃ」


ユリエを制止するネコミ。


「これは、全て私の責任なのにゃ」


「どういうことだ?」俺はネコミに聞く。


「ネコミが後輩を育てることなく、全部自分でやろうとしていたからだにゃ」


どうやら、ネコミの話によるとアニ研の出展を全てネコミがやっているせいで来年ネコミがいないときに文化祭で出展する見込みがないことから廃部にする、と学校側から言われたらしい。


「だったらさ、話は簡単じゃないか」俺はネコミの話を聞き終えるという。


「え…?」ネコミは俺の方を向いて驚いた表情を浮かべる。


「みんなでアニメ製作を一から始めればいい。今年の出展が部員全員で作ったものなら学校側も文句は言えないだろ?


「今年の文化祭って・・・一週間切ってるじゃない!間に合うわけないわよ!」ユリエは当然の意見を言う。


「それでも、やるしかない。俺はこのままアニ研が廃部になるのは嫌だ」


「それはそうだけど…。カオリさんはどう思うんですか?」ユリエはカオリ先輩に話を振る。


「いいんじゃない?要は私たちが少し本気を出せばいいんでしょ?」カオリ先輩は眠たそうに言う。


「私、絵なら割と書けるからひとまず方向性決まったら教えて。一日で仕上げて見せるから」


「で、でもやっぱり無茶苦茶ですよ」ユリエはまだ反対しているようだ。


「でも、できなきゃ廃部だ」


「そ、それは…」


「大丈夫。皆で力を合わせれば絶対できるよ」

再三の説得の末、ユリエは何とか納得してくれた。


そして、俺達はその日の夕方はギリギリまで残ってアニメ製作の具体的なプランを詰めた。もっとも、ネコミが作った短いアニメが想像以上に出来がいいので内容はそのままにして、作画をカオリ先輩に任せる形で落ち着いた。


カオリ先輩は想像以上に絵が上手かった。絵の動かし方も調べれば何とかなるらしい。さすがである。


とはいえ、プランが具体的に煮詰まっていないので先輩はネトゲに戻るために先に帰ったが。


 あとはユリエがスケジュール管理をやることになった。彼女は明日剣道の練習試合が控えている。あまり苦労をかけられないので仕方がない。そして、俺が全体管理とサポートである。こういった形で落ち着きひとまずその場は解散となった。


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