表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ROOM  作者: あへうん
5/17

〜2016年9月15日夜〜

目が覚めると、俺はあの部屋にいた。


――戻ってきたのか。


羽虫が這いまわるような音、窓の外の虹色、散らかった見知らぬ部屋。何もかもあの頃のままだった。


 ドアもやはりぴったり閉ざされている。つまり、またしても俺はこの部屋に閉じ込められた、ということである。


俺はユリエの言葉を思い出していた。


――要はただの夢でしょ。


そう、これはただの夢なのだ。夢なのだから、別に何も怖くないのである。


俺は安心すると同時に、腹が立ってきた。どうせ夢なんだったら、もう少し楽しい夢を見せてほしかった。例えば可愛いおにゃのことずっとイチャラブできる夢とか、いきなりものすごい強い能力を手に入れて無双できる夢とか。何が悲しくてこんな気味の悪い夢を見せられなきゃならないのだ。


我ながら理不尽な怒りだが、どうせ夢なのだから関係ない。


俺はいつまで経ってもびくともしないドアを見る。いつまでたっても出られないこのドアにすら腹が立ってくる。


俺は怒りに任せて本棚を持ち上げようとした。しかし、動かない。次に、本棚の上にあるゲーム機に目をつける。重さは充分。


――俺の渾身の怒りを食らいやがれ!


壁に思いっきりゲーム機をぶつけた。ものすごい音が聞こえたが、壁は案の定びくともしなかった。


それでさらにむかっ腹が立った俺は今度は部屋にあるテレビをぶつけようと部屋の隅の小型テレビに歩み寄った。


――ズゴアアアアアア!!!!


突然、凄まじい音がどこかから聞こえた。獣のうなり声と言えばよいか、地響きというべきか。何とも形容しがたい音が聞こえたのである。


直後、足音のようなものが聞こえた。いや、足音というよりかは何かを引きずっているような音だった。そして、その足音は俺がいるこの部屋を目指していたように思えた。


――誰かが来る。


身の危険を感じて俺は咄嗟に近くのクローゼットに隠れた。


しばらく足音が聞こえた後ずっと開かなかったドアがパッと開く。そして、俺はその不気味な足音の正体を見た。


それは、醜い怪物であった。灰色と緑色が混ざった鱗のような皮膚に、鋭い鉤爪。その足はナメクジのような形状をしており、クローゼット越しにも分かる悪臭を漂わせていた。顔のような場所には数十個はあろう目があり、その黒目は好き勝手動いていた。大きく開けた口からは涎のようなものが垂れている。


俺は恐怖心から叫びそうになるのを必死にこらえて、その怪物にばれないように息を殺す。


怪物はその眼をグルグル回しながら、部屋中を這いずり回っていた。その恐ろしさはまさに形容し難い恐怖だった。俺は何度も気が狂いそうになる。


――せめてこの悪夢を早く終わらせてくれ。


俺はぎゅっと固く目を閉じた。


永遠ともいえる時が経っただろうか、怪物はどうやら獲物を捕らえることを諦めたみたいだ。這いずる音は次第に遠ざかりそして、聞こえなくなった。


俺は息も絶え絶えにクローゼットからゆっくり出る。


部屋の中はひどい有様だった。怪物が這った跡に粘液がこびり付いており、そこから腐った卵のような悪臭が漂っていた。


怪物の気配は完全に消えていた。


俺は恐怖から解放された安心感からだろう、文字通り膝から崩れ落ちた。


危機は去った。


小一時間ばかりそうしていたであろうか。頭の冷静さを取り戻した俺は、さっきの怪物について考えていた。


さっきの怪物は夢の中にしては、随分リアリティがあった。一体あれは何なのだろう。


少なくとも一つ言えることはあの怪物を刺激しないためにもあまりこの世界で好き勝手は出来ない、ということだ。

ならば、と俺は自問自答してみる。ならば、俺はどうやって部屋から出ればいいのだろう。前にこの部屋から出れた時は、確か変な文字がいっぱい書かれた本を読んで……

そうだ、あの本だ。

俺は周りを調べてみる。怪物の通り跡のせいでかなりぐちゃぐちゃになっているが、床にポツンと落ちているあの黒皮のカバーを見つけた。

これだ。この本を読んで、気付いたら朝になっていたんだ。

この本を読むとこの世界から出られる。なぜかは分からないが、そうなっているようだ。

俺は本をめくってみる。

本の中身は少し変わっていた。前の時のように変な文字列ではなくそこには確実に日本語が書かれていた。もっとも、内容は「あろいえおあいおあ」とか「うぇれうゆりおぽとえ」といった文章にもならない文字列でしかなかったが。


しばらく文章を読んでいると、眩暈がしてくる。恐らく始まったのであろう。


――これで現実に帰れる。




そんなことを思うが早いか、崩れ落ちて俺は気を失った

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ