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ROOM  作者: あへうん
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〜2016年9月15日朝〜

ここら辺は飛ばしても大丈夫です。

「起きて!起きなさいよ!朝!早く!」


目覚まし時計が鳴るより早く、俺は目覚まし時計よりうるさいそいつに起こされていた。


「何だユリエか・・・・・・」俺は再び布団に沈む。


「何だユリエか、じゃないわよ!一体何時だと思ってんの!?起きなさい!起きろ!」


さらに布団を被り出てこない俺の腹に細長いものが直撃する。


「ぐぼあっ!」腹への衝撃で思わず声がこぼれる。


「ほら早く起きないから」俺を見下ろす形でベッドに乗るユリエ。


「いや、いくらなんでも朝っぱらから竹刀での突きは反則だろ・・・・・・」俺は時計をちらりと見る。


「てかまだ朝の5時じゃねぇか!こんな時間に起きられるか!」俺は至極当然の意見を述べる。


「あっ……」ユリエは時計を見て、しまった、という表情を浮かべる。


「ゴメン!今日朝練あるんだった!それで早く起こしちゃった、ていうか…」手を合わせて謝るユリエ。


「それで何で俺を起こすんだよ!」


「いつもの習慣?」


ユリエは毎朝必ず俺を起こしに来る。それ自体はありがたいのだが……


「しかも、また窓から来たのかよ!いい加減普通に玄関から入ってこいよ!」


「嫌よ!恥ずかしいじゃない!」


「何だそれ!」


なぜか必ず窓から入ってくる。しかも、俺がまだ寝ていると竹刀で思いっきりひっぱたいてくるので、身体がいくつあっても足りない。


「分かったよ…もういいよ」俺は諦めたように布団を被る。


「今日のは本当にごめんね。今度何かおごるからさ」笑ってごまかそうとするユリエ。ユリエは笑うとめちゃめちゃ可愛いので、大概この笑顔で俺は許してしまうのである。


「しかし、お前も大変だよな。毎朝必ず俺を起こしに来てくれるし」


「べ、別にいいでしょ!」ユリエはフン、と鼻息を立てる。


 ――ちょっとからかってみよう。


「なんでそうまでして俺を起こしてくるの?しかも毎日」


「えっ何でって……」


「ただの幼馴染にしてはやけに世話を焼いてくれるっていうか?何かそこまで俺に興味があるのって何か変だなぁ、って思って・・・」


「……」


見ると、ユリエは伏し目がちになって、顔を真っ赤にしている。


「あのー…ユリエさん…?」


その瞬間、ユリエの竹刀が消える。


――き、消えた!?


「胴!」


掛け声とともにお腹に竹刀が当たる感触。


「一本!」俺は心の中でそうつぶやき、そのままベッドに沈んだ。




朝七時。俺はようやくいつもの朝を迎えた。ユリエはすでに朝練に出かけているようだ。俺は竹刀を振り回す幼馴染に追い掛け回されることのない平和な朝を満喫していたのである。


「あら?今日はユリエちゃん来てないの?」


台所に行くと、レイコが真っ先に俺に聞いてくる。


「あいつは朝練。試合近いらしいから、朝と夜は練習するみたい」そう言いながら、俺は席に着く。


「ユリエちゃん、偉いわね。でも食卓にいないとちょっと寂しいわ」


ユリエが両親が共働きなので朝は基本的に食べない。ユリエがこれをレイコに話したところ一緒に食べてはどうかと提案し、以来ユリエは高校に入ってから俺の家でよく朝食を一緒に食べている。


「まぁ、試合は土曜だけらしいし、すぐまた戻ってくるよ」


「だといいけどねぇ。やっぱり朝ごはんはしっかり食べないと、だし」レイコは焼き上げた卵焼きを俺の皿に乗せながら言う。


「まぁ、朝食の分は俺がアイツに持っていってやるから大丈夫だよ」


「そう。ならいいんだけど」


レイコは料理が一段落して朝食の席に着く。


「ところで、あなた達って付き合っているの?」


俺は思わず飲んでいた牛乳を噴き出した。


「母さん!何急に聞いてるんだよ!」咽せながら、さらに牛乳を飲む。


「いや、急に気になっただけ」レイコはケラケラ笑っている。


「でもそうじゃない?あの子毎朝あなたの部屋に行ってるでしょ?もしかしてその時に変なことでも・・・」


「してねーよ!」俺ははねのけるように母の言葉を遮る。


「いいじゃない!別にその年齢なら恥ずかしがることでもないわよ」母はそういって少し遠い目をする。


「でも、やっぱり母さんは嬉しい。あなたがこんなに大きくなって、自由に恋愛したり、自由に勉強したりしてくれるということが嬉しい。自由に生きるっていうのは、本当に難しいことなの。誰しもが自由に生きられるわけじゃない。だからこそ、あなたは精一杯自由に生きなさい」


「きゅ、急に何言い出すんだよ母さん・・・・・・」


 僕は急に真面目な話をし出す母の話にどことなく照れくささを感じながら、朝食を腹に納めるのであった。




放課後。授業を終えて真っ先に部室に来た俺を真っ先に迎えたのは猫耳をつけた幼女、もとい我らがアニ研部長のネコミであった。


「おっネコミ。今日も早いな」俺は小さな猫耳娘に挨拶する。


「まだにいにいだけしか来てないのかにゃ?」ネコミは眼鏡をかけて椅子に座っていた。


「メガネっ娘猫耳娘来たーー!!」そのネコミの様子を見て俺はつい叫ぶ。


「そこ、黙っててにゃ」ネコミは厳しく指をさす。


ネコミは眼鏡をかけるときは集中モードになる。このモードでのネコミは冗談が通じないので俺は苦手だ。可愛いけど。


「今年の文化祭の資料をまとめているのか?」


一週間後に我が校で文化祭がある。我らがアニ研は自主製作のアニメを作ることになっている。もっとも、三分程度の小規模なもので本格的なものではない。


「そうだにゃ。結構スケジュールはギリギリだったけど、これなら何とか間に合いそうだにゃ」予定表を一瞥してネコミは言う。


ネコミは優秀である。今回の出展は実はネコミ一人でほとんど全ての仕事をやっている。「なぁ、やっぱり何もやっていないのは申し訳ないよ。何か俺達にできることとかあれば…」


さすがに何もしていないのは非常に申し訳ない。

「いいのにゃ。これはネコミにとって最後の文化祭だから、精一杯自分でやりたいのにゃ」


「…そっか」


ひとまず本人がそう言っているので大丈夫だろう。今年の出展も何とか間に合うらしいし、文化祭の件はネコミにひとまず任せることにした。


「あっおはよう…今日もいい天気だね~」カオリ先輩は椅子を二つ並べてお昼寝中だった。


「いや、もう午後ですよ。またネトゲやってたんですか?」俺はカオリ先輩と話すことにした。


「うん…そんなとこ」先輩は眠そうに眼をこすっている。


「そういや先輩、授業全然行かないんですよね?単位とか大丈夫なんですか?」


俺はずっと疑問に思っていたことを先輩にぶつけてみた。


「授業?ああ、そんなものあったね」そう言いながらカオリ先輩は鞄から何枚かの紙を俺に渡してくる。


紙はテストの答案用紙だった。百点、九十点、九十六点。高得点のオンパレードである。


「それ今日返された期末テスト」


そうだった。このカオリ先輩は超ハイスペックだということを忘れていた。


ネコミから聞いた話では授業に出なくてもほぼ学年トップの成績をキープしているので授業に行かなくても先生から文句を言われないらしい。


「まぁ、テストなんてある程度パターンが分かればネトゲより簡単だって」カオリ先輩はいつもの悪戯っぽい笑顔で言う。そして、実際に結果を出しているので文句は言えない。


「そんなことじゃ、いつか足元掬われますよ」ドアの前にユリエがいる。


「あ!ユリエ様~!」カオリ先輩はユリエに思いっきり抱き着く。


「ちょ、ちょっとあんまり抱き着かないで下さいよ…」そう言いながらもユリエは満更でもなさそうだ。


「甘い…百合空間だ…」俺はボソっという。


「そこ!変な妄想するな!」ユリエの強烈な一撃が炸裂。


「ありがとうございますっ!」


感謝の言葉を述べて俺はいつものように沈没する。



アニ研部室は、今日も平和であった。

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