〜2016年9月14日昼〜
都合により三話連続投稿します。
「要はただの夢ね」
退屈な授業がようやく終わり、ようやく待ちに待った放課後である。俺は部室に向かう途中で幼馴染に会い、昨晩の奇妙な体験を面白おかしく話していたところであった。
まさに喉元過ぎれば何とやらであるが、あんな変な体験は今後一生ないし、話さない方がもったいない。
「ユリエは面白みがないなぁ、本当に」
ユリエは俺のお隣さんかつ幼馴染である。気品のある顔に絹のような黒髪をポニーテールにしている。成績優秀なうえ、中学時代は剣道で全国大会の常連でもあった文武両道少女である。さらに街を歩けば十人中十人が振り向く、絶世の美女だ。外面だけ見れば彼女はただの完璧少女だが…
「普通こういうのは、俺が異世界に連れ去られた、とかいくらでも面白くできるだろ」
「いや、でも夢でしょ」にべもなく俺の幼馴染は言う。
「おいおい、つれないなぁ。ま、そこがお前の可愛いところであるんだけど」俺は自分史上最高のイケメンボイスで愛の言葉を囁いた。
「きもい!」
次の瞬間、頭に衝撃が。
「ぷげらっ」謎の断末魔とともに俺は床に崩れ落ちる。
「一本!」部室の入口の辺りにいた茶髪の女の子が審判のように大げさに手を上げて言う。
そう、ユリエは、ツンデレである。そしてツンの時に竹刀で殴りかかってくる困った癖があるのである。そしてなぜか俺にしか振るわない。理不尽である。ちなみに、ユリエは腕は確かなので実際は音だけでそこまで痛くないのは内緒だ。
「に、にいにい!大丈夫なのかにゃ?保健室行くにゃ?」顔を上げると心配そうな顔を向ける幼女がいた。
この幼女こそ何を隠そうこの「アニメーション研究会」、通称「アニ研」の創設者にして部長のネコミである。
ちなみに、本名はなぜか教えてくれない。高校生にあるまじき低身長に頭の上にはぴょこんと猫耳が生え、制服はぴったりの物がないせいでナチュラルに萌え袖である。その癖実は最年長の高校三年生であり、リアル合法ロリである。そして、このアニ研部員の中でかなりの常識人でもある。
「だ、大丈夫だ……だが、奴の戦闘力は桁違いだ…!俺達には…倒せ…ない……」何かそれっぽいセリフを適当にかっこよく言ってみる。
「何?また食らいたいの?」
「それだけは勘弁して下さい」土下座する。
「に、にいにい、戦闘力って何なのにゃ?」話を理解していないネコミが可愛い。
ふと部室の入り口の前で笑いをこらえている茶髪ショートカットの女の子に目が行く。
「あっカオリさん。おはようございます」俺は女性に挨拶をする。
「おはよ~。みんな今日もおつ~」カオリ先輩は誰にともなく挨拶をする。
この人は俺の1個上のカオリ先輩である。茶髪ショートカットで人並みに化粧もしている、という外見だけならただのイマドキJKであり、クラスのリア充集団に紛れて放課後カラオケとか行きそうである。
しかし、こう見えても彼女は現役バリバリの廃人ゲーマーである。朝までゲームをやって昼までずっと寝ているので授業はたまにしか来ない。そのため彼女に対する「おはようございます」は正しい使い方なのである。単位とか大丈夫なのだろうか。
「ユリエ様も本当よく彼と絡むよね~。実は好きなんじゃないの?」先輩は小学生のノリでユリエの肩を叩く。
「からかわないでくださいよ!べ、別にこいつのことなんてこれっぽっちも好きなんかじゃ・・・」
カオリ先輩はユリエのことをなぜかユリエ様と呼ぶ。
「おっ出たよ本場仕込みのツンデレ!とはいえこれは攻略までまだまだかかりそうですねぇ」悪戯っぽく先輩は笑っている。
「何の本場ですか!」
「カオリさん、あんまりからかわないで下さいよ。犠牲になるの俺なんですから」
俺は予防線を張っておく。
「おっとそうだったゴメンね」くっくっくっと笑いながらユリエの肩を叩く先輩。
以上の三人に俺を加えたのが、この「アニ研」の全メンバーである。なぜ俺以外の全員が女性なのかは俺にも分からない。単に俺の運がよかっただけ、とでも言っておこう。
――何という勝ち組。
普段は放課後にこうして皆で集まって、何をするでもなく部室でグダグダ青春を浪費する。
「そういやさ、今日も新しいゲーム持ってきたんだよね~。みんなでやろうよ」先輩が今日の話題を振る。
カオリ先輩の本業はネトゲだが、レトロゲーム・洋ゲーなどもかなり詳しく、色々な話をしてくれる。最近はカオリ先輩の中でクソゲー祭りなるものが開催中らしく、古今東西ありとあらゆるクソゲーをアニメーション同好会のメンバーにやらせてくる。最近は農民が一人で悪代官を倒しに行く、というよく分からないゲームをクリアするまで延々とやらされていた。
「か、勘弁して下さいよ~!またクソゲー持ち込んだんですか~?」俺は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
「ねえねえ!また面白いゲーム持ってきたのかにゃ!!ネコミ、やりたいのにゃ!」目をキラキラさせるネコミ。
「よーし、ネコミちゃん。やる前にまずは下ごしらえだよ。このカセットをふうふうするんだよ~」先輩は子供をあやす口調で言った。先輩が姉にしか見えないが、ネコミの方が年上である。
「ふうふう」言われた通りやるネコミ。
「何という美しき百合ワールド…」俺は後ろから茶化す。
しかし、ユリエの「地獄に落ちろ!」という声とともに俺の身体に見事な胴が入り、俺は再び床に沈むことになったのであった。