とある鴉の訪問(男視点)
二度目の対面で、人間は俺の姿に目を丸くし怯えていた。その姿は年相応でなんとも可愛らしかった。あの女にはなに可愛さだ。なぜ幼少期とはこのように可愛いのだろうか。けれど、その思いも思いのほかすぐに消えた。何よりこの人間の言動はいささか年相応ではなかったからである。すれば見れば見るほど先ほどの可愛さが消えていく。むしろ怒りしか湧かなくなってきた。けれどやはり湧水のように沸き起こる可愛さ。疑問に思ったがその答えも直ぐに出た。そういえばこの人間、黒髪黒眼だった。俺は黒髪と黒眼が何より好きで愛している。ぶっちゃけそれを見て飯が三杯いける。けれど、その黒髪を染めようものなら俺は全力で妨害するだろう。黒髪以外認めない、黒髪最高。黒髪万歳。
どうやら人間の親はいないようである。しかしおいそれと逃げるなど出来る筈が無い。俺にも目的がある。しかたがないのでお邪魔することにした。それになにより、この人間の事をよく知らなければならないのもある。けれど人間は俺の腕を掴み、行く手を阻む。なぜだ人間! 俺の魅力でそこを通せ!! 念じるも虚しく、俺の行動はそれ以上進まなかった。
奴が居たからである。
奴である。毛むくじゃらで、しゃがれた声で意味不明な言葉で鳴き叫ぶ下等生物。俺たちと同族かと思いきやちゃっかり人間に取り入り餌をくすねるずる賢さ、あっぱれだが心底ムカつく奴だ。しかし、俺はいや俺たちはこいつら下等生物が嫌いだ。何より嫌いだ。あいつらは俺たち動く物に興味がある。しかもそれが遊び目的なのが納得いかない。食物連鎖ならば最悪甘んじで受け入れよう。しかし、捕まったら最後ですぐにそいつらは次の標的へと一心不乱に向かうのである。意味が分からない! 全く持って下等生物の思考が理解出来ない!!
なんで人間はこんな毛むくじゃらで言葉も理解できないのを愛するのか。それが分からない。けれど今の俺は丸腰である。それに一人。一人で退治出来るほどの力量などたかが知れている。それになにより、奴は俺の姿を見て舌舐めずりをしたのである。完璧に俺は標的にされた。終った!!
「また会いにくるよ!」
俺は冷や汗をかきながらその場を後にした。その後爆走して、あの恐怖を拭い去ろうとした。
いや怖かった。死ぬかと思った。殺されるかと思った。
なにがまんじゅうだ、なにが可愛いだ。俺の方が可愛い。可愛いし利口で賢い。育てるなら俺にしろ人間め。