とある鴉の恩返し(男視点)
さて、俺がまず先にする行動とは何を隠そうあの人間に向ける礼であった。一応礼儀として必要だと思う。そうと考えれば善は急げである。よし、人間も俺たちも大体考える事は一緒である。食べ物を与えれば大抵は喜ぶ。これならば簡単! 俺はそう思い優々と晴れ渡る空を飛び歩く。
俺は玄関近くの道に食材を置いた。そして近くの止まり木で様子を窺う。するとあの時の人間が姿を現した。きっと人間は俺が置いた食材に喜びで舞い上がるであろう。そしてきっと俺に対して尊敬の意を感じるだろう。
さながら俺は人間で言う所の足長おじさんポジションである。ああ、なんたる良い響きだ!!
だがしかし、俺が想像していることは無かった。人間は俺の置いた食材を見るやいなや溜息を零して身を翻して家へと戻ってしまった。これには俺は驚いた。
(もしかして照れたのか?)そう考えたが次の瞬間、人間の持っている物と行動によりその考えは粉々に砕け散った。人間は無言で何と俺が置いていった食材を片付け始めたのである。
「いったい何が?!」
俺は思わず叫んでしまう。しかし人間は答える事は無かった。しかもさらに人間が増えた。人間とやや顔が似ているうえに年増なのできっと人間の母親なのだろうと考えつく。とりあえず俺は一連の流れに酷いショックを隠しきれない状態だったが、なんとか見届けた。
人間二人が家の中へと入っていくのを静かに見送り、俺は一人悶々と考えを巡らせる。
一体全体なにがいけなかったのであろうか? そう、なにがいけないのだろう? だって食べ物だろう。食べ物。人間は食べ物を食べないのだろうか。いやまさか、そんな馬鹿な筈ない。……え、本当に?
いやいや、そんな訳が無い。きっと事情があるのだろう。……ハ、そうか。きっとあの人間の言えば皇族なのだ。となれば今の行動もすぐに答えが分かる。皇族が道端に置かれた食べ物など食べるであろうか。いいや無いだろう。ならば直談判しかないだろう。ならば行こう、いざ行かん! 待ってろ人間。首を洗って待っているが良い!!