開始の合図
「ゲームをしよう、お嬢さん方」
寝ぼけ爺さんの言葉を合図に、わたしの手に一羽のフラミンゴが握られていた。流石のこれにはわたしも目をギョッとさせて手を放してしまった。手に残る生温かく、鳥独特の短いトゲトゲとした毛の感触になんとも言えない不可解な気持ち悪さを抱えながらフラミンゴを睨みつける。するとフラミンゴは目をキョトンと丸くしてわたしを物珍しげに見つめてきた。しかし、それと同時に眉を寄せて不満げな声を上げ始める。
「おいおい嬢ちゃん、いきなり手を放しなさんな。
流石のオイラも驚いちまう」
飛び出て来たのは少し訛り口調の青年の声であった。どうやらこのフラミンゴ、オスのようである。鳥でオスだと思うと、あの迷惑の現況である帽子屋の男と似た共通点があり、わたしは思わずしかめっ面でフラミンゴを見つめてしまう。けれど、フラミンゴはわたしの視線など気にもしないで当たりをキョロキョロと忙しなく見回していた。その姿を見ていると、なんだか自然と男を気にして憤慨している自分がアホらしく思えてきた。そして、そこでジワジワと今更ながらの疑問を口にした。
「驚いた、フラミンゴが日本語を喋った」
あまりにも小川のような速さで繰り広げられた為に反応が遅れてしまった。フラミンゴが口を聞いている。いやしかし、不思議の国ならば普通のことではないのであろうか。いやいや、しかしフラミンゴが喋るなどの描写があっただろうか。けれど、現に目の前のフラミンゴは実際に青年の声でわたしに語りかけた。しかもわたしに抗議の声を上げたのである。鳥の癖に。いや、ここで鳥について怒りを向けるのはこのフラミンゴに対して良くないであろう。鳥の文句は一先ずここまでにしよう。
そんなわたしの疑問に、フラミンゴはフフンと得意げに鼻を鳴らすと、バサッと両翼の翼を広げた。
「おいおい、何言ってるんだ?」
フラミンゴは小馬鹿にしたように笑いながら右翼を器用に曲げてわたしを指差した。
「今の嬢ちゃんだって、猫じゃないか」
「それもそうね」
わたしは納得のように頷いた。するとフラミンゴは嬉しそうにうんうんと頷いた。そして思い出したかのように両翼でポンと合わせて首を傾げた。
「そういや、日本語ってなんだい猫の嬢ちゃん?」
「気にしないで。
…………けど、喋れるなら好都合ね」
最後に呟いた言葉は丁度よく強い風によりフラミンゴの耳に入らずに済んだ。ホッと息つく中、黙り続けていた寝ぼけ爺さんの方へ顔を向けた。
ホケホケとまるで孫を見る目でわたしを見つめていた寝ぼけ爺さん。わたしの視線に気がつくと、閉じていた目をそっと開けて、優しく問いかけた。
「どうしたんじゃ?」
「それで、肝心のゲームの内容は?」
なんなくこれから起きるゲームには予想がつくが、張本人の口からが早いと思った。それに予想してふんぞり返っていたら、実は違ったなど目も当てられない展開は嫌だからである。赤っ恥をかく前に未然に防げるものは未然に防ぎたい。そんなわたしの思いを察したのか、寝ぼけ爺さんは大きな声で笑う。
「そりゃあ、勿論。
”クロッケー”じゃよ、チャシャ猫」




