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大鴉の恩返しは傍迷惑  作者: noll
日常編
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とある鴉の話(男視点)


 なぜあのような下等生物が愛されて俺のような賢い生き物が軽蔑されなければならない! ああ、思い出しただけでも腹立たしい光景だ!! なぜ人間はあんな毛むくじゃらを愛しているんだ、分からない。ああ一生知りたくも無い。

 けれど今の俺には文句を言う暇など無い。なんとしても目的を全うせねばならぬ身。一体全体どうしてこんなことになってしまったのか。きっとそれを考えるならば、およそ400年前ほど時を遡らないといけない。

 400年前の俺は今よりも数倍愛らしく、クリクリの瞑らな瞳で世の女性諸君を悩殺していた。勿論今でも女はこぞって寄ってくる。しかし俺は女よりも世界が気になった。まあ、男児ならば年頃の発想など十をもあるだろう。俺はその倍の百ほどあった。やりたいこと尽くしで頭がいっぱいであったその日、俺は下げたくも無い頭を下げに伯父の所まで出向いたのである。

 俺が来て早々、頭を下げる姿に周囲は唖然と騒然に包まれた。なんだなんだと言い俺と伯父を囲うように座り込む始末。面倒な事になった、と思うと同時にこれは好機だと感じて俺は周囲が口を開く前に大声で熱弁し始めた。


「俺が生まれて未だ5ヶ月、今宵の月夜は何と美しい事か。

今まで育ててくれた恩もあり、コレから先のことを考えればきっと伯父は止めるだろう。

だがしかし、今から話す今後についてはどうか広い懐で聞いて聞き入れてくれ。

何を隠そう俺たちには翼があり、何処までも続く空がある。

ならば俺たちはどうするか、考えれば一目瞭然であろう!」


 長々とする前置きを話、周囲を囲む連中らが混乱し始めた事をしめしめと忍び笑いして俺は本題を伯父に告げた。


「明日から400年ほどお暇を頂きたい!」


「ふざけんな青二才」


 まさかの即答の返事であった。しかし俺も負けるわけにはいかない。これは闘いなのである。熱い闘志を燃やし、俺は柄にもなく涙を浮かべさらに熱く語る。


「おかしいだろう!

俺は生まれてすぐに嫁と結婚するなど言語道断!

なぜ生まれて早々人生の墓場一直線コースへと足を向けなければならない!!

笑わぬ鳥も今回ばかりは俺の生涯をあざ笑うだろう!!!」


 俺には脳裏に近所に巣を作っている鶯のことを思い出し苛立った。あの鶯の奴、一度餌を横取りしただけで何度も俺の邪魔をしてくる。まったくなぜ人間はあんな糞みたいな鳥の声を聞いて風流だなんて思うのだ。訳が分からない。ただの鳴き声だろう。俺の鳴き声の方が百倍も千倍も可愛いし素晴らしいのに。

 そんな一人怒りの闘志を燃やしていると、伯父が呆れた様な溜息を零しながら、首を振った。


「知らん、諦めろ」


「いいや、諦めん!

この広い世界があるのになぜ箱庭に閉じ込める必要がある。

俺は男児だ!

断じて女児になった覚えも記憶も無い!!」


 そこまで言ってようやく伯父が言葉に詰まる。そしてモゴモゴと動かし、何を言うのか待っていれば伯父は意味深な溜息をこれ見よがしに吐いたのだった。

 なぜだろうか、無性に腹が立つのは。

 ここでようやく伯父が話す気になったのか、俺を切れ長の細い目で睨んだ。素晴らしい眼光である。流石は俺たちの長である。


「ならばその400年の旅をし、お前は嫁を取るのか?」


 俺はそう言われ思わず口を閉口した。嫁を取る。それはつまり子を宿し、さらには生涯の愛とか誓い合い最終的には一人の相手と付き合わねばならない。自由を愛する俺にはなんと面倒であろうか。今のご時世ならば一夫多妻制でも取り入れればいいのに。そして自分の子だか分からなければいいのに。そもそも愛だなんて生まれて五ヶ月の俺に一体何が分かるんだ。このクソ爺。俺が凄みを利かせるも俺より数倍生きている伯父には可愛い物。どこ吹く風で気付けば煙管を加えて煙草を吸い始めていた。本当に腹立たしい。

 しかし俺は世界が諦めきれない。見て見たい。なにが子孫繁栄だ、なにが少子高齢化だ。知らん、知った事か。生まれて五ヶ月の俺になにを期待する。だがそんな事を言ったら全て終わる。全てが水となり泡となり消える。それだけは決してあってはいけない。とするならば、俺の行動は一つだけである。


「もちのろんだ!」


 最近俺たちの間で流行っている言葉を交えて言えばなぜか殴られる始末。おかしい、なにを間違えたのだろうか? 俺が頸を傾げていると、伯父は心底呆れた溜息となぜか可哀想な者を見る目で俺を見た。本当に俺が何かしたのであろうか? ますます頸が曲がる。しかし伯父は何も言わず、ただ「400年後に」と言い、飛び去ってしまった。

 俺は目をパチクリさせるが、すぐに嬉しさのあまり飛び上がった。そして舞い上がり、伯父の家を飛び出してすぐに旅の仕度をした。

 明日から400年、なんの柵も無く生きていける。なんと素晴らしいのだろうか! 俺は興奮のあまり寝つけず、夜明けを浴びてしまった。そして俺は親族に何も言わず旅だった。きっと伯父がいいこと言ってくれるはずである。

 さて、世界はいったいどうなっているのであろうか。俺は真っ直ぐに飛び、夢にまで見た世界を旅した。


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