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大鴉の恩返しは傍迷惑  作者: noll
日常編
3/84

ビスクドール似の青年

 ああ、わたしは悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。一体全体、どうしてあの時、そうあの時の呼び鈴に答えてしまったのだろうか! そう、あの時!! いつもなら居留守を使うのになぜ、どうして!!!

 わたしは長くもなく短くもない微妙な長さの足を動かし玄関へと赴いた。見れば誰かが扉の前で佇んでいるのが目に入った。曇りガラスの向こう側、黒い塊がゆらゆらと動いていた。黒い塊、まるで鴉のようである。わたしは笑いながら「そんな訳ないない」と零し、扉を開けた。

 開けた先、そこに立っていたのは男性であった。その男の顔を見てわたしは一人、前に読んだビスクドール似の青年を思い出す。綺麗でけれど何処か影のある人形。わたしはこの男を見た瞬間、嫌な予感が背筋を這うようにして襲ってきた。此奴には何かがある、わたしは瞬時に理解すると無言で扉を閉めようと動く。けれど相手もわたしが閉めようと動けば妨害へと乗りだした。

 男は閉まる扉になんの躊躇いもなく、足を挟み込んできた。わたしが思わずギョッとして男を見上げれば、男は笑顔を浮かべてわたしを見つめていた。わたしは背筋が凍るかと思った。恐怖のあまり口元は引きつり奥歯がガタガタを震えた。未だかつて不審者を見た事が無かった為に威力は絶大である。わたしは男をありったけの力で睨みつけながら、震える奥歯をギュッと噛みしめて渇く喉に唾で無理矢理潤し、わたしは声を張り上げた。


「どなたですか?」


 すると男は目を丸くしてわたしを凝視して来た。対象的にわたしは睨みつける。すると次第に男は俯き肩を震わせた。そして最終的には声を上げて笑いだした。

 気付いた頃にはわたしは睨む事を止めて、笑い悶絶し、さらには酸欠に落ちかかる男を呆れた眼差しで見つめていた。

 わたしは思わず芋虫のように蹲る男を蹴り飛ばしてもなんらお咎めは無しだと思う。とりあえず締めだすようにして男を蹴って転がすと踵を返して扉を閉めようと動き出した。けれど、笑い転げている男にも少しは理性が残っていた様子。私の短いようで長い微妙な長さの足首に男の手が添えられた。いえ、添えられるには語弊が生まれるので訂正しよう。掴まれた。さらに付け足すというならば、大層強い力で掴まれた。

 脱臼するかと思った。


「ま、待って下さい!」


 ヒーヒーと口から零れる吐息を吐きながら男がゆっくりと起き上がる。微妙にホラーな印象が生まれる。わたしは捕まってしまった為、お手上げ状態。静かに男の行く末を見守る。男は芋虫の名残で服に着いた砂埃を払い落し始めた。チマチマと女のようにあっているのでわたしが豪快に叩いてやれば男は目を丸くして「ありがとう」とお礼を言ってきた。

 わたしは、お礼をいう奴に悪い奴は居ない。そう感じ、警戒する心を少しだけ緩ませた。少しだけ。

 そこでわたしは二度目の言葉を男に投げかけた。


「家になにかご用ですか?」


 ぶっきら棒になってしまったがコレも御愛嬌であろう。というか初対面で笑われればこの対応というか即刻警察に突き出されないだけまだマシであろう。なんと慈悲深いわたし!

 などと若干ふざけていると、男はカラカラと音を立ててまた笑いだした。流石のわたしも表情が険しくなる。男は手を出して「ごめんよ」と言ってきたので、わたしは素直に許す意味を込めて頷いてみた。


「んー……、どちらかというと君に用があるんだ」


 笑いながら男はわたしを指差す。流れるようにわたしは小さい手で自分を指さした。すると男はさらに笑みを深めて頷く。ここでわたしに謎が生まれ、首を傾げるという動作しか出来なくなった。


「実は俺は、君に多大なる恩があるんだよ。

ほら、憶えていないかい?」


 今度は男は自分自身へと指を差し向けた。しかしわたしは、こんな人形みたいな男になど見た事も聞いた事も無い。「これっぽちも!」そう正直に言えば、男は笑いながら爆弾を落とした。


「この前の田舎道で倒れていた鴉さ!

命を救ってくれた君に是非とも恩返しがしたい!!

欲を言えば、君を嫁にしたいんだ!!!」


 ここでわたしの思考は止まった。つまる所の、現実逃避というやつであろう。


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