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少女  作者: 植田真美
第一章
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三、知ってはならないこと side有理沙

 彩夏は頭が良かったから私は考えもつかないようなことをする。それは私にとってもありがたいことだし、私の目的を達成のためにもなっている。

 私と対となる性格である彩夏はこの計画を成功させるために欠かせない存在である。私は力で押すタイプ。彼女は論理で説得するタイプ。それでこそなせる技がある。

 私は自分で言うのもなんだが、熱血なタイプである。それでなのかはわからないが、気を強く持つことができる。しかし、彼女はそうではない。彼女は少しのことで気が狂ってしまうのだ。


 それはある梅雨の日であった。

 私はいつも通り彩夏と一緒に帰ろうとしていた。しかし校舎にはいなかった。先生の手伝いをしているのかと思い、校舎外を探していた。

 ふとそこで泣き叫ぶ声が聞こえた。彩夏ではないかと思い、急いで向かった。

「彩夏!」

「うえ~ん、うえ~ん」

彩夏は顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。

「ありさぁ、ありさぁ」

今の彼女からは以前の威厳も冷静さも感じられなかった。

 彼女は頭がよい。だからこそ自分の理解できない範疇まで考えが行ってしまうと、狂ってしまう。これは時間が解決してくれるが、一つ彼女にとって悲しい問題が起こってしまうのだ。

 前々から気にしてはいたのだが、未だにこれの対策法がわからない。

「ありさぁ、ありさぁ、ぎゅってしてぇ」

 幼児同然となってしまった彼女を見ていると、悲しくなる。こんなにも抱え込んでしまうなんて。

「ほら、よしよし。私はここにいるよ」

「ふにゃぁ~、くすぐったいよぉ」

ああ、こんな風になってしまった彼女を見ていることはできない。どうしたら救ってあげられるだろうか。どうしたら直してあげられるだろうか。必死に考えても答は見つけられない。そんな自分の無能さに悲観する。

「ありさぁ、だっこしてぇ」

彩夏も中学生である。体躯も年相応である。抱えることは大変だ。

「ありさぁ、だっこぉ」

しかし彼女が泣きそうになりながら私の方を見つめられる。仕方がないので彩夏を抱きかかえる。日ごろから少しはトレーニングをしていたのですごくつらい、ということはないがやはり大変である。それに周りからの目も痛い。

 そのまま学校にいても仕方がないので、とりあえず彩夏には自分で歩いてもらって家まで送っていくことにした。一晩は一緒にいてあげた方がよいだろうか。しかし、彼女の家の事情もある。彩夏の両親に説明して後はお願いしようか。

 彼女を家まで送り届け、私も帰宅した。

 彼女はどうだろうか。心配でしょうがない。私は何もしてあげられなかった。私は彼女を救ってあげられなかった。以前にもこういうことが何度か起こったのだ。それに今回も起こる兆しは見えていた。それなのに私はまた、防止することができなかった。

 嗚呼、やはり私は無能だ。何もできない。何も変えられない。それなのにこの世を変える、などと言った大きな目標を掲げたものだ。自分で言うのもなんだが非常にくだらない、ばかばかしい。今現在、この廃れた社会でこのような目標を抱えるなど周りから見たら、頭がおかしいのではないか、などと思われる。しかしそれは相対的な評価だと私は思う。絶対的観点から見れば私たちのしていることは正しい、そのはずだ。

 しかし、世の中とは残酷なものである。世の中では普通、相対的な正しいが流通しているのだ。つまり、私たちだけが絶対的に正しいことをしても、周りが違っていたら意味がないのだ。

 ああ、むなしいことなのだろうか。ああ、なんて儚いのだろうか。私たちは本当にこんなことをしていて良いのだろうか。

 こんなことをしていてはどんどん彩夏がおかしくなってしまう。私は何度かやめさせようとした。しかし彼女は「これしか私に存在意義などない」といってやめなかった。本人の希望なのだから聞き入れてあげた。しかし彼女がおかしくなり始めたのもこの頃からであった。私は気がつかなかったが、そのころに何かあったのだろうか。

そう考えると私は何一つ彼女についてわかってないではないか。今度彩夏の悩みを聞いてあげようか。そうすれば彼女も気が楽になるかもしれない。よくよく考えてみると私は今まで一度も彼女の悩みを聞いていなかったではないか。ひどいな、私は、そんな簡単なことができないなんて。

それはそうとして、今日の彼女について気になってなかなか眠れそうもないな。今頃彼女は幼児同然にかまってもらっているのだろうか。それとももう元に戻っているだろうか。そうだと良いのだが、まだ退行状態だと学校生活にも支障が出てしまう。解決方法が見つからない限り祈ることしかできないが、一刻も早く方法を見つけたいと思っている。

翌日、彩夏は元に戻っていた。

「彩夏!大丈夫?もう大丈夫なの?」

「なに? 私が何かした?」

「そう、なら良かった」

 彼女は退行状態のときの記憶は忘れてしまうのだ。それが良いことなのか悪いことなのかは分からないが、彼女に余計な心配をかけなくて済むという点では良いのかもしれない。ただし、それを彼女に気づかれないようにしなければならないが。

 今まで退行状態から戻った時に後遺症などは残っていない。そして現在もそれは起こっていない。まだ退行したのが今回で三回目なので、それによる後遺症は本当にないのかはまだ良く分からない。今はただ、無いことを祈ることしかできない。


 気になるのはなぜこのような現象が起こるかだ。私は専門家ではないので、詳しい原因を知ることはできない。だが、友として感じることができるものがある。彼女は助けを求めているのだと思う。自分の理解の範囲外のことを処理しろと言われても出来る人はそうそういないだろう。いくら彼女が「天才」的頭脳を持っていても理解できないものは出来ない。むしろそんな頭脳を持っているからこそ処理が追いつかないのかもしれない。

 私は馬鹿なのでそもそも理解できないことは分からないで済ますことができるが、「天才」的頭脳を持っているからこそ処理できない事柄を「理解」しようとする。結果、このような現象が起こるのかもしれない。

 先ほども申した通り、私は専門家などでは無いので詳しいことは分からない。あくまで友人として彩夏見ていて感じたことから推測したにすぎないのだが。

 少女の戦いは今に始まったわけではない。しかし、それは周りが判断しているだけにすぎない。実際少女は戦いなどしていない。自分の考えを周りに伝えているの過ぎない。

 同志は少なかった。反対派は多かった。仕方のないことかもしれない。なぜなら世界はすでに――。


どうも、植田真美です。

今回は有理沙サイドとなっています。

第一章は四月中に完結させたいと思います。が、まだ分かりません。

では次回、本作か「異常少女」でお会いしましょう。

今後ともよろしくお願いします。

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