ハードボイルド赤ずきん
ナツ様の【童話パロ企画】、勢いで書き終えてしまいました。
あるところに赤ずきんと言う少女がおりました。赤ずきんは母親にお使いを頼まれお婆さんの家に行く途中、狼と出会いました。赤ずきんは咄嗟にカゴに入れていた拳銃を取りだしかまえ、狼にこう言い放ちました。
「生きたいか、死にたいか」
狼は大慌てで「生きたいですごめんなさいごめんなさい」とごめんなさいを連呼しながら頭を地面にこすりつけて土下座しました。しかし、赤ずきんの鋭い眼光は弱まりません。銃をかまえた状態で、じりじりと狼に近づきます。狼は恐怖のあまり頭をあげることもできず、近づく赤ずきんに気が付きません。赤ずきんは狼のこめかみに銃口を当て、びくつく狼にニッコリと可愛らしく微笑みました。
「お前、強そうね。私のモノになりなさい。断ればどうなるか……わかるわね?」
狼はこめかみに銃口をあてられたまま、「もちろんです」と答えました。こうして狼は赤ずきんのモノになり、馬車馬のごとく働かされるようになりました。めでたしめでたし。
……え? こんなの赤ずきんじゃないって? めでたくもない? でも、これは実話なんだよ。私のお母さんがその赤ずきんだもの。お母さんは凄腕のスナイパーで、拳銃も扱えるんだよ。お母さんのお母さん、つまり私からしておばあちゃなんにあたる人も凄腕のスナイパーで、お母さんはおばあちゃんの血を見事受け継いだんだって家族総出で祝ったそうだよ。
狼? 今は私のお世話係として働かされてるよ。でも私が泣いた時は変な顔して笑わせてくれるし、いい奴だと思うよ。そんな私も母のあだ名……赤ずきんを受け継いで赤ずきんと名乗ってる。お母さんの年齢で赤ずきんは流石にいた……いや、何でもない。これ言うとお母さんに怒られるからね。
そんなこんなで、私は狼を見事従えさせた母の師匠であるおばあちゃんの家にお使いに向かう途中。赤ワインと母が焼いたパンが入ったカゴにはもちろん、愛用の拳銃を忍ばせている。キチンとお手入れしてあるから、ピッカピカだ。弾が詰まったりしていざとなった時撃てなくなったりしないよう、お手入れは完璧だ。
ガサリ。
草むらで誰かが動く気配がする。私は咄嗟にカゴから拳銃を取りだし、両手でかまえる。草むらに銃口をむけて、大声で警告する。
「そこにいる者、でてきなさい。さもなくば撃つわよ」
気配はある、息遣いも聞こえる。でも、草むらから出てこない。私は苛立ち、舌打ちをした。お母さんの前ではやらないよ。女の子が舌打ちなんてしちゃいけませんって言われるからね。でも今はお母さんいないからやりたい放題。私はもう一度警告することにした。相手が人間だったら厄介だし。
「さっさと出てこい! 撃たれてもいいの? もしかして……自分の場所が私からわからないと思ってる? 残念ね、息遣いと気配である程度特定できるわよ」
パキッ。
枝が折れる音が静かな森の中に響いた。逃げる気か……。お母さんに教わった。一度捉えた獲物は、決して逃がすなって。今は相手が何者かわからないから不用意に撃つことはしないけど……。
私は、久しぶりに獲物を狙うこの感覚に、懐かしいものを覚えた。そう言えば、昔お母さんとおばあちゃん家に行く時に獣と出会って、お母さんのスパルタ教育によりその獣は私が仕留めたんだっけ。
「逃がさないわよ……!」
私はペロリと舌で唇を湿らして、草むらに足音を立てないようにじりじりと近づく。銃は一応おろした。相手が人間だった場合、草むらからでてきたところを咄嗟に撃っちゃったらいけないからね。
「許してくれ!」
ガサガサっと音を立てて草むらから飛び出てきたのは、一人の男だった。見た目は人間だけど……獣の匂いがする。怪しい。
「お前、獣の匂いがするね」
「あんた、もしかして……あの伝説の赤ずきんか?」
……伝説? ああ、もしかしてお母さんのことかな。
「違う。それは多分、私の母ね」
「じゃぁあんたは?」
「二代目赤ずきん……と言ったところかしら? それより質問に答えて。なぜ獣の匂いがするの?」
見た目は一応人間なので銃は下ろしたままだけど、いつでも撃てる用意はしてある。相手は結構いかつい成人男性だ。襲われたら勝ち目はない。その前に、仕留めなければ。
だが、男は私が持っている銃を見ただけで十分怯えきっている様子だ。声が震えている。
「さ、さっき獣と遭遇したんだ。体をぶつけられて、その時についた匂いだろう」
「おかしいわ……じゃぁ、なせ怪我や汚れがないのかしら」
男は真っ青になって、汗をダラダラを流す。何てわかりやすい男なんだろう。嘘をつくのが下手にもほどがある。
「正直に言いなさい」
「……俺は、狼男だ。だが、決して人間に危害を加えるつもりはない!」
「狼男……。へぇ、面白いのね。ねぇ、お前……私のモノにならない?」
私は、おろしていた銃をゆっくりと持ち上げる。男は、その場にへなへなと座りこんでしまった。先程まで真っ青だった顔が、少し赤く見えたのは気のせいかしら?
「もう一度言うわ。お前、私のモノになりなさい」
男は黙ってコクコクと頷いた。私はおばあちゃん家につくまで銃口を男の腰にあてたまま歩き、おばあちゃん家についてすぐに報告した。
「おばあちゃん! 私もこれで立派な赤ずきんでしょう?」
「おんやまぁ。お前も立派になったね、サリー」
その後、私は男……狼男と付き合うようになって、三人の子供を儲けた。狼男の名はディンと言った。ディンはあの日、たまたま森に果物を取りに行って私と遭遇したらしい。出会い頭に銃を突き付けられてどんな気持ちだったか聞くと、ディンは素直に「殺されるかと思った」と答えた。それともう一つ、「なんて可愛い子なんだと思った」とも。これには恥ずかしさのあまりディンの脇腹に肘鉄を入れてしまった。
今は、子供思いのいい父親だ。もちろん、妻である私のことも大切にしてくれる。
「一目惚れしたんだよ。銃を突き付けられてたのに、恐怖と一緒に恋に落ちたんだ」
「吊り橋効果ってやつじゃない?」
「サリー、君は素直じゃないね。俺はこんなに君を愛していると言うのに」
「恥ずかしいわ、ディン。子供もいるのに」
「いいじゃないか」
そう言って、ディンは私の唇に口づけを落とした。