美少女登場
五月上旬。
本日の鬼ごっこは私の勝ちだった。
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さて、部活動が終わりこれから帰るときだった。
「あきらーちゃん!!」
・・・何で居るんだよ?
「今日は調理部も活動終わるの遅かったの!」
「何作ったの?」
「レアチーズケーキだよ。玲ちゃん好きでしょ?」
頷く私に、嬉しそうに笑うのは我等が学校のプリンセスこと西条 飛鳥だ。
今の笑顔でどれだけの男が悩殺されたか。既にうちの部員は骨抜きだ。
このとんでもなく美少女な飛鳥は本来なら私を恨むべきなのだろう。
しかし、彼女は私を恨む事もなく寧ろ好きだと言う。
嫌われるよりはずっとマシだが。
「一緒に帰ろ!」
「はいはい。」
「俺も付き合う。」
後ろからの声に振り返ると牙城と波瀬がそこにいた。
「牙城君に波瀬君!」
「悪いな、西条。」
「ごめんね、西条さん。」
断りを入れる二人に対して飛鳥は笑顔で答える。
私には聞かないのかよ。まぁ、知ってますから良いですけど。
「帰るぞ。」
「だよね、もう諦めた。」
私の一言に三人は首を傾げている。
うん、気付いてないんだろうな。いいんだけどね。
もう来ない私の平凡な時間。
「そう言えば西条さん、A組の田中に告白されたんだってね。」
帰り道、波瀬が思い出したかのようにその話題を口にした。
それに対し、飛鳥は少し歯切れの悪い返事をする。
「・・・うん、でも断ったよ。」
「飛鳥は可愛いから告白位しょうがない。」
「そんな、玲ちゃんの方が可愛いよ!!」
そう言って私の良いところを一生懸命にあげる飛鳥、そして何故かそれに対抗心を出してきた波瀬と議論が段々と白熱していっている。
私と牙城五歩位後ろから着いて行く。
「今更だけど篠原は?」
「生徒会だ。もうすぐ球技大会だからな。」
うわぁ、もう行事の時期なのか。
行事と言うのは私にとっては戦場の場だ。普段、別に独り占めしている訳じゃないが王子様達を奪った存在として女子から攻撃をくらうのだ。
おあいにく様そんなやられる様な可愛い女の子ではない私は容赦なくやり返した。
去年の球技大会が懐かしいわ。その時の選択はバレーで容赦のないアタックばっかり私を狙い打ってきた。
まぁ、一回本気で打った私のアタックがネット棒に当たりぶっ倒れた威力を見て大半の女子は黙った・・・と言うか私に恐怖を覚えていた。
さて、今年は去年試合を知っている女子は恐れ多くも私には手を出せない。
しかしながらまだ何も知らない新入生はどう出てくるのかな?
厄介なことこの上ないわ。
あまりにも神妙な面持ちをしていたのか牙城が声をかけてくる。
「どうした?」
「ん、生徒会があるから暫く鬼ごっこは中止かなと思ってた。」
「そうだな、由紀は怒るだろうな。」
その話題で納得してくれたのか特に追求がなくそのまま会話が終わる。
責任がコイツらにも無いとは思わないけど、コイツらの助けを借りたいとも思わない。
下手に恩なんか作って逃げられなくなったら溜まったもんじゃないからだ。
今の私には色んな物が余計だからだ。
ふと強い視線を感じそれを探す。
いや、探すまでもない。前を歩いている飛鳥の視線だ。
その視線の意味をわかり静かに溜め息をつく。
一年前の自分よ、何であんなことしたんだ?