日常
ワタクシ、加賀見 玲は今全力で逃げています。
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「あきさん!!逃げないでよ!!!」
「黙れ!その手に持ってるものを先ず棄てろ!!」
「あきさんが逃げるからでしょ!!」
私が逃げるから?逃げるだろ、手錠持って追い掛けて来る奴から逃げるのは普通だろ!明らかに何かが間違ってるから!
ただいま、波瀬から絶賛逃亡中のワタクシです。つか、手錠持って追い掛けて来る奴から逃げるのは普通だろ!(大事な事なので二回言いました。)
廊下を全力疾走し逃げる私を追い掛ける波瀬。放課後になるたびにこの鬼ごっこは始まる。
全校公認のこの鬼ごっこは毎回放課後のSHRが終わった時間から部活が始まる五分前までの三十分間の間に行われている。
鬼ごっこのルールは至って簡単。鬼である牙城、篠原、波瀬の誰かに私が捕まれば私の敗けで、その誰かと付き合う事になる。ただ、普通に捕まえても意味がない。私を5分触れて居ないといけない。
本来なら私の気持ちを優先して欲しいのが本音だが、はっきり言って無理だろう。
細かい問題が沢山あったが今語るには早い。時間があったときにまた語るとする。
そんな訳で波瀬に追い掛けられているが、今日はまだ牙城と篠原が来ていない。
どストレートの波瀬と違い(捕まえ方はいろいろとおかしいが。)牙城と篠原は変化球を使えるのが恐い。何処かに罠を仕掛けてそうで。特に篠原。アイツは恐い。
「失礼だな、玲ちゃん僕の何処が恐いの?」
何か出てきたー!!!
十字路廊下の右側から声と共に私を捕まえようと伸ばしてくる腕。
篠原だ。アイツはこう言った待ち伏せを得意とする。
かなりの不意討ちだがこの程度に捕まる程、私も弱くない。身体を捻り腕に捕まらないように距離を取る。そして、そのまままた逃げる。
・・・するとどうだろう、今度は波瀬と篠原が追い掛けてくるではないか。
「チッ、逃がしたか。」
「ちょっと由紀。あきさんはボクのなんだから手出さないでよね。」
「静流、寝言は寝てから言いなよ。」
後ろから聞こえる会話は全力で無視。
無視しないと黒い何かに捕まっちゃうから!だって、今あの二人ブラックオーラ出てるから近寄りたくない!!
他の生徒も同じだろう、廊下に全く出て来ない。チクショー、皆卑怯者!!
残り時間後、十分。
てか、未だに牙城が出てきてないのが有り得ないんだけど。
アイツ、今日教室居たよ?休みじゃないよ?
「あきさん待って!!」
「玲ちゃん僕に捕まろうか?」
「誰が!!」
つか、男と女の体力マジで考えろよ!!
これじゃ、部活前に体力無くなるし!
平然としてるようにみえて、かなり体力減ってますから!
外見インテリのくせして、篠原と波瀬も体力がある。
普通の女子なら捕まってるだろう。
そこは哀しい事に普通じゃない私はアイツらから逃げ切れている。
伊達にずっと運動続けてないぞ。
残り時間、後5分。
いい加減、部活の時間に近付いている為体育館を目指す。
私の所属部活?それは秘密です。直ぐにわかります。
体育館まで後、数メートル!
と、言うところで目の前に見えるとある人物。
担任と・・・
が ・ じょ ・ う ・ だ ! !
居ないと思ってたが、こんなとこに居たのか。それは、助かった。
まだ担任と話している牙城を横目に体育館目指して走って行く。
後、もう少しと言うところだった。
「ぐえっ!!?」
「捕まえた。」
「「暁!?」」
「キャーーーー!牙城先輩が加賀見先輩を抱き締めてる!!」
コイツ、さっきまで担任と話してたよな?
何で、ちゃっかり私を捕まえてるんだ?
後、別に抱き締められてなんかないぞ。捕獲はされてるが。
ちらりと担任を見ると、
「すまんな、勝手に行ってまった。」
・・・なら、止めてくださいよ。
項垂れている私を見て牙城は捕まえる力を強める。
「・・・俺の勝ち。」
少し嬉しそうに言う牙城。
フッフッフー、しかしそれは有り得ないよ牙城君。
私が余裕綽々に笑っているのが不思議なのか首を傾げている牙城。
その牙城の姿を見て、悶絶しているのだろう女子が何十人居るのだが・・・見なかった事にしてくれ。
因みに牙城の疑問は担任が解決してくれた。
「牙城、時計を見てみろ。」
そう、残り時間はもう過ぎている。いくら私を捕まえたと行っても、5分確保の時間が制限時間をオーバーしても駄目なのだ。
勝ち誇った様な顔で牙城を見上げると、別段気にした様子もなくいつものポーカーフェイスで奴は・・・
「まぁ、いい。部活行くぞ。」
と、私の右手握り歩き出す。
・・・はい?
その光景を見て今まで存在がなかった波瀬と篠原が騒ぐ。
「暁!狡いよ!!」
「覚えておけよ、暁。」
恐い、恐い、恐い。
何か言ってる波瀬と篠原もブラックオーラ出てて恐いけど、何も言わない女子達の睨みも恐いよ。
けど、当事者の牙城は特に気にする事もなく歩いていく。
コイツは昔からこんな奴だったよ。
こうして、四月最後の鬼ごっこは幕を閉じたのであった。