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水都瑞原物語 爆殺仕置人発破帳  作者: ブラインド
仕置人裏切り事件
6/8

大野見屋潜入

水都瑞原物語 爆殺仕置人発破帳




 入り組んだ路地の奥に隠れるようにして建つ屋敷が大野見屋の根城だ。

 あまり大きいとはいえない屋敷だが、四方を囲む塀は高く、側面にはやや小さいながら運河が流れており、侵入は楽ではなさそうだ。


 浅間の若頭が死んで一ヶ月、ということは大野見屋自体が出来たのもそれくらいだろう。こんな屋敷がそれくらいで建つような代物とは思えないので、すでに建っていた屋敷を使っているはずだ。

 それなりに立派な屋敷だし、相応のツテを使って手に入れたと考えるべきか。

 しかし、大野見屋は浅間とはまったく方針の違う組織らしいし、浅間で広げた人脈はそのまま役には立たないはず。

 ひょっとすると晴三は、以前から離反するつもりで独自に地盤を固めていたのかもしれない。


「見張りは多くないわ。表と裏の門に二人ずつ。庭に入ってしまえば人はいなさそうね」


 屋敷の周囲を見てきた牡丹が戻ってくる。


「塀を越えて庭からいったほうがいいと思う」

「そうだね。じゃあさっと登って……あれ?」


 いつも持ち歩いている道具を出そうと腰に手を回す。

 マサが現役の時に使っていた暗殺七つ道具をそのままお下がりで貰ったのだが、使い勝手が良いのでとても重宝している。

 が、今は変装していて持ってきていないのを忘れていた。

 必要最低限の物だけ懐に隠している状態で、鉤縄は確か持ってきていない。


 どうしようかと思っていると、牡丹がいきなり走り出し、なんの引っかかりも無い壁を蹴って飛び上がった。そのまま身長の三倍ほどの高さを飛び上がり、塀の上に手をかけて登ってしまった。

 そこから手を伸ばしてもらってボクの跳躍でもギリギリ届く。そこからぐいっと一息に持ち上げられ、あっさりと塀を乗り越えた。

 魔法に頼らず仕置人をやっていくには、これくらいの身体能力が必要なのか。


「いやー流石だ」

「他人事みたいに言うけど、あなただってこれくらいは出来なければいけないんじゃないの?」

「いつもは正面から突っ込んで吹っ飛ばしていくから、こんな曲芸はしないなぁ」

「……よく今まで生き延びられたわね」


 発破魔法を使うとどうしても目立ってしまうので、静かに潜入しても結局は強引に切り抜けることになるのだ。

 もちろん発破しないという選択肢は無い。


 ちなみに牡丹は魔法を使わない。彼女を初めとしてそういう仕置人も珍しくは無い。

 というより、魔法を使う人間というのは一般人から裏稼業まで含めても多いとは言いがたい。

 魔法は魔法媒体という値の張る消耗品を要する代わりに、誰でも使える。生まれながらの素養などもほぼ関係がない。

 ただし、魔法は必ずしも万能ではないし、それなりの知識と習熟を必要とする。

 人によっては魔法よりも、身体を鍛えたり他の技術の習得に時間を費やすわけだ。


 牡丹は体術を鍛えることで、隠密や警護など幅広い仕事から戦闘もこなせる。

 逆にボクは敵陣を突破して十把一絡げ吹っ飛ばし尽くすため、直接戦闘以外の仕事には向かないわけだ。

 しかし、発破魔法なら堅牢な建物なども障害物ごと薙ぎ倒せるし、一対多の状況を切り抜けるのも得意だ。犯罪組織をまるごと壊滅させるのに発破魔法は重宝する。


 しかし、今回の目的は殺すことではない。

 晴三の使う催眠術、それと似たものがコルトス殺害のネタかもしれない。あるいは晴三自身が実行犯という可能性もある。

 そうならば生け捕りで尋問して黒幕を、本当の裏切り者が誰なのかを突き止めなければいけない。

 そのために晴三本人か、使っている薬を探し出す。


 塀から見下ろした庭はかなり広いものの、あまり手入れをされている様子が無い。雑草や植木の枝が伸び放題になっている。

 屋敷の中に入るまでの遮蔽物として植木は使えそうだが、草葉に紛れて罠が置かれている可能性もある。

 ボクらは庭に下りると地面に伏せるくらいまで姿勢を低くして、罠の有無を確かめながら家屋に近付いた。

 案の定、鳴子がしかけられていたが、それきりで家屋の傍までたどり着く。

 外側から見た限りでは二階建ての母屋と、小さな離れがあるだけだ。

 離れの入り口に一人、見張りが立っている。母屋のほうは特に見張りを立てている様子は無いが、中に複数の人の気配があった。


「あの離れ、なにかありそうだ」

「手分けしましょう。どちらに行く?」

「うーんむ……ボクが母屋に行くよ」

「……大丈夫?」

「ちゃんと静かに忍び込むって。もし見つかった場合は、発破魔法が役に立つ。母屋のほうが広いし人が多いはずだ」

「そうね……囲まれた時には魔法があったほうが良いわ」

「爆音が聞こえたら一人で脱出して。隠れ家で落ち合おう」

「わかった」


 小声の作戦会議を終え、牡丹は離れへ向かった。

 ボクは母屋の縁側の下に身を隠しながら、耳を澄ませる。人の話し声や身動ぎする音、息遣いに集中して、なるべくその方向と距離を掴む。

 すぐ目の前の部屋の中、障子を隔てた空間に五人前後の男がいる。他の部屋にも人気があるので、一階は避けて二階から見て行こう。

 横の柱をよじ昇って庇に上がり、中に誰も居ないことを確認して障子窓を開ける。


「……む?」


 どうやらそこは物置部屋のようだった。

 いくつも木箱が詰まれているが、埃臭さは無い。頻繁に荷の出入りがあるということか。

 適当に手近な箱の蓋を開けてみると、中には小分けにされた薬の包みが詰まっている。

 中身が何かはわからないが、普通の店に並ぶ薬……なわけがない。

 てっきり、こういったものは離れとか屋根裏にでも置かれていると思ったのだけど、どうやらあまり隠すつもりは無いらしい。


 それにしても、この木箱……一つでも相当量の薬が入っているのに、部屋を見渡せば数個から置かれている。末端価格、幾千両では済まない額になりそうだ。(一両がおよそ現代一万円)

 これを証拠品にすれば、大野見屋を発破する許可もすぐに下りるだろう。


「……だ、ダメダメ! 今は発破するために来た訳じゃ……でも後でまた来るのも面倒だし、ここはまず発破してから事後申請で……いやいやそんなことしてる場合じゃ無いし」


 悩みに悩んだ末、なんとか発破欲を押さえ込む。代わりに帰ったらたっぷり甘菓子を食べよう。

 量から見てここにある薬は商品。催眠術のための薬は別に保管していると考えたほうがいいだろう。

 隠密の秘伝とかいう眉唾な謳い文句からして、さすがに他の組員の目に留まる場所には置かないはずだ。

 そうすると本命はおそらく離れのほうだが、母屋のすべての部屋を調べないわけにも行かない。


 戸の向こうの気配を探りつつ、慎重に廊下へ出る。

 見張りどころか、二階には誰もいないようだ。おそらく一階にすべての組員がたむろしているのだろう。

 今いた物置部屋を除いて二階には三つの部屋があった。近いところから順にさっと中を確かめていく。


 一つ目は開けた瞬間、酸っぱい匂いが漂ってくる。いくつもの布団が敷かれっぱなしで、饐えた汗の匂いが溜まっているようだ。

 こんなところで寝ていたら病気になりかねない。いろんな意味で。急いで襖を閉めて次に行く。


 二つ目は再び物置、ただし今度は薬の詰まった箱ではなく、剣や火器などの武器類が取り出しやすいように並べられていた。

 奥のほうには貴金属や宝石もあり、それと共に魔法媒体も置かれていた。魔法を使う組員もいるということか。


 魔法媒体はそれなりに貴重で、交易都市である瑞原でも入手する経路は限られるうえ、値段も相応に高い。魔法の技能を覚えようとする庶民があまり多くない原因はそこにもあった。

 固形や液状、あるいは精製度合いや符などの形に加工済みかなどで値段は変わる。

 今ここにあるのは、手のひら大の小瓶に入った液状の媒体が数本。いつもボクが使っている店の値段なら、これ一本で十両(約十万円)はするだろうか。

 ちなみに発破魔法に使えば、一本につき人ひとりを木っ端微塵に出来るくらいか。一人殺す経費が十両と考えるとさすがに費用対効果が悪い。

 とはいえ、急所だけを的確に吹っ飛ばしたり、直接爆破に使うのではなく容器に入れて破片を撒き散らしたり、炎上効果を付与すれば、簡単に大勢を殺傷することも出来る。


 さて、そういうわけで一本貰っていくことにしよう。

 普段の格好なら服のあちこちに媒体を仕込んであるのだが、変装しているため手持ちに少し不安があったのだ。


 最後の部屋を覗こうと武器置き場から出た時、階下が騒がしくなった。

 見つかったのか、と不安になったが、階段を駆け上がってくるような足音は聞こえない。むしろ大声と足音は屋敷から出て行っているようだった。

 窓から外の様子を伺うと、どうやら一階にいた男たちは離れへ向かっているようだった。

 まさか、牡丹が下手を踏んだのか。

 助けに行くか、行くまいか……迷ったが放っておく。今は目的を果たすことが優先だ。

 とりあえず最後の部屋を調べて、そこに手がかりがあればボクひとりでも脱出しなければいけない。


 急ぎ、三つ目の部屋に踏み込む。

 高級そうな壷が置かれ、書類の載った机がありと、どうやら頭目の部屋らしい感じだ。

 酒瓶が転がっていたり脱ぎ捨てた上着があったりと、やや生活観のある乱れ方をした室内の捜索に、少し手間取ってしまう。

 一通り探した限りでは、悪事を暴く資料は見つかったものの催眠術に関するものは薬のくの字も出てこない。

 やはり牡丹のほうを助けに行って、離れでなにか手に入れたかを確認しなければ。

 余計な時間がかかってしまったが彼女は無事だろうか。


 窓から庇に出て、地面に飛び降りる。組員は全員離れの方に集まっているようで、母屋のほうで見咎める者は居ない。

 しかし、離れのほうに近付こうとすると、出入り口で何人かが立ち往生していた。連中に見つからないように植木の影に隠れながら回り込む。

 裏側に回ってみても、木枠の小さな窓がついているだけで扉は無い。どうやら出入り口は一つだけらしい。


 先ほど拝借した液状媒体を取り出し、少量を木製の壁に振り掛けた。爆発の具体的なイメージを描きながら、命令を作り上げて媒体に込める。

 壁から離れつつ、左手首を返して起爆の引き金となる装置を手元に引き出す。

 発破。

 どっと腹に響く音と共に木の板が砕けた。火などは出さず、最小限の爆発だったため、壁も完全に吹っ飛んだりはしない。

 残った壁板を蹴り割って中に入る。

 入ってすぐのところに蹲っている少女がおり、その向こうには部屋に入ってくる男たちを蹴り出す牡丹の姿があった。


「牡丹! 跳べ!」


 液状媒体を木床にぶちまける。すぐに意図を察して、牡丹がこちらに跳んだ。

 その期を逃さず男たちが部屋に雪崩れ込もうとするが、すかさず左手の装置を操る。

 今度は火の手をあげながら小さな爆発が起きた。衝撃はほとんどないが、周囲に火が撒き散らされ、床や壁、ちょうど媒体をまたごうとしていた男たちに引火する。


「うわあああッ!」

「ひ、火がっ……!?」


 たちまち燃え広がり勢いを増していく炎のおかげで、男たちはこちらに来られなくなる。


「この子は?」


 蹲っていた少女は震えながらボクと牡丹を見上げる。


「……ひょっとして、キミは香奈って名前か?」


 ボクの言葉にぴくりと反応し、黙って数回頷いた。

 どうしてここに、と考えるのはバカなことだろう。

 大野見屋が元組織である浅間の親分の娘をかどわかすなんて大変な事だ。そこにはなんらかの大きな理由があるはずだ。

 例えば、馬車を止めてコルトスを殺した実行犯を見たとか。


「これはやっぱり当たりだったってことかな」

「言ってる場合じゃないわ。行きましょう」

「立って、走れる?」


 香奈に手を貸して立たせ、ボクらはすぐに離れから出る。

 だが、すでに外から組員たちが回りこんできていた。

 相手の数は十人程。拝借した瓶の残りは少ないし、元々持ってきていた媒体と合わせても、この人数が相手となると足りなそうだ。

 一人一人の急所を的確に爆破し、必要最小限の量で殺していけば殲滅することもできるだろう。だが、それをするためには時間をかけて詳細な命令を与えなければいけない。

 瓶一本だけといわず全部貰ってくれば良かったな。

 相手が格闘の素人ならば牡丹一人に任せても良かったかもしれないが、男たちは逃げ場を塞ぎじりじりと少しずつ距離を詰めてくる。

 良い連携だ。どれほどの修練を積んでいても、統率の取れた集団が相手では分が悪い。

 ボクの発破と牡丹の体術とで一点突破すれば、まだなんとか切り抜けられるだろうか。

 そう考えて身構えた時、不意に甘い匂いが漂ってきた。


「なあに? 戻ってくるなり何の騒ぎよコレ」


 妙な口調の男の声が、包囲の向こうから聞こえてくる。

 組員たちの間を抜けて現れたのは、何故か胸元を大きく開けて着崩した格好の男だ。しかも顔から首、胸元にかけて奇怪な模様の刺青を入れている。


「あら?」


 男の目がボクら、というか牡丹を見て止まる。


「なんでアンタがここにいるのよ」


 立ち居振る舞いはそのままそこらの男と同じで普通だ。が、口調と刺青のせいでチグハグなイロモノに見えてしまう。


「……牡丹、アレと知り合い?」

「し、知らないわよ! そんな気の毒なものを見る目をしないで!」

「そんなこと言われたら悲しいわねぇ。まあ覚えてないのもムリは無いケド」

「覚えて……? ……まさか、アンタが晴三!?」

「正解ヨ」


 晴三は、口元にいやらしい笑みを浮かべた。いや、たぶん普通に笑っているだけのはずなのだが、なぜだかいやらしく見える。


「あのオトコ……まったく役に立たないわネ。仕置人はここには近づけさせないって言ってたくせに」

「誰のこと?」

「あら、まだ知らないのね? じゃあ教えてあげないわ」

「知ってる知ってる。だから教えて」

「知ってるなら教える必要ないじゃない」

「ちっ」

「……蛍、もうちょっと真面目にやらない?」

「大真面目なんだけど」

「ああそう……」


 げんなりした表情で肩の力を抜く牡丹。敵に囲まれているっていうのに随分と余裕だ。

 しかし、さっきから漂ってきている甘い匂い。おそらく晴三からなのだが、異国のケモウドがつけていそうなキツイ香水の……、


「ん? この匂い……まさか薬!?」


 もしそうだとしたら、すでに暗示をかけられている牡丹はこの男に操られてしまうかもしれない。


「あらあら、見抜かれちゃったわね。どうしましょう」


 言葉とは裏腹に余裕のある態度が、小バカにされているようで非常に腹が立つ。が、いまだに男たちの包囲があるため迂闊に動けない。

 暢気にお見合いして、薬を吸い続けたらまた牡丹が操られてしまうかもしれない。


「牡丹、ここは先にキミが逃げて……」

「いえ、いくら揮発性の薬でもここは外。しかもこっちが風上よ。まだ意識もあるし、これ以上吸わなければ問題ないわ」


 牡丹は襟で口元を隠し、余裕ありげに微笑む晴三を睨みつける。


「あらあら、そんなに良い顔する子だったのね。術にかかってるとみんな寝ぼけた顔になるからつまらないのよネ」

「この子を連れてきたのは何故?」


 いちいち相手をしていると頭に来て仕方ない。無視して聞きたいことだけを聞くことにしよう。

 香奈がここにいるのは正直、予想外だった。いくら離反したといっても、その直後に親元にケンカ売るのはマズいはずだ。いかに穏健な年寄りの多い浅間とはいえ、老舗の意地に賭けて全力で潰しに来るだろう。

 ドンパチやらかすなら、浅間と渡り合えるくらいに大野見屋の基盤が安定してからだと思っていた。


「ウチがやったわけじゃないのヨ? 連中がジジイの娘だってこと知らずに連れてきちゃったのよね。放っておいたら下手やらかしそうで、仕方ないから預かってるだけ」


 香奈をかどわかしたのは別口、そして監禁しているのもおよそ大野見屋の本意ではないのか。

 おそらく、彼女の見たものがコルトス殺害の真相に繋がるものだった。その露見を恐れた黒幕が誘拐し、大野見屋が預かっている。

 つまり、その真相が明らかになれば、マサの容疑を晴らせるかもしれない。


「……貴様がコルトスたちを殺したんだな?」

「違うわよぉ?」


 肩を竦め、晴三は笑みを深める。


「この期に及んでしらばっくれるな! 貴様が私を操って馬車を止めたんだろう!」

「牡丹ちゃんを操れるように催眠術の暗示をかけたのはアタシ。でも馬車を止めさせたのはアタシじゃないし、それに……コルトスと護衛の二人を殺したのは、牡丹ちゃんよ」

「……え?」

「牡丹ちゃんがあのオトコの命令で、馬車の中の三人を殺したの」

「な……ん……っ」


 思わぬセリフに言葉を失う牡丹。

 彼女が催眠術で操られていた場合を考えた時点で、その予測も充分ありえた。しかし、ボクはそれを口には出さなかった。

 牡丹自身も思い当たっていたかもしれないが、おそらく自分で否定していたのだろう。

 護衛の一人は彼女の兄だった。その兄の仇を探そうとしていたのに、実際に手を下したのが自分だとしたら……。

 しかも、これの言葉を信じるなら牡丹に催眠術で命令したのは晴三ではなく、さらに別のオトコということになる。


「ウフフ、そんなに驚くことだった?」


 牡丹に気をとられている隙に、晴三は開いた胸元から小さな瓶を取り出していた。


「あれは……?」


 だが、それは薬ではなく魔法媒体だ。

 蓋を開け、晴三が何かを瓶に囁く。途端、媒体の量が見る見る減っていった。

 何の魔法を使うつもりか、思考より先に結果が来た。


「きゃっ!?」


 ボクらが纏っている服の裾を捲って裏返すほどの強風がいきなり吹いてきた。しかもボクらの足元で旋風を巻く。

 まるで狙ったかのように。いや、狙ったのだ。空気を動かし風を操る魔法を使って。

 風の魔法と揮発性の薬。この組み合わせはマズイ。


「その仲間を殺せ」


 不意に晴三がドスの利いた男口調で命令した。

 悪寒を覚え、強風で覚束ない足元に喝を入れて牡丹から離れるように跳ぶ。すんでのところで、彼女の腕が鋭く空を切った。


「牡丹!」


 呼びかけても返事は無い。こちらを見る彼女の表情は虚ろで、もはや操られていることは一目瞭然だ。

 まさかこんな一瞬で催眠状態になるなんて、これなら走行中の馬車の御者を操ることも可能かもしれない。

 催眠術で操られた牡丹が、無表情のまま襲い掛かってきた。


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