殺る気マンマンかよ…
「失礼致します。ロンゲール様、お呼びでしょうか」
ロンゲールの自室を訪ねたリンタロウ。
その目に飛び込んできたのは、鷹狩り用の衣装に着替えている最中の主人の姿だった。
「――――」
箱に詰められた高級ウニのようにパツパツな胸筋。
マッサージの時は布を隔てていたが、いまロンゲールの上半身を守るものは何もない。
リンタロウの目は釘付けになっていた。
「おうリンタロウ。お前のお待ちかねの狩りだぞ」
「……別に私は狩りに行きたいわけでは」
ギリギリで正気に戻ることができたリンタロウは疑問に思い、すぐに答えに辿り着いた。
ロンゲールの有能さを語る際、鷹狩りを例に出したからだ。
気分が良くなったのか、それとも実演して意見を聞きたいのか。
どちらにせよ、仕えることになったばかりのリンタロウが同行に抜擢された。
「えぇ〜? 主人のカッコいい姿が見たくないのぉ〜?」
乗り気でない臣下を見て、ロンゲールは子供のように口を尖らせる。
筋骨隆々の男とは思えない反応に、リンタロウは思わず吹き出した。
「俺の弓使いすごいよぉ〜? 魔物の眉間に命中させちゃうのになぁ」
「ふふ、わかりました。ぜひ同席させてください」
そもそも、リンタロウがロンゲールの誘いを断れるはずもないのだが。
初めて会ってから二週間ほどで、二人は早くも打ち解けていた。
「じゃあ、俺も準備が終わったら行くから。リンタロウもイツヤあたりに色々教えてもらっておいてくれ」
「承知いたしました。大弓の扱いについて伺っておきますね」
「おいおい殺る気マンマンかよ……」
冗談はこのくらいにして、リンタロウはイツヤの元へ向かう事にした。
城内の記憶がてらイツヤを探していると、意外にもすぐに出会うことができた。
リンタロウは前から歩いてくるイツヤに駆け寄ると、ハキハキと、しかし五月蝿く思われない声量で挨拶をする。
「おはようございます」
「おっ、リンタロウか。今日はこれから狩りに行くからな。聞いてたか?」
イツヤはロンゲールが子供の時から仕えている古株。
十八のリンタロウ、二十三のロンゲールに対して三十を超える、いわばベテランである。
臣下のまとめ役だが、決して厳しい人間ではなく、こうして新米のリンタロウへの配慮も欠かさない。
「はい、ロンゲール様の自室にてお伺いしました」
ロンゲールだけでなく、リンタロウ以外の従者はみな体格が良いと同時に、大抵のことでは驚かない。
だというのに、イツヤは新人の返答を聞いて「ほう」と顎髭を撫でた。
「どうされたんですか?」
「ロンゲール様は滅多なことでは俺たちを部屋に招かない。呼んだとしても相当に重要な用事がある時で、それでも部屋へ入れることは殆どない」
イツヤはリンタロウの背をバンバンと叩きながら「期待されてるってこった!」と笑う。
「とりあえずは着替えなくっちゃあな! よし、俺が今から叩き込んでやる!」
「ご迷惑をおかけします。よろしくお願いします!」
「当たり前よ! 俺も怒られたくないからな!」
・
ぴっちりとした狩着を身に纏い、リンタロウはイツヤの後に続いて城門へと向かった。
「――来たな二人とも!」
手を挙げて迎えてくれたロンゲール。
その横には二人の従者が控えていた。
どちらも、既にリンタロウは何度か話をしたことがある。
リンタロウにロンゲール、イツヤ、残りの二人が今回の全メンバーであり、先に着いていた者達は乗馬まで済ませていた。
ロンゲールは馬上からイツヤに挨拶代わりの視線を送り、続けてリンタロウを見た。
上へ下へと視線を彷徨わせ、ニヤリと笑う。
「なかなかサマになってるな」
「馬子にも衣装というやつですかね」
「ま……なんだそれ?」
「私のような貧民であっても、しっかりした服を着れば多少はマシに見えるということです」
サラリと言ってのけたリンタロウに、ロンゲールは困ったように肩をすくめた。
「あのなぁ……そういうこと言わないの。リンタロウの両親が大切に育ててくれたから、お前はウチに登用されることになったんだぞ〜?」
「それは……そうですね。間違った喩えでした」
言われた通り、この世界の親は自分のことを丁寧に育ててくれた。
自分を卑下することは彼らを貶すことになってしまう。考えを改めねば。
「正しくは鬼に金棒、でした」
「鬼に……それは何だ?」
リンタロウは胸を張って答える。
「元から強いものが強い武器を持ち、さらに強くなるということです。両親に大切に育てられた宝である私がキチンとした格好をすれば、それはもうロンゲール様をも超える輝きを放っているでしょうね」
「いや、あの……それは間違ってないんだけど、いちおう俺、第二王子だからね?」
「冗談です」
イツヤが「今日もやってらぁ」と豪快に笑い声をあげる。
身分の差を感じさせない――ロンゲールが許しているからではあるが――やり取りは周りの者たちにも人気で、もはや漫才のように受け取られていた。
推しと他愛のない会話ができる喜びを噛み締めるリンタロウと、立場を弁えながらも友人のように接してくれることに喜ぶロンゲール。
鷹狩りの道中でもその会話は軽快で、彼らは和気藹々としていた。
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