お前が奥手すぎるせいです
グレイフォードの城はどんなに細かく切り取っても贅の限りを尽くされていて、それは第二王子であるロンゲールの自室も同様だった。
「入れ」
リンタロウが彼の部屋の扉を軽くノックすると、ややあってから声が聞こえた。
低く芯があり、声色からでも気前の良い人間性がわかるようだ。
「失礼いたします」
3Dの推しを目に焼き付けることができる初めての時間。
リンタロウの胸は高鳴らずにいられなかったが、ここで「変なやつ」だと思われてしまうと、今後の関係性に悪影響が出る。
「私はリンタロウと申します。本日からロンゲール様に仕えさせていただくことになりました。全てにおいてロンゲール様を支えさせていただく所存、よろしくお願いいたします!」
平静さを務め、深く礼をする。
そこから五秒、十秒と何らかの返事を待ってみるが、一向に彼は口を開かない。
それどころか「くっくっ」と笑い声が聞こえ、リンタロウは思わず顔をあげた。
「あの……何か気分を害されることを言ってしまいましたでしょうか」
「いや、そうじゃない。ただ物好きがいたものだと思ってな。美しい金髪だ」
「……! ありがとうございます。私の出身は――」
「言うな」
ロンゲールは手を挙げてリンタロウの言葉を止め、まじまじと彼を観察した。
「その手は働く者の手だ。手のひらを見せてみろ……タコのでき方からして農業。今の時期に作物が育ち、かつ金髪が特徴的な地域といえばコンタンツのあたりか。登用制度を使ったらしいな。であればスタンティかフォックスデンあたりの村から出て来たんじゃないか?」
自らの出身をピタリと言い当てられ、リンタロウは言葉を失う。
しかし、これは歓喜の硬直だった。
(やっぱり、俺の見立ては間違ってない……!)
個別ルートでは切れ者の片鱗を見せていたロンゲールだったが、普段はどうなのか。
追い詰められて初めて実力を発揮するタイプか、はたまた常なる洞察力なのか。
その答えを開始数分で提示され、推しに対する評価は鰻登りの状態にあった。
そして、リンタロウの反応を見てロンゲールは満足気に笑う。
「はっは! 図星のようだな! 俺があまりにも聡明で驚いたか?」
「いえ、ロンゲール様の慧眼は私の知ったところでもあります。私が驚いたのは、私の見立ての正確さです」
「……ほう?」
ロンゲールは眉をあげた。
その意図を話してみろと暗に示している。
「オスカー王にも申し上げたことですが、近頃の鷹狩りは魔物の活発化に対する対策でしょう」
「どうしてそう思う?」
「私の勝手な想像ですが……ロンゲール様は弓を使っての狩りなど好まないでしょう。そのような屈強な肉体をお持ちなのですから、殴り倒す方が早い。しかし、直接殺ってしまえば“やる気”が認められてしまい、面倒な政務に参加させられる可能性がある」
澱みなく言ってみせるリンタロウ。
ロンゲールは再び「俺の何を知ってるというんだ」と笑い、続きを催促する。
「ロンゲール様には王となる才がございますが、それは望みではない。王位はエドガー様に譲り、悠々自適な生活が理想なのでは?」
「みんなそうだろ、そりゃあ」
「その通りでございます。ですが、才能のない者やロンゲール様の思惑を勘違いした者は、あなたを“悪意のある者”と看做すかもしれません」
たとえばエドガーの臣下がロンゲールの真の実力に気付いた場合、王位を取って代わろうとしているのではないかと勘繰る可能性はある。
分かりやすく言えば、戦国時代を駆けた織田信長のように、最初はうつけのフリをしていて機を見て頭角を表すつもりなのかもしれない。
事実、ロンゲールルートで彼が追われる理由の一つでもあった。
「……で、仮にそうだとして。どうしてお前が俺を気にかけるんだ?」
「それは――」
リンタロウは言葉を詰まらせそうになる。
間違っても「お前の顔面がタイプだからです」や「お前が奥手すぎるせいで個別ルートがバッドエンドだからです」とは言えないからだ。
そのため、思考をフル回転させて納得させられそうな言葉を探す。
「――私も自由な生活が欲しいのです。あなたに着いていけば、この世界でも有数の自由を手に入れられる」
言い切ったリンタロウの目が揺れていないのを確認して、ロンゲールは「なるほど」と漏らす。
「それじゃあ、お前は俺のために何でもしてくれると?」
「もちろんです。何なりとお申し付けください」
だが、彼の思考はリンタロウを認めたのではなかった。
「じゃあ、とりあえず今から――全身をマッサージしてくれ。日が暮れるまで、じっくりとな」
えっちな意味じゃないです!
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