俺にとってドストライクだった
リンタロウ――つまり俺がグレイフォード家に召し抱えられるようになった理由。
それは俺が「この世界の知識」を持っていたからだ。
転生前の人生の終わりを覚えていないが、割と近しい記憶。
友人の推薦という名の押し付けによってゲームをプレイすることになった俺は、端的に言えばやきもきしていた。
主人公であるアンリ・ベルナールの攻略対象の一人であるロンゲール。
簡単に言えばロン毛のイケメンのこいつは、俺にとってドストライクの見た目だった。
多様性に喧嘩を売るのであれば、俺は当然のように異性が好きだ。
多少むちむちしていて胸の大きい子がタイプである。
しかし、そんな「当たり前」を抜きにしてもロンゲールは魅力的であり、俺はアンリとして彼を攻略することにした。
彼の兄であるエドガーは一周目に無難そうなイケメンだし、彼らの父であるオスカーすら攻略できるという無法地帯でもあるが、俺の目にはロンゲールしか映らなかった。
だが、コイツは気持ちの良い男ではあるが恋愛方面はてんでダメで、それはアンリも同じ。
他のルートでは攻略対象から手を出させるが、ロンゲールは紳士すぎた。
その結果、彼のルートではなんやかんやあり、二人で抱き合いながら心中するという最期を迎えることになる。
全くもって意味がわからん。
俺はこの男に幸せになってほしい。
アンリだって優しい子だし、俺は二人のラブラブ結婚生活が見たかったのだ。
だから、この世界に転生した時。
もっと言えば転生を果たして長い年月が経ち、十八になった日に母親から「グレイフォード」という単語を聞いた時、俺は田舎を出ることに決めた。
俺に愛を注いでくれた両親に楽をさせたいという意味もある。
しかし、それ以上に俺はアイツを――ロンゲールとアンリを幸せにしてやりたい。
・
「――それでは、この者が此度の志願者か」
オスカーの低く、それでいてよく通る声が響く。
中世ヨーロッパ風な世界観だというのに彼らの髪は黒く、王であるオスカーの威厳を示しているような髭でさえも同様だった。
そんな彼の目には、俺のことがさぞ不思議に映っただろう。
ゲームではあまり触れられていない各国の制度。
俺にとって幸いだったのは、グレイフォード王国に出自に依らない登用制度があったことだ。
身分が低い者であっても能力が高ければ取り立てられ、出世の道も見える。
しかし、作中でも屈指の強さを誇るグレイフォードを束ねるオスカーの眼は生半可なものではなく、今まで数多の「有能」な人々が肩を落として帰るハメになっていた――らしい。
だから現在では志願者も少なく、半ば死に制度と化していた。
もちろん、夢みがちな若者たちもそれを知っていた。
……だというのに、オスカーの眼前には貧相な身体つきで、しかも気の弱そうな俺がいる。
「そなたが志願者なのだな」
オスカーはもう一度俺に問う。
「――はっ! 私はスタンティという村のリンタロウと申します!」
この世界に和名の人物は存在しないのに、何故か母は俺に前世での名前「凛太郎」を付けた。
オスカーも聞きなれないようで「り……りんたろぉ?」とカタコトになっている。
「ま、まぁ名前については才覚が認められた時に覚えれば良いだろう。……して、そなたは何を持って王城に足を踏み入れたのだ?」
人を簡単に射殺すことができそうな鋭い視線が俺を貫こうとしている。
無策だったなら、この時点で萎縮してしまうだろう。無策なら。
「私には第二王子――ロンゲール様が国を治める未来が見えます」
「……なに?」
オスカーは困惑の色を強く浮かべる。
それもそのはず、ロンゲールは今の時期では「ただデカくて性格が良いだけの落ちこぼれ」という扱いだったからだ。
実際には彼なりに国のことを思い、気まぐれだと思われていたいくつかの行動も、後になってみれば国にプラスに働くというイベントがある。
とはいえ、これは嘘でもあった。
ロンゲールの手腕が発揮されるのは彼のルートではあるが、最終的に王にはなれずに命を落としてしまうのだから。
だとしてもオスカーには未来は見えない。
そこに、自分では御しきれない息子のことを「王の器足る」と言い放つ若者が。
さぞ俺が、できそうな雰囲気に見えることだろう。
「たとえばロンゲール様は最近、鷹狩りがご趣味だとか」
「あぁ、あのバカ息子ときたらろくに政務にも携わらず、遊んでばかり……」
鷹を放って小型の魔物を発見させ、遠方から弓で狙うのがこの世界の鷹狩りである。
対象が魔物とはいえ、毎日のように出かけていては遊びと捉えられても仕方ない。
「ですがロンゲール様の向かう地域は、この時期には小型の魔物が活発化します。近付き難いと村に来た商人が言っていたのを覚えています」
「するとそなたは、ロンゲールが人々のためを思い、我らに軽んじられても国に尽くそうとする男だと?」
彼の心は揺れている。
俺は内心ではほくそ笑んでいたが、表面上は穏やかに口角を開ける。
「いえ、ロンゲール様は今はまだ、そこまでのお人ではありません。人々に噂される“ちゃらんぽらん”な方でしょう」
オスカーは硬く口を閉ざした。
「……オスカー王に似て多才な方ですが、孤独なのです。私ならばロンゲール様の閉ざされたお心を開き、王の器であると証明してみせます」
王になったら王になったでアンリとの時間が取れなくなりそうだし、そこまでなってもらおうとは考えていない。
だが、このくらい大口叩く方が良い場合もあるのだ。
先ほどまで黙り、なんなら若干キレていそうだったオスカーは、声をあげて笑った。
「面白い。あいつの素質に気付いているのは私だけだと思っていた」
もはや彼の顔からは疑問は消え、友好が向けられている。
「今日からそなた――リンタロウはロンゲールに仕えるが良い!」
こうして、俺は何年振りだかの登用制度の恩恵を受ける者となり、ロンゲールとの初対面を果たすのである。
俺(作者)
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