第六話 神託〜にかいめ〜
「朝起きたら、突然言葉が浮かんで……ああ、神よ、教会の聖女にもその栄誉をくれてやってください!」
「ほら、お茶を飲んで。で、次はなんだい」
「……国境近くのサラーシャ山、それが崩れるそうよ」
「ああ、あのひときわ大きくて、岩だらけの。人里も少ないし、近づかないように厳令を出せば――」
「あそこは、水の湧き出るところなの」
イシスはすこし冷静になってきた。
正直混乱したまま、ベアフレートの部屋に早朝にお邪魔してしまったが、彼に会うと少し気分が落ち着いてきた。彼が手ずから淹れてくれた温かい茶のカップを両手で持つ。
「山はずっと雪が被っているでしょう?その雪が一年かけて溶けて地面に染み込み、また数年かけて麓に湧き水として出てくるの。水は豊富で、聖水の汲み井戸とも呼ばれるくらい澄んで、実際聖水の触媒にもされるわ」
「それが、崩れたりしたら……」
眉を潜めたベアフレートも、イシスの言わんことを察したらしい。
「大河チェンメリアの源流でもあるの。影響は未知数だわ」
チェンメリア川はいくつもの支流を作り周辺は穀倉地帯になり、水運も盛んだった。
「……大変な事態になるかもしれない。父上を叩き起こしてくるよ」
「私も行っていい?」
「大丈夫かい?」
「賢明な国王陛下にお知らせしたほうがもっと大丈夫になる」
一ヶ月後、サラーシャ山はごく小規模な山崩れを起こした。
中腹よりやや下、長年の雪解け水の流れが山肌を削って、とうとう剥離した部分が麓まで落ちた。
この一ヶ月、入念な調査と、魔法により山肌への補修を行った。
「お告げがなければどうなっていたか……」
しみじみ言ったのは協力を申し出た教会の担当した司祭だったが、おそらく事態を知っていた全員の気持ちだった。
「今後も点検を行いましょう。今回は免れましたが、脆くなっているところもありましたから」
学者たちは胸をなでおろしながらそう国王に提言した。
またもや、イシスの功績は讃えられた。




