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祈ればいいってもんじゃない!  作者: 鹿音二号
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第三話 計画通り

国王夫妻が突然遊説の旅に出ることになった。

数ヶ月にわたり国を隅々まで見て回るのだという。

その、国王がいない隙を、チャンスとばかりに聖女カロリーナを連れて入城したゴイドン侯爵は、まあまあうまくやった。

カロリーナは、少女特有の愛らしさで、王太子ベアフレートの心を射止めた(ということにいつのまにかなっていた)。


「イシスは……できた娘だったが、愛らしさはなくてね……それをあまりあった……小言ばかりでありがた……ゴホン、ともかく、そなたのような娘が聖女というのは大歓迎だよ」


聖女イシスはそれを悲しみ(ということにした)、王宮から去った(一時的に)。

追い出されたていの聖女は行く宛がなく(引く手あまただった)、実家の男爵領では王都に近すぎたし、出戻りの娘に男爵が難色を示した(どころか帰ってこないことに涙したという)。それで王国でも僻地のボルボン伯領の支援を受けてそこで暮らすようになる。

そのあとイシスは……祈りもそこそこに、悠々自適の生活を送った。


「まあ、カラニエラ産の紅茶、一度飲んでみたかったのよ!」


「ぼたん鍋……?イノシシ?恵みに感謝します……いただきます!」


「なるほど、昨今害獣が多いと報告がありましたけど、この問題は……」


「なるほど、なるほど、このオレンジは絶品ですね!?」


「足湯とは……これは、気持ちがいい……」


王宮では、新聖女カロリーナが、必死になっていた。


「朝の祈りですわ、聖女様」


礼拝は日の出とともに始まる。


「祝福のお願いが」


新しく家を建てたので。不幸が続いたので、長旅のお守り、祝事弔事、新生児の洗礼etc。長蛇の列が出来る。


「戦士が重度の呪いに」


たまにとんでもない魔物と遭遇した冒険者を回復する。


「神への感謝の祈りを」


何か吉兆があるたびに、礼拝が。


「夕の祈りですわ」


日の入りとともに。


「新月の祈りを」


月に一度の。


「城と教会で使う燭台の聖別を」


火を安全に扱うため。


「水瓶の浄化を」


ずっと水気があると不浄が溜まるとされる。


「聖餐の祝福を」


晩餐会用の料理に使われる食材になる動植物の昇天を。


「討伐隊の祝福と加護を」


定期的に魔物を狩る騎士団への祈り。


「中祭りの祈祷を」


聖女のための祈りに祈り返す……


それらをいちいち手順を確認し、慣れないことに目を回しながら、それでも彼女はがんばった。

が、評価はいまいちだった。


「イシス様はもっとお早かったです」

「あとがつかえていますよ」

「うーん効きがいまいち」

「お間違えになって、何度目ですか……」


そして、もっとも問題になったのは、イシスは政治にも口を出していたことだった。

孤児で、最低限の教育しか受けていないカロリーナに、その代わりが務まるはずもなく。

そうして、その評価はまるきりゴイドンへと跳ね返った。

役立たずの聖女を連れてきて、大きな顔が出来るわけがない。

徐々にその味方だった貴族たちも、顔を背けていき……

国王が突如、王宮に帰ってきた。

聖女イシスを連れて。

わずか一ヶ月、城には知らせもろくに届いていなかった。

人の良さそうな国王は、案外切れ者であり、なにより臣下からの信頼は厚い。突然の帰城にも、宰相以下臣下たちはほとんど動じていなかった――ゴイドン侯と、その派閥のものは例外だったが。


「さっそくだが、聖女カロリーナのことについて、皆の意見を聞きたい」


ゴイドンは驚いた。

まさか国王が遊説を取りやめてまで戻ってくるとは思わず、さらに聖女のことが耳に入っていたとしても、即座に帰ってこられるような距離ではないと計算していたのに。


彼が、罠にかけたつもりが罠にかかっていたと気づいたのは、情けないことに流刑の最南端の島の小さな罪人の村で、詐欺を働いた男に笑いながら解説されてだった。


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