心に残る言葉①
人それぞれ、心に残る言葉があると思います。
心が温かくなる『いい言葉』もあれば、忘れたくても忘れられない『イヤな言葉』もあります。誰かから貰った言葉だけでなく、誰かに贈った言葉もあるでしょう。
私にもいくつかありますが、恐らく私の記憶の中で一番古い、他の人が聞いても普通の言葉にしか思わないその言葉を、どうか聞いて下さい。
私は14歳の頃、腹痛に悩まされていました。
痛みがあったのは朝起きたときと、10〜12時、14〜18時。毎日ほぼ似たような時間帯でした。
母に連れられて病院に行き、どんな効果があるのか分からない粉薬を飲みましたが、腹痛は治まりませんでした。痛いときと痛くないときがありましたので、きっと母も医師も『学校に行きたくないから』と思っていたかもしれません。
同級生たちも仮病と思っていたことでしょう。元気に登校してしばらくすると痛みを訴え、お昼を食べて元気になるのに時間が経つとまた痛みを訴えるんですから。
いま、当時の同級生と会う機会は殆どありませんが、きっと今も私のことは『嘘つき』と思っているでしょうね。
高校生活も、お腹の痛みと、それとは違う別の痛みを抱えて過ごしました。修学旅行の思い出は集合写真を撮ってからすぐバスに帰ったことだけです。
高校三年生のとき母に連れられて病院に行き、そこで人生初の胃カメラをやりました。初めて経験するその苦しさに耐えていると、検査の最中に医師が看護婦へ母を呼ぶよう指示していました。
胃カメラのチューブを飲み込んだまま、検査室に母が入ってきたのが見えました。母が近くまで来ると医師はそちらに向きを変え話し始めました。
「お母さん。これ痛いはずだわ」
14歳から何年も抱えてきたそれは十二指腸潰瘍でした。年齢を重ねた今なら『空腹時に胃が痛む』と分かりますが、子供のときには発生条件が分からなかったんです。全校集会で立って居られなくてよくしゃがみましたが、それも下血による貧血だと分かりました。
その後も医師が母に説明を続けていましたが、チューブを飲み込んだままの私には一つの思いしかありませんでした。
──やっと分かってもらえた
お腹の痛みと、その痛みを誰にも信じてもらえない痛み。
医師が何気なく言ったその言葉は、当時の私の心を救ってくれました。カッコいい言葉でもないし座右の銘になる言葉でもない。でも、私が絶対に忘れることのできない言葉です。
最近胃の痛みが酷く、普段飲む胃薬ではなく勝負胃薬をキメる頻度が増えてきました。
胃カメラをやった回数は三十回近く。終わった後で医師に「先生は胃カメラ上手ですね」って笑顔で言えるくらい慣れっこです。
そろそろ胃カメラやらなきゃかなと思いつつ、あの言葉を思い出したので今回書きました。
生きていれば『心に残る言葉』が増えていくはず。
皆さんの心が、良い言葉でいっぱいになりますように。




