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小桃が思うこと  作者: 小桃 綾


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19/19

幼少期の思い出 〜運動会〜

 別作品へ感想をいただいたときに思い出しました。

 私が小さかった頃の思い出に、運動会があります。

 運動会といっても学校行事の方ではなく。


 珍しいかどうかわかりませんが、私の地元には学校行事とは別でもう一つ運動会がありました。


 地域の端から端まで車で走ると20分ほどの距離の中にある集落数は12。その全ての集落の子供だけでなく大人も参加する『集落対抗の運動会』です。


 走る種目や綱引きなど体力のある若い人が活躍する種目だけでなく、女性限定や手先の器用さを求められる種目もあって、運動会というよりお祭りに近い感じでした。

 変わってると思った種目は……男女が二人三脚で参加して、女性が男性にネクタイを結んでから走る『花嫁修業』という種目。1位の人に対して「きっと良いお嫁さんになるでしょう」ってアナウンスが流れていたのを覚えています。参加者には既婚者も混じってましたけど。


 各種目毎に上位の人にはティッシュやアルミホイルなどの景品があって、総合優勝の集落にはトロフィーもありました。


 競技に参加する人だけでなく、応援する人も大勢です。

 それぞれの集落のお祭り衣装で応援したり、漁師の多い集落は大漁旗を持ち込んで応援したりと、応援にも集落毎の"色"があります。


 種目を終えて自分たちのテントに戻ってくると集落の人達全員が拍手と歓声で迎えてくれる。

 テントにいる人は家族じゃない人がほとんど。でも、まるで"家"のような感覚で……。当時は意味もわからずただ嬉しかったのを覚えています。



 あ、子供だった私も含め子供たちの楽しみは他にもありました。それは……出店!

 同じ集落の人たちから貰ったお小遣いを握りしめて、かき氷やアメリカンドッグ、型抜き(砂糖菓子?をまち針で割れないようにつついて、形通りに抜けたら景品が貰えるやつ。正式名称わかんない!)で遊んでいました。


 遊び疲れたら自分の集落のテントに戻って大人たちと話をして、参加種目を終えて戻ってくる人を歓声と拍手で迎えて、これから参加種目へ向かう人に声を掛けて送り出す。

 それを繰り返して運動会は進んでいきます。



 お昼休みが終わって最初に行われるのは地元の民謡をみんなで輪になって踊ること。学校でも教わるのでみんなで踊ります。


 その後も種目が続いて、運動会の最後に行われる種目、10代から60代までの6人で参加するリレーが一番盛り上がります。


「おい! オマエはオレと同級生なのになんで50代で走るんだ? 40代だろ!?」


「ウチの集落に50代がいねえんだよ。60代を50代と走らせるのは酷だろ?」


「ならしょうがねえか。でも多少は気ぃ使えよ?」


「わかってるって。でもオマエの集落には気ぃ使わんからな」


 運動会の最後を締めくくるリレーは『本気だけど地域全体で楽しむ』雰囲気。応援する人たちもみんなテントから出て、トラックのすぐそばまで近づいて応援します。


 そう言えば私の父親、足が速くて下の年代に参加してたっけ。若い世代に負けない走りっぷりだったし元気だったんだなぁ。



 開催中にちょくちょく聞こえた会話がありました。


「あの男は誰だ?」


「〇〇集落の□□さんちの次男だよ。東京で働いてるんじゃないかな」


「そうか。ウチの娘にどうだろうか……」


 運動会はそういう機会(・・・・・・)としての役割もあったみたいです。


 開催日は8月18日。カレンダーの並びが良ければ『お盆休みで帰省している人』も参加することが出来る日です。そして、都会で働く娘や息子を戦力のあてにして、墓参りよりもそっち優先で帰省予定を交渉する集落もあったり。

 私も地元を離れてからはこの運動会に参加するのが帰省の楽しみの一つでした。



 農作業が少し落ち着く季節。夏の暑い日差しを丸一日浴びながら駆け回り、同じ集落だけでなく地域の人達みんなで喋りまくり、日が傾きかける頃にみんなが笑顔で自分たちの集落に帰っていく。そんな地域行事でした。


 その集落対抗運動会は、もう何年も前に『人口減少』の理由で開かれなくなりました。出場者も、応援する人も減ってしまって……。

 地元から離れて暮らす私が言ってはいけないのですが、すごく寂しいです。


 最近の猛暑を考えると間違いなく開催できないですが、それより前に違う理由で開かれなくなってしまった。


 時の流れとともに消えていくものがあること。

 消えないようにするために何をすれば良かったのか。


 年を重ねたことでようやく気づくものが、世の中には沢山あるんでしょうね。

 あの頃に感じた『一体感』は本当に心地良かったです。

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