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アビス・ザ・エンド  作者: 御弓
第二章
8/11

視線の思惑



白と金の光が降り注ぐ食堂の一角。ノアとリリィは長テーブルの席に腰を下ろした。


「……美味しそう」


目の前には、ノアが注文した甘味の数々がずらりと並ぶ。甘い香りがふんわりと鼻をくすぐり、思わずノアの目が輝き、眼福であると言わんばかりに拝んでいた。


ひとつひとつを手に取り、丁寧に味わいながら、しかし驚くほどの速さで平らげていく。


リリィはその様子をじっと見つめ、目を丸くした。


「……え?もう食べたの?」


ノアは満足げに笑いながら、皿を積み重ねる。


「はい。師匠との旅で早く食べることが習慣づいてしまって……」


リリィが不思議そうに顔を傾けると、ノアは少しだけ苦笑いを浮かべた。


「……旅の途中で、盗賊や獣に襲われることが多かったから。食事の時間も油断できなかったんです」


「……それは大変だったわね」


ーー師匠との旅は、楽しいだけじゃなかった。むしろ命懸けの場面が多かったな。


「そんな思いにふけっていると、近くの席からくぐもった声が耳に届いた。


「……あいつが噂の新入りだろ?」


「神に呪われてるんだって?大丈夫かよ」


くすくすと笑いながら、数人がこちらを横目で見ている。

ノアは何も表情を変えず、慣れた様子で無視して甘味の皿を片付けた。


「……ねぇ、やめなさいよ」


リリィが振り向き、鋭い声でたしなめる。


だがノアはそっと手を伸ばして、彼女の肩を軽く押さえた。


「いいんです、慣れてますから」


「そんなの慣れるものじゃないでしょ」


「こいつらのいう通りじゃねぇか、リリィ」


唐突に割り込む声。

振り向くと、鍋を片手に持った青年がひょいと現れた。

湯気を立てるその鍋は、香辛料の匂いと唐辛子の赤色がやけに目立つ。見ただけで舌が痺れそうな辛そうな鍋だ。


鍋をテーブルに置き、灰色の瞳がノアを鋭く射抜く。


「神に呪われてるなんて……気味悪いだろ」


薄藤色の髪が光を受けてふわりと揺れる。


「ちょっと、シオン!」

リリィが即座に声を荒げる。


しかし彼は肩をすくめ、今度はノアではなく陰口を叩いていた者たちに視線を向けた。


「まぁ、でも……何の力も持たないテメェらよりは、こいつの方が役に立つだろ」


挑発的な言葉に、ひとりが椅子をガタンと鳴らし立ち上がる。


「……何だと?もう一編言ってみやがれ!」


「や、やめとけよ、トマ……」


仲間が慌てて静止するが、トマと呼ばれた男は耳まで真っ赤だ。


「俺たち探索部隊は、お前ら《SAVIOR》のために命懸けでサポートしてんだろうが!」


「サポートしてるだぁ?サポートしか出来ないんだろうが」


シオンの声が一段と低くなり、食堂の空気がぴんと張り詰めた。

その瞬間、肌を刺すような静電気が走る。雷の気配ーー彼が力を解き放とうとしてた。


「……やめてください」


ノアがすっと間に入り、シオンの手首を押さえる。


「……止めるな」


「やりすぎだと思います」


「あ?」


「それは守るために使うものでしょう。仲間を傷つけるためじゃない」


灰色の瞳と紅い瞳がぶつかり合い、数秒の沈黙が落ちた。


「仲間だ?陰でこそこそ言われてんのに、お気楽だな」


「僕はまだ、ここにきて間もないので問題ありません」


「……偽善だな。お前みたいなタイプ、嫌いだわ」


「それはどうも」


二人の間に火花が散るような殺気が走り、リリィはオロオロと視線を往復させる。


その時――


「お主ら、喧嘩ならよそでやってくれんかのぅ」


柔らかながらも底知れぬ圧を帯びた声が響き、食堂のざわめきが一瞬で消える。

振り向けば、淡い藤色の着物を纏い、黒髪を端正にまとめた女性が立っていた。

切れ長の瞳は、笑っているのか睨んでいるのか判別できない。


彼女こそ、《SAVIOR》を束ねる元帥の一人――レイ・カザミだった。





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