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アビス・ザ・エンド  作者: 御弓
第二章
7/11

始動



白と金の光が差し込む回廊を、二人の影が並んで進んでいた。


本部に転移してきてから、すでに二日が経過していた。ノアはこの二日間、本部施設の構造や生活区画の案内を受けている最中だった。

案内役を務めているのは、同年代の少女ーーリリィ・アルステラ。


その姿は、まるで聖典から抜け出した神の巫女のようだった。

腰まで届く淡い金髪は、白銀の光を帯び、ふわりと風にそよぐ。緩やかなウェーブがかかったその髪は、動くたびに揺れ、自然と視線を惹きつけた。

額を少しだけ覗かせた前髪が、どこか儚げな印象を添えている。


白地に金の魔法文様が刻まれたフード付きマントを羽織り、黒のロングスカートには大胆なスリットが入り、太ももがチラリと覗く。清楚と大胆が共存するその服装は、神聖さと妖艶さを同時に感じさせる。


彼女の隣を歩くノアの腰元には、ウエストポーチが一つ、軽く揺れていた。

持ってきていたリュックを変化させたものだ。


ミカエルはこの数日で環境の変化に疲れたのか、ウエストポーチの中の拡張スペースで、完全にスリープモードに入っていた。


「ここが我が自慢の食堂。これで一通り案内終わるんだけど、覚えた?」


 振り返ったリリィが、くるりとマントを翻す。背後には、広大なホールに設えられた食堂の光景が広がっていた。白を基調とした天井は高く、天井からは魔導ランプの柔らかな光が差している。複数の長テーブルと、中央には魔力で調理された料理を提供する自動供給装置。騎士や魔導士たちが、思い思いに食事をとっているのが見えた。


「……まぁ、ぼちぼちですかね」


 ノアは苦笑いを浮かべながら答えた。頭の中でフロアマップを思い出そうとするが、思った以上に本部は広く、施設も多種多様だった。研究区画、訓練施設、礼拝堂、寮区画……それぞれが魔法的な干渉を受けているようで、位置関係すら曖昧になることもある。


「ふふっ、大丈夫。みんな最初は迷うから。私も最初の一週間、食堂に辿りつけなくて泣きかけたもん」


「それは……どうやって生活してたんですか」


「カロリーブロックっていう栄養補助食だけで生活してたよ。あの時の味思い出しただけで……うう」


リリィが眉を寄せてプルプルと震える。ノアは思わず吹き出しそうになった。


この二日間、案内役として付き添ってくれた彼女は、見た目の神秘さに反して、ときおり年相応の無防備な表情や仕草を見せた。

だが、その柔らかさの奥に隠れているのは、この世界でも極めて稀有な才能だった。


リリィは〈精霊魔導士)ーー精霊と契約し、その力を自在に引き出せる術者である。

記録に残る限り、現在この地上に精霊魔導士はわずかに十二人。そのほとんどが各国の王侯貴族や大規模教団に属しており、彼らの存在は軍事力そのものと同義だった。


「うちの食堂の料理は天下一品よ」


リリィは胸を張って、注文カウンターらしき場所へノアを案内した。

カウンターの奥では、大きな鍋を片手で振り回しながら、筋肉の鎧をまとったような大男が立っていた。スキンヘッドの頭は魔導ランプの光を受けてツヤツヤと輝き、腕は丸太のように太い。


「リュウさん!」


リリィが手を振ると、その大男は鍋を片手で放り、軽やかにキャッチしてからこちらを振り返った。


「おう、リリィか。……ん?」


鋭い目つきがノアに向けられる。


「初めまして、ノア・エルステッドです」


「ほぉ……こりゃユーリに劣らずの男前が来たもんだ」


彼はカウンター越しに大きな手を差し出してきた。


「俺はここの料理長のリュウだ。食べたいものがあったら何でも言いな」


握手を返したノアの手は、一瞬で包み込まれるような感覚に襲われた。握手というより、手そのものが分厚い。


「リュウさん、私はカレー。ノアは?」


「えっと……チョコレートパフェと、チーズケーキと、あとミルフィーユ。あと、プリンもお願いします」


「お、おう……」とリュウが一瞬固まり、鍋を持ったまま目を輝かせた。


横でリリィが呆れたようにため息をつく。

「そんな甘いものばかり……主食ですらない……」


「甘いものは正義なんですよ」

ノアは真顔で答えた。


リリィは返す言葉を失い、小さく肩をすくめたが、その口元はほんのわずかに緩んでいた。




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