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アビス・ザ・エンド  作者: 御弓
第一章
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握る手の重さ



「……神に呪われているとは、不吉だ」


低く呟いたのは、円卓に座すひとり。顔は見えない。だが、その声は冷えた刃のような緊張を孕んでいた。


「カイルは……何を考えておるのだ」


「呪われし印を持つ者を、教団に引き入れろと」


「“神に呪われた者は……神を殺す。そう決まっているのだ」


その声たちが、断片的に、だが確実にノアを断罪するように響く。


そのとき、ルカの声が静かに割り込んだ。


「……“神に呪われし者は、神を殺す”」


球体から響いたその声には、感情ではなく事実のみがあった。


「起源を辿れば、幾つもの神話にそう記載されている。強大な力を受けた者が、その愛ゆえに神を裏切り、殺すに至ったと。呪いとは、愛の極致であり、拒絶の証明でもある。念が強すぎるがゆえに、呪いへと転じる……それが、“神の痣”」


誰かが、小さく息を呑む音がした。


だがそのとき、グレイがゆっくりと顔を上げる。


「……君たちは、呪いを恐れているようだね」


その声には、静けさしかなかった。だが、場の空気が一瞬で変わる。


「確かに、“神の痣”は呪いだ。だが、それは同時に“強く愛された証”でもあるよ」


ノアの瞳が、わずかに見開かれる。


「強く願い、強く念じた。だからその思いは、刻印となって宿った。それが呪いに見えるのは、受け手のあり方次第さ」


グレイの瞳が、そっとノアを見つめる。


「いつの時代も、呪いと愛は紙一重。その念をどう扱うかはーー君次第だよ。ともに、悪なき世界にしていこう」


その言葉に、周りのざわめきが静まる。


「はい」


グレイは、そっと手を差し出した。


ノアもまた、その手を取る。

互いの拳が静かに重なった瞬間ーー空間の緊張がふっとほどける。


【闇夜、闇夜と舞い落ちる。

花びら咲き散る浮世の絵。

腐った世界を、壊していこうじゃないか】


月の光が、石造りの回廊を照らしていた。

ノアは与たれた部屋の窓辺に立ち、黙って空を仰ぐ。

あの場の熱も、言葉も、まるで夢のように遠く感じる。


それでも、確かに手のひらにはーーあの人の温度が残っていた。



***



静まり返った円卓の間。


ノアが去ったあと、再び重い沈黙が場を支配する。


その静寂を破ったのは、再びひとりのフードを被った声だった。


「……本当に引き受けてよろしかったのですか、グレイ様」


その声には、恐れと疑念、そしてほんのわずかな焦りが滲んでいた。


別のひとりが口を開く。


「あの少年は……異質だ。まるでこちらの世界を見ていない。次元の異なる存在のようにすら感じられる」


だが、グレイはわずかに微笑を浮かべたまま、静かに言葉を返す。


「君たちは、“神に呪われた人間”を恐れているようだけど……」


彼の声が、少しだけ深くなる。


「それは逆だよ。“人間を呪った神”のほうが、よほど恐ろしい」


沈黙が、再び深く落ちた。




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