3話
「まあいい。注文したのは仕方ない。実はこれから出張に行く予定だったんだ。3日寺を離れることになる」
「出張とは珍しいですねボス。承知しました。私とABで何があってもお寺を死ぬ気で守ってみせます!」
ちんねんはカッコ良く和尚様に向かって敬礼をしました。
「……もうこの寺は莫大な債務を抱えて既に終わってるけどな…… まあとにかく、留守番頼むぞちんねん」
「はっ!!」
威勢の良い返事を耳にした和尚さん。一息間を置いて、怪訝な表情を浮かべました。
「ただその前に、お前に伝えないといけないことがある。ここ最近、どうもやたらと治安が悪いという話を耳にしてな」
「治安でしょうか!? 確かに最近、下町にいる子供達の間でグランドセフトオートごっこが流行っていると耳にしてますが……」
「違う! グラセフごっこの話じゃない。最近、この寺山近辺で恐ろしい山姥が出てくる話だ。お前も聞いたことないか!?」
尋ねられたちんねんは「山姥ですか……?」と首を傾げました。
「そうだ。山姥……山奥に潜む老女の姿をした妖怪だ」
「あぁ! 聞いたことあります! なんでも人を食べちゃう程やばい妖怪とか…… 研ぎ澄まされた包丁をぶん回して攻撃してくると聞きました!」
「そうだ。その山姥の目撃情報がこの辺り多発していて、かくいう俺も心配なんだ。お前らみたいな子供は『美味しそうに見える』からって、すぐに捕食の対象にされそうだからな」
「ひぇ……やばいっすねそれ……」
話を聞いたちんねんは身震いをしました。食べられるなんてたまったもんじゃありませんからね。まだ人生もやりたいことだらけなのでここで死ぬわけにはいきません!
「という話を聞いてだな。お前らが死なないようにと、俺は護衛アイテムを準備したんだ。これが……あのなんでも願いが叶うというお札だ。どこぞの誰かのせいで3枚のところが3兆3枚も増えたけどな!」
「そ、そういうことだったんすか! 和尚さんも優しいですね! い、いいじゃないですか。3枚よりも3兆3枚の方が安心ですよ!」
どうやらちんねんが頼んだお札は、VS山姥の護衛アイテムだったようです。『石橋を叩いて渡れ』ですからね。数は多いに越したことはないでしょう! きっと……
開き直ったちんねんに和尚さんは呆れてものも言えませんでした。
「……もう何とでも言ってくれって感じだ。ちなみにそのお札の能力も限度があるって知ってるよな」
「はい。確か『お金は増やせない』『学力は上がらない』『寿命を伸ばせたり、不老不死になれない』『生物を生成したり、復活させたりできない』『宇宙の摂理をぶっ壊す事象は起こせない』『環境・社会・倫理の観点から総合的鑑みて妥当性のある願いしか叶えられない』『持続可能な社会に繋がらない願いは不可』ですよね! これ、結構面倒な制約ですよね……」
「それは俺もそう思う。だが仕方ないだろ、ある程度ガバナンスが整えられてないと、どこぞのバカがお札を濫用するからな」
一概に願いが叶うと言っても、なんでもありというわけではありません。やはりサスティナビリティの観点は重要ですよネ! 非倫理的な用途には使えませんよ!
「ということで、お前らのために武器は用意したから3日間頼むぞ」
「任せてください!!」
お札を託し、和尚様は寺を出て行きました。
見送ったちんねんは伸びをして呟きました。
「よーし、急遽3日間連続ライブだ! 今日も大いに盛り上がるぞ!!」