プロローグ 最強グルメを食べ尽くしちゃう、ぽっちゃり
新連載です!
「むしゃむしゃ、がつがつ、ばくばく――」
巨大な丼をかきこむ。
かきこむ。
かきこむ。
「もぐもぐ――ごっくん!」
完食した超特大牛丼を、ドンッ! と置いた。
すかさずジョッキに注がれたお水をごっきゅごっきゅと飲み干し、牛丼を無理やり流し込む。
「――――ぷっっはぁぁぁ~~~っ! ああああ~~、異世界メシ美味しすぎるぅ~~!!」
あまりの幸福にとろけ声が出る。
目の前にはバカデカイ大理石のテーブルがあり、そこには激ウマ料理がこれでもかと並んでいた。
チーズどろどろ肉盛りピザに、超特大オムライス、マヨネーズべちゃがけ唐揚げ丼――
極太ドラゴンステーキ、コカトリスの巨大ターキー、そしてヒートロブスターのグリル焼き――
まさに日本と異世界グルメのマリアージュ!
どっちの世界も美味しいものがたくさんあって、それを一度に味わえるなんて最高すぎる!!
はぁ~、食べるって幸せぇ……!!
「すごい食べっぷりだねぇ、コロネちゃん」
テーブルの向かいで金髪の美少女が笑う。
わたしよりも見た目は年下だけど、この子は神さまらしい。
そして、わたしを異世界召喚した張本人だ。
「そりゃそうですよ! 食に勝る快楽はありません!!」
左手にどろどろのチーズが伸びるピザを頬張り、右手にフォークを握ってドラゴンステーキをたいらげる。
もっぎゅもっぎゅと食べまくるわたしに、神さまは呆れたように肩をすくめた。
「コロネちゃん、痩せたらめっちゃ可愛いのに、もったいなくない?」
「花より団子が信条なんで。食べるの我慢してまで可愛さはいらないですね。それに、わたしが痩せても大した顔はしてないですよ」
「え~、ゴブリンロードとの戦いの時はこんなに可愛い姿になってたのにぃ」
神さまは魔道具を空中に投げ、テーブルの真上に大きなスクリーンを映し出す。
そのスクリーンを見て、わたしは一気にむせてしまう。
「けほっ、けほっ、ち、ちょっと、なんなんですかその写真!?」
肩に触れるくらいの長さのベージュの髪に、ぴょこんと跳ねるアホ毛。
そして急激に痩せたことでダボダボになった赤ジャージがはだけて、あられもない姿になった女の子が映し出されている。
……わたしだ。
あれは痩せた時のわたし。
魔力の使いすぎによって激痩せしたせいで服がダボダボになり、ハレンチな姿になったわたしなのだ!
神さまはにやにやしながら、次々と他の写真をめくっていく。
どれもキワドイ写真ばかり。
「ほらほらぁ~こーんな写真もあるよぉ。や~ん、こっちはな~んてえっちなんだぁ!」
「極大魔法――デストロイキャノン!!」
大量の魔力を流し、破壊光線を発射する。
すさまじい威力の極大魔法は一瞬で魔道具とスクリーンを破壊し、ドガァァァァアアアアアアアアアアン!!! と、広大な部屋の壁を爆破した。
わたしが有する『暴食』の固有スキル。
《《食べたもののカロリーを魔力に変換し、あらゆる魔法を撃つことができる》》という優れものだ。
そんなチートスキルをフル活用し、わたしはかなりの魔力を注ぎ込んで大魔法を撃ち込んだ。
「ちょっとちょっと~! ここ私の部屋なんだけどぉ! バカスカ魔法を撃たないでよぉ!」
「知りません! バカなことをする神さまが悪いです!」
神さまはほっぺを膨らませているけど、人の恥ずかしい写真を見せびらかしたのが悪い。
わたしは気にせずドラゴンステーキにがぶっとかぶりつく。
「それにしても、ずいぶんと変わったよねぇコロネちゃん。異世界に染まったというか」
「もぐもぐ、ん~まあ、色んな経験したんで」
「まだたった『一ヶ月』しか経ってないけどね」
そう。
この一ヶ月で本当に色々な経験をした。
カロリー無双で最強になった。
ぷるぷる&もふもふの従魔を手に入れた。
わたしのお弁当屋さんが大人気になった。
街を牛耳る悪党ギルドを壊滅させた。
国を滅ぼす《災厄級》の魔物を打ち倒した。
そして何より、異世界グルメを心ゆくまで食べまくった。
ハラハラドキドキの毎日だったけど、どれも最高に楽しい日々だったと断言できる。
「あれもこれも全部……異世界で目を覚ましたあの瞬間から始まったんだよね」
わたしは特大ピザにかぶりつきながら、一ヶ月前のあの出来事を懐かしく思い出した――