月を手に入れた男
三題噺:枯れ草 、盗賊 、暦
昨日の組み合わせは、全然思いつきませんでした……。
真夜中の月の下に男が、一人おりました。月は上限の月が、少しふっくらしたぐらい。
男のまわりには、すすきの野原が、広がりとても素晴らしい眺めです。
男は、食うに困り盗賊にまでその身を落としていましたが、幸か不幸か盗みが成功する事はありませんでした。
しかし盗賊として最後に盗みたいものが、あったのです。あの空に浮かんだ美しい月を盗む事が、出来ればもう何の未練もなく立派な真人間としてやり直せるのではないかと思っていました。
暦では9月、『中秋の名月』のが見られる月です。しかし、どう考えても、考えても月を取る方法など、思いつきません。
夜も更けるので、町へと向かう帰り道、最近始めたと言う団子屋が、今日はこんな夜中にやっているではありませんか。月見団子を、買ってみるのもいいかもしれません。
「こんばんは、邪魔するよ」
「いらっしゃいませ」
こんな夜更けに小さな子供が、店番をしているでは、ありませんか……!?
「ぼく、どうしたんだこんな夜中に、働かされているのか?」
「私は、ここいらに住む化け猫なのです。お寺の油を舐めていたのですが、油よりお団子の方が凄く美味しくてここで働くようになったんですよ」
そう化け猫は、にこにこ笑っていいました。男もこの近くのお寺で団子屋の紅葉さんが大暴れしていた話は聞いていたので、そうか……このお店があの有名な団子屋の亭主の店かと納得しました。
「じゃ……月見団子をくれ」
「はい、わかりました。」
男は、月見団子を見ている間、月を見てため息をつくと……。
「どうしたんですか、お客さん?」
「あぁ……私は、どうしてもあの月が欲しかったんだ……でも、やはり無理だったよ……」
そう言うと山猫が、あわわわわぁと言うのです。振り返ると、月見団子を持った男が仁王立ちで立っていました。 明らかに噂に聞くもみじさんです。痩せているのに、溢れる闘気に満ち溢れています。紅葉さんは、男と自分の間に月見団子を置くとまず自分でお団子を1つ食べました。
「話は、聞かせて貰った……、まず、月見団子を食え俺のおごりだ」
男は、紅葉さんに恐れおののいて、団子を1つ食べるととても美味しく、やる気が満ちて来るのです。
「お前さん月を取るのに、何日頑張ったんだ」
「一日です……」
「一日!?」
「ねこ、持ち帰り用の笹の葉持ってこい」
「はい!」
山猫は、慌てて暖簾をくぐりお店の中へ入ると、笹の葉に器用にいれます。それを男に手渡すと一緒に竹に入ったお茶もくれました。
「これで、今日一日だけ一人で頑張って来い。もし駄目なら俺も手伝ってやる」
そう言って紅葉さんは、男を送り出したのでした。
しかし送り出された男は、途方にくれこの辺りで一番高いお寺の山を登るのでした。
登る間、竹のこすれる音、虫の鳴く音、すべてが美しく聞こえてきます。長い階段を登りきると立派なお寺と手に届きそうな満月。
届きそうで、届かない満点の月。満月出ないのが、残念でもありますが、今の自分には丁度いいような……。
「あの……」
どこかで、声がするのです。辺りには、落ち葉と枯れ草しかいないのに……。
「あの……もし」
目の前のダンゴ虫が、男に声を掛けているのです。化け猫も紅葉さんも見た。後の男は、動じませんでした。
息をふっと吹きかけると、ダンゴ虫は小さく丸くなるのです。これだっ! 思った男は、ダンゴ虫をすくいあげ、両手を受け皿にしてその上にダンゴ虫乗せると、下の紅葉さん団子屋まで一直線です。
男は、盗賊になるほど身が軽いので、転びそうな時は、華麗に身をひねって避けるのです。やっと紅葉さんの団子屋に着いた、男は、息も絶え絶えですぐに、化け猫はお茶を差し出しました。
化け猫に呼ばれて、調理場で片づけをしていた紅葉さんがやってくると、男はダンゴ虫を肩の上に乗せてお茶を飲んでいました。
それを見た紅葉さんがは、「俺の店に、虫を連れ込むな!!」と怒るのでした。しかし化け猫に諭された紅葉さんは、しぶしぶ男の話を聞く事になりました……。
「聞いてください紅葉さん、このダンゴ虫は、話しますし、ほらまるまってごらんほら見てください。月の様にまん丸でしょう?」
「わたしは月より素敵ですよ」ダンゴ虫も男に加勢します。
「虫は、虫だ。月ではない」
紅葉さんは、何より強情でした。これには、化け猫も、男もダンゴ虫も困りました。|万物《ばんぶつ(あらゆるもの)》を困らすのが紅葉さんでした。
「あのーあのー貴方」ダンゴ虫は、男に話かけます。
「俺は、結月と言うんだ」
そう男は言いました。
「まぁもう名前の中に月が、結月は初めから月をもっていたのですね」
三人は、一斉に紅葉さんを見ましたが、全然納得していない顔でした。
ダンゴ虫は、少し小さなため息をつき、「結月さんお茶を持ってください」そう言い男が、持つと綺麗な月がお茶の中にぽっかり浮かびました」
「やっと、俺も月を手に入れた!やった!」
「まぁ、素敵……」
「凄い!、凄い!」
三人がこれでもかと言うほど、騒ぎました。
そうするとさすがの紅葉さんも、「負けたよ……、良かったな月を手に入れられて」と、いつの間にやら勝負になっていたらしいのですが……。納得してくれたので……男とダンゴ虫は、やっと帰る事が出来ました。
男とダンゴ虫が帰る時、男の持っているダンゴ虫も素晴らしいものであるが、空の月も素晴らしい。
「俺は、素晴らしい月をふたつも手に入れた。だんご虫ほらみてごらん、空の月も本当にきれいだね」
「キャァッ」
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9月17日 中秋の名月
「ねぇ結月さんが、お嫁さんともうすぐ来てくれますよ」と、化け猫がいいました。
「豪商の娘の娘が、結婚を断ってダンゴ虫にされたのも、そのダンゴ虫が、徳の高い和尚さんを頼るのもわかる。そしてそんな娘を愛した者の前で、元の姿に戻るのもわかる」
そこで、紅葉さんは、頭をかかる。
「でも、何で月が奇麗で、元の姿に戻るんだぁ――――――――――!!」
「まぁまぁそう言わず、結婚のお祝いの紅白饅頭を蒸しましょうよ、紅葉さん」
そう化け猫に諭され、紅白饅頭を蒸しだす紅葉さんであった。
おしまい
見ていただきありがとうございます!
またどこかで~。