背教者の影
慣れない推理パートなんかやるから
更新が遅れるんだよなぁ…
「ウェンディゴが村の中にいるだって?!」
「そんなコトあるわけねぇべ!!」
オーランとホラレーが立ち上がり、素っ頓狂な声を上げた。
村の中にウェンディゴがいるかも知れない。
東都の言葉は衝撃をもって彼らに受け止められた。
「でもよオーラン。もしコレが精霊さまのバチなら、村の中にウェンディゴがいても、おいはおかしくねぇと思うぞ」
「ホラレー、おめぇ……これが精霊様のバチだっていうのか……?」
「考えても見ろや。戦場で武威を誇ったオークの戦士団も今は昔。竜を貫いた槍働きは、いまや魚やクジラを取る銛働きに取って代わられちょる。精霊さまだって、バチのひとつも当てたくなろうってもんだ」
「むぅ……」
「エルさん、昔のオークはもっとこう……武闘派だったんですか?」
「そうですね。古代ベンデル帝国の時代に活躍したオークの戦士団の記録が残っています。なんでも、彼らが通ったあとには、草の一本も残らなかったとか」
(昔のオークは蛮族してたのか。今はちょっと荒っぽいくらいだけど、昔のオークはガチのエンジョイ&エキサイティング集団だったのかな……)
「オラーン、まさかと思うが、精霊さまはオークのことを見放したんじゃ……」
「お、おい、めったなことをいうもんでねぇ」
ホラレーの不安がオーランに伝染する。
彼はクマをひねり潰しそうな大きな手をぶるぶると慄かせていた。
「お2人とも落ち着いてください。トート様が仰ったのは、あくまでも可能性の話です。まだそうと決まったわけではありません」
「むむむ……」
(僕が思ってた以上に激しく反応をするなぁ。そういえば、僕はオークの精霊についてまだ何も知らない。もっとちゃんと話を聞くべきだな……)
オーランたちをなだめるように、東都は優しく語りかける。
「オーランさん、精霊についてもっと教えてくれませんか? 精霊がこんなことをしたなんて、僕にも思えないんです」
「うん? どういうこった」
「えっと……オーランさんは、精霊の導きで氷河に打ち上げられていた僕たちを見つけて助けてくれたんですよね?」
「おう、精霊さまの導きにまちがいはねぇど。精霊様はなんでも見通せるからな」
「だとすると、精霊はどうして僕を助けたんでしょう。ウェンディゴも精霊です。それなら、精霊は自分のジャマをする存在を村に引き寄せたことになります」
「む……」
東都のするどい指摘によって、オーランは言葉に詰まった。
言われてみれば、たしかに彼の言うとおりだ。
精霊はなぜ東都たちのことを助けたのだろう。
ウェンディゴがオークたちに与えられた罰なら、精霊は東都の事を放っておくはずだ。
「たしかに道理が合わねぇな。精霊さまがオラたちにバチを当てンなら、どうしてあんたのことをオラに教えたのか……こんがらがってきただ」
「オーランさん、もっと精霊のことを教えてくれませんか? これまでの歴史で、オークと精霊はどのようなつながりを持ってきたのか。今回の事件は、そこに謎を解くカギがある気がするんです」
「うンむ……だけンどなぁ」
「教えてやれオーラン。どうせ減るもンでも無ぇ」
「お前ぇさんまでそういうなら仕方がねぇか。教えちゃる」
オーランは腰を下ろすと、コホンと咳払いをして息を整えた。
東都も手近な場所に腰を下ろし、話を聞く体勢を整えた。
「さて、まず精霊ってのは何かってところから始めるべ」
「お願いします」
「オラたちが言う精霊っちうのはオラたちのジイさんのジイさんの、そのまたジイさんよりももっと古くからいて、オラたちの中にずーっといるんだ」
「精霊がオークさんたちの中に……? それはつまり、体の中というか、頭の中にいるっていうことですか?」
「あー、なンて言えばえぇかな……血の中っていえばわかるか?」
「血の中、ですか?」
「うンむ。オラたちの血の中に精霊がいるンだ。そんで精霊は血筋で微妙にちがってくる。例えばオラの精霊は、遠くにあるものを教えてくれるって具合だ」
(へぇ……血筋で特殊な能力を持つってこと? まるで超能力みたいだ)
「精霊は血筋に関係するんですね。そうしてオーランに語りかけきて、毎日の生活をちょっとだけ助けてくれる。そんな感じですか?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるなぁ」
「というと?」
「精霊ってのは良いことばっかりでねぇ。たとえばウソをついたり、モノを盗んだりすっと、精霊はバチを与えるために漁に必要な道具を忘れさせたり、大事なモノをなくさせたりするんだ」
(なるほど。そういえば、オーランさんとホラレーの2人は、ウェンディゴのことをしきりに「罰」と言っていたな……)
「では、ウェンディゴは悪いことをした人に対する、精霊の罰なんですか?」
「ンだ。ウェンディゴになるってのは、精霊から与えられる最悪のバチだ。オークの名誉を汚しちまったヤツの成れの果てがウェンディゴだ。でも――」
「オークの名誉を汚したのは、この村の全員がそうだ。誰かは知らねぇが、そいつがウェンディゴになったのは予兆だ。これは始まりに過ぎねぇかもしれねぇ……」
小屋の中に重苦しい沈黙がおりる。
オーランの説明から一転、小屋の雰囲気が暗くなってしまった。
(ウェンディゴになったのは、オークが戦いを捨てたから? だとすると、彼らがウェンディゴ化を避けるためには、昔ながらの蛮族に戻る必要がある?)
東都は事件についての考えをめぐらし、それに沈んでいく。
すると彼はふと、何かに気づいたように顔をあげた。
(この事件……何か怪しいぞ。前もって誰かに結論が用意されてるような、そんな気がする。ウェンディゴの襲撃について解決の糸口としてオークが蛮族になるなら、その襲撃先は一番近い南にある人間の居住地だ。もしそうなれば……。)
オークが居住地を襲えば、人間とオークの戦争になるのは間違いない。
そうなれば人間は獣人だけでなく、オークの相手までする必要が出てくるだろう。
(人間とオークが戦を始めれば背教者の得になる。この事件には、ヤツらの臭いがするぞ……。)
最初、東都は軽く話を聞くだけのつもりだった。
しかしホラレーとオーランの話を聞くほどに、事件の謎が深まっていく。
すると次第に彼はそれに引き込まれていた。
今の東都は、何者かに背中を押されるように真実を求めている。
もしかすると、これも精霊の仕業なのだろうか。
彼はふと、そんな事を思っていた。
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Q.なぜトイレの話から急にミステリーに?
A.私にもわからん。これが本当の謎だと思う。




