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サメと魔術師


 暗い洞窟の中に、漆黒のローブを着た魔術師風の男がいる。

 男は手に松明を持ち、オレンジ色の光で洞窟を照らしていた。


 その光に照らし出されていたのは、とても古い壁画だ。


 壁画には女神だろうか、白い女性の姿が描かれている。

 女性の顔は右をむいており、その足元には小さな人間が書かれていた。


 人間たちは思い思いの武器を手に持ち、女神と同じ方向を向いている。

 彼らの視線の先を追うと、そこには巨大な黒い影があった。

 

 黒い影は燃える街を背後に立ち、背後に無数の黒い影を従えている。

 影はその体を魚や獣のシルエットに変化させて、女神の方に向かっていた。


 光と闇の戦い。

 そんなタイトルが思い浮かぶ壁画だ。


「とても古い記憶だ……それを(のこ)した者がいたのか。こんな洞窟の奥底に」


 魔術師が持った松明の光が洞窟の壁面をさする。複雑に隆起した岩肌の上を光が動くと、壁画に描かれた人物がまるで動いているように見えた。


 なるほど。これは古代の叡智が作り出した、一種の映像記録なのだろう。


 壁画の始まりは影のほう(・・・・)からだ。

 つまり、侵略者はどちらの側だったのか?


 魔術師は壁画に描かれた黒い影を愛しげになでる。

 魔術師の所作から察するに、そこに何らかの感慨がこもっていることは確かだ。

 だが、彼の真意を推し量ることは難しい。


「……来たか」


 魔術師は何かに気づいたのか、後ろを振り返った。

 するとヒタヒタという不気味な足音が、暗闇の中から近づいてくる。


 魔術師は松明の炎を高く掲げた。光が洞窟の中に淡く広がると、大きなヒレを持つ灰色の体躯がぼんやりと浮かび上がった。


 松明に照らし出されているのは、東都が乗った船を襲ったサメ男だ。

 サメ男は分厚い胸板の前で太い指を震わせている。

 どうもこの異形は、魔術師のことをひどく恐れているようだ。


<へぇ、その……お知らせしたいことがあります>


<その様子だと失敗したようだな。戦いに負けたか?>


<襲撃は成功しやした。だけんども小僧っ子には逃げられちまって…‥>


<なに、トートを逃しただと?>


<へ、へい……空を飛んで逃げちまったんで。あっしらは海の中ならどんな野郎にも負けはしませんが、空じゃヒレもエラも出ませんぜ>


<チッ……それで何もせず帰ってきたわけではなかろう?>


<も、もちろんです! 北の空に飛んでいった連中を泳ぎが得意な連中が追いかけました。海の中に落っこちて溺れてくれりゃぁ良かったんですが……>


<言い訳はいい。それでヤツはどこまで逃げたんだ?>


<へぇ、黒曜氷河です。オーク共が要塞を構えてるあの氷河まで飛んでったと、たまたま近くの空を飛んでたハーピーが言ってやした>


<黒曜氷河ァ?! どんだけ飛んでるんだよ!!!>


<あっしらもたまげましたよ。人間の船なら半月くらいかかりやすね。>


<世界のど田舎、北の果てじゃないか。また面倒なところに行ったなぁ……>


<さいですなぁ>


<まぁ……わかってるならいいか。問題はオークだな>


<へぇ、オークどもときたら、まったくシャクにさわる野郎で……>


<うまいこと言ったつもりか。トートのヤツを渡せと言っても、頑固者どもが相手では交渉にもなるまい。ならば……>


 魔術師は腰についていた麻袋をまさぐると、金貨を一枚つまみ上げる。

 そのまま魔術師は金貨を握り込むと、彼の拳が黄金色に光った。


 次の瞬間、彼が拳を開くと手のひらから大量の金貨がこぼれ落ちる。

 その勢いは凄まじく、金貨はガチャガチャと音を立てながら折り重なる。

 たちまちのうちに、魔術師とサメ男の間に黄金の山ができた。


<これで兵隊をかき集めてこい。武器は増やせる(・・・・)から一揃いでいいぞ>


<へいっ!>


<このまま逃しはしない。次こそ確実に仕留めるぞ。>



また本格ファンタジーみたいなことしてる……

いつもすぐ息絶えるシリアスさんだけど

今回はちゃんとお世話して育てるから!!!

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