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致死率十割大森林

「よ~し!」


 東都はTPを使ってトイレを強化した。

 彼が設置するトイレに追加されたのは、以下の機能だ。


 『抗菌』『除菌』『消臭』『ウォシュレット』


 それぞれ10TP消費したので、今の残りは60TP残っている。


「これでトイレとしては完成したんじゃないかな?」


 東都は満足したように頷く。


(まだ『威力アップ』なんかの、謎のスキルが残っているけど……)


 彼が見るスキル画面には『威力アップ』『速度アップ』などの文言が並んでいる。

 あきらかにトイレに似つかわしくない単語の羅列に、彼は眉をしかめた。


「威力アップはまだわかるけど……速度アップって……走るの? トイレが?」


 東都は「あの女神のすることだからなぁ」と、納得しかけたその時だった。森の奥からガサガサと、何かが動く音が聞こえた。


(――動物か?)


 彼は森の動物が近寄ってきたのかと思い、森の中を見る。


 それは確かに「動物」だった――ただし「部分的」に、だが。


 現れたのは、角と尻尾を持ち、人と獣が混ざりあった姿をした何かだった。


 それは茂みを押しながら、彼に近づいて来る。東都が視線を下げると、そいつの足の先は牛に似た、黒く大きな先の割れた蹄になっているのが見えた。


 白目と黒目の区別がつくくらいに近づいたそれは、やおら歩みを止める。そして、山羊のそれに似た捻じくれた角を持った頭を左右に振り、 喉の奥から唸るような声を発した。


「Ugrrrrrrrrr……」


 東都はその唸り声を聞いて血の気が引いた。彼はこれを聞いたことがある。

 子供の頃に犬に吠えられたときのそれと同じ、純粋な敵意に気づいたのだ。


「失礼しましたぁ!!!!」


 東都は振り返って白い聖域「トイレ」に入ると勢いよく扉をしめた。


<バン!!!>


 次に東都はトイレの扉についてあるはずのカギを探した。しかし、彼が設置したトイレには、最初からついているカギは無いようだった。


「あんのクソ女神ィ!!!」


<ガン!! ドガンッ!!>


「ひいいいいいいいい!!!!」


 扉が激しく叩かれてトイレが揺れる。

 東都は暴れる扉を抑えるが、今にもブチ破られそうだ。


「まずい、何か、何かないか……!?」


 東都はスキルの表を見るが、パッと見で施錠に関係するものは見当たらない。

 彼はもっと良く見ようと、スキルの表をスクロールする。

 しかし、慌てていたせいでついうっかり、何かのボタンを押してしまった。


「しまった、今何か押しちゃったぞ……」


★★★


「Grrrrrrr……」


 屹立する白い直方体「トイレ」の前で、人に似た獣が唸りを上げる。


 この存在は『致死率十割大森林』の命名の理由に関係している。


 立ち入ったものを、けっして生きて返さない致死率十割大森林。

 そして、この生物こそが、致死率十割の原因なのだ。


 この生物は「獣人」と呼ばれている。


 獣人とは人間と動物の特徴を混ぜ合わせた種族だ。彼らは変異した人間、あるいは動物の末裔であり、その行動は自分たちの本能――


 すなわち、原始的な「食欲」といった欲求に従っている。


 獲物を見つけた「彼」は新鮮な肉を求め、ごつごつした手をドアに振り下ろした。


「Grrrrrraaaaaaa!!!」


★★★


「しまった、今何か押しちゃったぞ……」


 東都はスキルの表を見る。

 すると、あるスキルの文字が光っており、スキルを取得したことを示していた。


(こ、これは――)


 そこで東都は、自分が押したボタンは『威力アップ』だということに気づいた。


(このスキルの意味はまったく分からない。

だが、何か良くないことが起こりそうな気がする……!!!)


「威力アップって……どういうことだよ……」


 東都はトイレの中を見回すが、何も変わった様子はない。

 しかし、その時、トイレの便器の中から、水が溢れ出した!!


「は? ちょ、おま!?」


 東都は驚いて便器から出る水を避ける。

 すると、便器の中から水がどんどん噴き出し始めた。


「うわっ!!!」


 東都は慌てて便器の上に立ったが、すでにトイレの床は水浸しになっている。

 水は止まる気配がなく、どんどん勢いを増していく。


「ヤバイって!!!!!」


 東都はトイレの扉を開けようとするが、外には獣人が押し寄せているので開けられない。彼はトイレの窓から逃げようとするが、窓は換気用で小さすぎて逃げられそうにない。


「ど、どうすればいい……ッ!?」


 東都は完全なパニックに陥っている。

 彼はスキルの表を見ると、まだ『速度アップ』『防御アップ』『耐久アップ』などのボタンがあることに気づく。


「そうだ、これで何とかなるかもしれない!!!」


 東都は迷わず『速度アップ』を押してスキルを取得した。

 すると、トイレの中から水が噴き出す速度がさらに上がった。


「ぎゃあああああああ!!!!」


 東都は絶叫して顔をこわばらせる。彼がスキルの表を見ると、『速度アップ』の説明に「水流の速度を上げます」と書いてあることに気づいた。


「それじゃあ逆効果じゃねえか!!!」


(……ん? 説明?)


 東都は今さら気づいた。

 どうやらスキルの説明は、そのスキルを取得しないと出てこないようだった。


「取る前に見せろぉぉぉぉ!!!!」


 東都は怒鳴るが、トイレは無慈悲にも水を吐き出し続ける。


「じゃあ次はこれだ……!!!」


 彼は次に『防御アップ』を押した。

 すると、トイレの壁や扉や窓に銀色の金属板が現れ、張り付き始めた。


「おお!!! これだよ!!! こういうのでいいんだよ!!!」


 東都は少し安心する。

 彼はスキルの表を見ると、『防御アップ』の説明に「外部からの攻撃を防ぎます」と書いてあることに気づいた。


「よっしゃ!!! これであいつもトイレの中に入れないぞ!!!」


 東都は喜ぶ。

 しかし、その時、トイレの中から水が噴き出す圧力がさらに上がった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!」


 慌てて彼はスキルの表を見る。そこで『防御アップ』の説明に「内部からの圧力も防ぎます」と書いてあることに気づいた。


「それじゃあ水圧で爆発しちゃうじゃん!!!」


 東都はもう泣きそうな顔になっている。


 彼は最後に残った『耐久アップ』を押してスキルを取得する。

 そうすると、トイレの中から水が噴き出す力がさらに上がった。


「もうヤダーー!!!」


 彼がスキルの表を見ると、『耐久アップ』の説明には「水流が強くなります」と書いてあることに気づいた。


「それじゃ威力アップと同じじゃねえかぁぁぁぁぁ!!!」


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