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デビュー戦(1)

 予選が終わり、東都はコロシアム地下の控室に戻った。

 すぐ横の囚人と肩が触れ合うほどにせま苦しかった控室だったが――


(……広い。ずいぶん風通しが良くなっちゃったな。)


 どれだけの囚人が命を落としたのだろう。

 だいぶ減ったが、正確な数はよくわからない。

 キラーチワワによってスムージーになってしまったからだ。


 今後も戦いが続けば、あの血肉の中に混ざる囚人はもっと増えるだろう。

 はたして、その中に自分は入らずに済むのか。

 東都はいい知れぬ不安を覚えたが、今は生き残ったことに対する安堵しかない。

 熱のこもった息を吐くと、火照った体をベンチに下ろした。


「ふー、ひどい目にあった」


「お疲れ様でしたトート様。お怪我はないですか?」


「はい。なんとか……いや、ケガより大きな問題が起きました」


「ケガより? それは――」


「柱! 柱! HA・SHI・RA!!!」


「あれです。」


「あぁ……大問題ですね」


 東都が手でさし示したのは控室のすみっこだ。

 そこには名状しがたい異常な光景があった。


 囚人たちが「I」の字になり、祈りの言葉を唱和している。

 予選から生還したきり、彼らはこの控室でずっとそうしていた。


「マズいですね。御柱教とかいう謎の宗教が仕上がりつつあります。その場しのぎのつもりだったのに、次第に洗練され始めてきて……」


「洗練ですか?」


「えぇ、変化しつつあるんです。このままだと大変な間違いが起きるかも」


「変化……トート様、いったい何が起きているのです?」


「トイレに向かって祈るだけの素朴(そぼく)な原始宗教。それが御柱教でした」


「そこですでに色々と間違ってる気がするのですが……」


「しっ、話の腰を折らないの」


「先ほどの試合。やむを得ずトイレの力で手助けしました。ですが、その圧倒的な力を見た囚人たちの中でトイレへの信仰心が芽生えつつあるんです」


「分かりますが、分かりませんね。」


「えぇ、さっぱりだわ」


「僕も同意見です。でも、現実問題として御柱教は力を増しています。信者が増えたことにより、今はハシムさんが預言者として彼らを統率している。組織化が始まったいま、信徒たちはおのずと増え始めるでしょう」


「柱! 柱! HA・SHI・RA!!!」


「どうするのアレ」


「こういうのはコニーの専門じゃなかったか?」


「オカルトはともかく新興宗教は守備範囲外よ。いまのところは害はなさそうだし、放っておくしかないんじゃないかしら」


「トート様、コニーでもダメだそうです」


「まぁ……今のところ害はないから、放っておくしかないですか」


「よぉ! お前さんたち、どうにか生き延びたな」


「あ、門番さん! さっきはひどい目にあいましたよ!」


「悪い悪い。なんとかコロシアムの職員にいって、セコンドのあんたを回収しようと思ったんだが……試合が始まっちまったからな」


「生き延びて何よりだ。――ほれ」


「ん、服?」


 門番は快活に笑って赤色の服を手渡した。

 つくりは粗雑だが、妙に鮮やかな色で奇妙な臭いがする。


「そいつはレッドチームのユニフォームだ」


「ってことは……」


「予選通過おめでとう。晴れてウォードッグだな」


「ぎゃぁ! ムリムリ無理ですって!」


「おめでとうございます、トート様」


「おかしいでしょ! なんで騎士のエルさんとコニーさんが出てなくて、一般人の僕がコロシアムに出てるんですか!」


「しかし、出場は事故だったとはいえ、立派に生き延びたわけですから」


「トート様は獣王を退けたほどのツワモノだもの。きっとチャンピオンになるわ」


(ぐ、そういえばそんな事もあったな……。客観的に見ると僕、龍神っていうヤバイ奴にみえてるんだった……)


「もう決まっちまったんだ。とやかく言っても始まんねぇさ」


「ところで、リングマスター殿はどちらに?」


「そうだ。正式に剣闘士になると、リングマスターとかいうプロモーターがつくんですよね?」


「おう、いるぜ。」


 門番の声を受け、東都たちは控室を見回した。

 しかし、薄暗い石の部屋にいるのは自分たちだけだ。


「失礼ながら、どちらにもおられないようですが……」


「おいおい、ここにいるだろ?」


「まさか、僕たちのリングマスターって……門番さん?!」


「そのまさかだ。うちの叔父がスポンサーで、俺がプロモーターになった」


「まさかの家族ぐるみ!?」


「まぁまぁトート様。見ず知らずの方がなるより良かったのでは?」


「それはそうだけど、なんかチューチューされてるみたいでやだ」


「せっかく世話してやってるのに、なんかイヤな言い方だな……」


「も、もうしわけない。門番どの、次の試合はどうなっているのです?」


「あー、それなんだが、次の試合はモンスター相手じゃなくって、人間相手だ」


「人間相手……」


 東都は表情を暗くしてユニフォームに視線を落とした。

 これまで東都が相手にしてきた連中は、全て亜人だった。

 人間の相手はこれが初めてになる。


「ブルーチームとレッドチームの10対10の戦いだ。コロシアムにセットをつくって、砂の国の歴史的な戦いを再現する試合をやるらしい」


「歴史的な戦いって、どんなのです?」


「東から来た異民族を蹴散らした戦いの再現だ。レッドチームは砂の国側。そんでブルーチームは東の国の役をやるそうだ」


「東の国……特別な装備や仕掛けがされるのでしょうか?」


「だろうな。騎士さんの言う通り楽な試合にはならねぇだろう。で、あんたらがこの試合に勝てば、剣闘士のランクは一気にウォリアーになる。」


「それはまた、ずいぶん気前がいいですね」


「なんでもコロシアムに出すモンスターが不足してるらしくって、1回の試合の規模が大きくなって、昇級に必要な試合の回数も減ってるんだ」


「ふーん……あ、キラーチワワもそのせい?」


「かもしれませんね。ムチャは承知であてがったのでしょう」


「ぐっ、運営側の不手際を押し付けられただけじゃないか!」


「ま、その分試合が派手になって観客のウケは良かったぜ」


「こっちは全然良くないんですが……」


「期待してるぜ、なんせあのハシムってやつは、もう異名が付いてるからな。その名も『異教の扇動者、ハシム・ザ・ヘレティック』ってな!」


(もうすっかりキャラが定着してるぅ?!)





そういえば、人間相手の戦いこれが初めてだったっけ?

何か忘れてるような…

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