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砂に潜む陰謀

 炎天下の太陽が砂の街に容赦なく照りつける。

 煌々と照りつける陽光を受けた砂漠の街は金色に輝いていた。


 スルタンの屋敷は街の端にある。屋敷の庭は人工的なオアシスが設けられ、豊かな緑をたたえていた。砂岩の壁は白い漆喰で塗り固められ、眩しいほどに光を反射している。その白さの正体は、北海から取り寄せた貝殻をすりつぶして作った漆喰だ。


 屋敷のアーチ状の窓は半ば閉ざされ、中からは涼しげな風鈴の音が漏れ聞こえる。

 しかし、鈴の清らかな音色はしわがれた怒号にかき消された。


「どうなっているのだ! それでは話がちがうではないかッ!」


 頑丈そうな金属のテーブルを、ハンマーのような拳が何度も叩く。


 拳を振り下ろしているのは、山のような体格をした初老の男だ。齢を経ているが、その肉体は頑健そのものだ。ギラギラと光る金糸を織り込んだ更紗サラサの民族衣装を着込んでいるが、そのゆったりとした服の上からでも彼の盛り上がった筋肉が見て取れた。


「何のために街を真っ二つに割ってまで、女神教を排斥したと思っているのだ!! コロシアムに使う『資材』の不足が続けば、住民の不満を抑えきれんッ!!」


「落ち着きたまえよスルタン。ものごとには時間が必要だ」


「時間……時間だと? その時間がないというのだッ!!」


 スルタンの怒号を一身に浴びていたのは、黒ローブを着込んだ若い男――

 背教者だ。


 スルタンはかねてより背教者の陰謀に加担していた。

 いま密談している豪奢な屋敷も、協力の見返りのひとつだった。

 しかし、彼らの会話を聞くに、その関係はほころび始めているようだ。


「今季のコロシアムの開催が迫っている。だというのに……納品されたモンスターは規定数の半分だ! こちらは仕事を果たしたというのに、だ!!」


「スルタン。あなたがした仕事に対して、謝意は惜しまなかったはずだが」


「あの金のことか? ハッ、どこの市場でキメラが買えるか教えてくれんか?」


「……それについては考えがある。聞く気があるならね」


「まずは言え! それから判断する。」


 背教者はスルタンの視線を避けて、手のひらをテーブルに置いた。


「砂アリ族を使うんだ。彼らに砂漠のモンスターを捕まえさせる」


「バカな! ムシどもを信じろというのか?」


「それは違うよスルタン。砂アリ族……ミュルミドンたちを侮ってはいけない。彼らは蛮族かも知れないが、優れたモンスターテイマーとしての素質がある」


「……ヤツらの技能に問題があるといっているのではない。砂アリ自体が問題だ!」


「君たちの因縁は知っている。砂アリ族との戦争は、女神教が来るずっと前から続いていた。しかし、西から女神によって導かれた転生者がやってきて、砂アリたちを砂漠に追いやった。そうして砂の国は女神教を信奉するようになった……だったね?」


「ならわかるだろう。今さら――」


「もう女神教は信仰してないじゃないか」


「…………」


「砂アリ族を砂漠の奥に追いやって100余年。ヒト族はもちろん、砂アリの中にもその当時の戦いを知る者たちはもういない。手打ちのしどころじゃないかな?」


 スルタンはテーブルから立ち上がり、風鈴が揺れる窓のそばに立った。

 彼の目は、窓の外に広がる砂漠の街を見つめている。横を向き、表情を隠したスルタンは、慎重に言葉を選びながら背教者に問いかけた。


 「なぜ急な心変わりを?」


 「心変わりなんかしてないさ。女神を廃し、この世界を人の手に取り戻す。目的は何ひとつ変わっていない」


 背教者の答えを聞き、スルタンは黙って長い(ひげ)をなでる。

 彼もまた、背教者の野望を支えることで、自身の地位を固めようとしていた。


 だが、この屋敷での会話は、二人の男の間に新しい緊張をもたらした。

 スルタンには背教者の考えが読めずにいる。

 背教者の目は、何かを探し求めているように見える。しかし、何を?


 窓の外では砂塵(さじん)が舞い上がり、時折、屋敷の庭を覆い隠す。

 形もおぼろげな企みが、風砂の中に埋もれていった。



シリアスシーンになると地の文=サンが詩的になる。

……このあとの反動が怖いぜ


次回、予選試合。

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