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自由を目指して

「取り調べが終わるまで、ここがお前の家だ」


「はーい」


「なんか妙に慣れてるな……」


「まぁ、色々ありまして」


「……まぁいい。しばらく大人しくしてろ」


<ガシャンッ!>


 砂の国についたばかりだと言うのに、東都たちは牢屋に入れられてしまった。

 どうやらこの国は筋肉ムキムキの変態に厳しいらしい。

 この惨事の原因になったハシムは何をしているかというと……。


 ハシムとその愉快な仲間達は、牢屋の中央で円座になって座っていた。

 押し黙り、園周辺だけお通夜のような陰鬱とした空気が漂っている。


「クッ、不覚……御柱様を奪われるとは」


 ハシムは悔しさに顔を歪ませ、石の床を殴りつけた。もっとも、牢屋に叩き込まれたのもトイレを奪われたのも、全て彼のせいなのだが。


「どうしたもんかにゃー?」


「さすが僕も、初手投獄は考えてなかったですね」


「意外と余裕そうにゃ?」


「慣れてますんで」


「オタク、西じゃ凶悪犯だったりするにゃ?」


「いや、そういうのじゃなくって……誤解されやすいタチなんです」


「つまり詐欺師ってことにゃ?」


「一応魔術師ってことになってるんですけど……」


「そういうことにしとくにゃ」


「しかし困りましたね、トート様」


 銃と剣、全ての武器を奪われたエルが、腰の軽さに苦笑いする。

 コニーも同じようにお手上げのポーズをして笑った。


「トート様と旅をしてると、目的を果たそうとするたびに何かしら起こるわよね」


「目的にゃ?」


「あぁ、そういえばマルコさんにはまだ説明していませんでしたね」


 東都はエルとコニーに目配せする。

 この部外者に話して良いものか? それを確認したのだ。

 二人は頷いて同意する。


 マルコのことはまだ完全に信用した訳では無い。

 だが彼はハシムよりもずっと話が通じる。

 打開策を打ち出すためにも、目的を把握してもらったほうが都合が良い。


「実は――」


 東都はマルコに旅の目的を説明した。

 背教者のこと。女神教のこと。そして共に戦う同盟者を求めていること。

 マルコは時々自分の毛並みをときながら、東都の言葉を黙って聞いている。

 彼の心うちにどういった思いがあるのか。

 東都は語るうちに時々不安を感じていたが、なんとか最後まで語りきった。


「――とまぁ、こんな感じですね」


「ふーん……大体の所は把握したにゃ。で、これからどうするつもりにゃ?」


「まずはこの牢屋を出て、そこからスルタンに会う……ですかね?」


「ですね。まずはこの牢屋から出ないと始まりません」


「アレはどうするにゃ?」


 マルコはそう言って牢屋の中央を指さした。

 爪の先にはそろって「I」の字になり、トランス状態になったハシム達がいる。

 あの存在が18禁の連中と御柱様をどうするのか、という意味だろう。


(ここまで引っ張ってきて、放って置くわけにもいかないよなぁ。っていっても、なんかいいアイデアがあるわけでなし。うーむ……まいったぞ)


「とくに思いつきませんね。放っておくわけにもいきませんけど……」


「なら、こういうのはどうにゃ?」


 横を向いていたマルコは、座り直した東都に向き直った。

 なにか突っ込んだ話をするつもりなのだろう。


「オタク、フツーに牢屋を出ていくとしたら、どれくらい時間かかると思うにゃ?」


「僕たち何もしてないんですけど……」


「それを調べるのにざっと1ヶ月。もっとも、忘れられてなければの話だけどにゃ」


「ベンデル帝国でも大体それくらいですね」


「長ッ?!」


(そっか、半分忘れてたけど、ここは異世界だった。こっちの法制度は元いた世界と違うんだった……それにしたって、無実の罪でも1ヶ月は長すぎだろ?!)


 実際問題、中世において牢屋の管理は雑だった。

 いやむしろ、管理されていなかったというのが正しいだろう。


 古代ローマ後期に制度化された懲役刑が存在したが、ローマが崩壊するとそれも衰退してしまう。中世において牢獄は副次的なもので、自由を奪う刑罰(懲役)を目的とした牢獄は存在しなかった可能性が高い。当時の状況としては、牢屋にいれるよりも即座に刑罰を与えるのが普通だったようだ。


 しかし、中世後期、近世になるとそれも変わってきた。

 司法が整理されたことで、牢獄の必要性が出てきたのだ。犯罪者が有罪の判決を受けた後、刑場送りにする数日の間、罪人をつなぎ止めておく場所が必要になってくる。これによって牢獄が整備され始めたのだ。


 また、市民権がないために「追放」が出来ない犯罪者。すなわち浮浪者、ロマやジプシーのためにも牢獄が必要となった。こうして牢獄が整備されると、やがて大都市の裁判で市民に対しても禁固刑を科すようになってくる。


 ベンデル帝国と砂の国の牢獄は、丁度このあたりの時代性に則すものだった。


「ぶっちゃけ、オタクみたいな貧弱な囚人が、その1ヶ月を耐えられるかにゃー? 牢屋じゃ水とおがくずの混じったスープしか出てこないにゃ」


「うん、間違いなくダメそう!! 3日でギブだね!!!」


「トート様、そこまで自信満々にいわなくても……」


「それで、マルコさんには何かオススメの方法がある感じですか?」


「シシッ、話が早くて助かるにゃ。囚人には、手っ取り早く日の当たる場所に出る方法があるにゃ。それどころか、そのままスルタンと会えるかもしれんにゃ?」


「そんな方法があるんですか?」


「なんかイヤな予感がしてきたけど……一応聞きます。なんです?」


「コロシアムにゃ。囚人がコロシアムに出場して優勝すれば、恩赦をもらって無罪放免になるにゃ。その時はスルタンが直々に恩赦を与えるにゃ」


「えぇ~? 僕にそんなこと無理ですよ」


「んなことわかってるにゃ。囚人はチーム、カンパニエを組んで戦うにゃ」


「カンパニエ?」


「剣闘士には装備を直したり、ケガをしたらその傷を治す医者が必要にゃ? 剣闘士は1人で戦えないにゃ。だから色々な連中をひっくるめてカンパニエを組んで、運命共同体として恩赦を目指すんだにゃ」


(なるほど……言ってみれば、剣闘士の会社みたいなもんか)


「でも、肝心の剣闘士が……」


「ほれ、そこに適任がいるにゃ?」


 マルコはそう言って「I」の字になっているハシムを指さした。



なんかトート一行の外道っぷりに磨きがかかってる気がする。

いいぞ、もっとやれ!

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