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ドワーフとネコ人

「ベンデル帝国より南にあるのがドワーフの国。東にあるのがネコ人の国です」


 エルはそういって蝋板に簡素な地図を書き始めた。

 アメ色の蝋の上に複雑な線がひかれ、国を示す点が打たれる。


「ドワーフの国、火の国はベンデル帝国の南にあります。ベンデル帝国と火の国の間には白ひげ山脈があり、容易に近づけない難所になっています。」


「ふむふむ」


「そして東にあるネコ人の国、砂の国はベンデル帝国の東にあります。砂の国は死の砂漠の手前にあります。こちらもまた、幾多の商人と旅人が倒れた難所ですね」


「ひえ……ドワーフの国も、ネコ人の国も、なかなか道のりが過酷ですねぇ」


「そうですね。なので両者の国はベンデル帝国と疎遠な関係にあります」


「うむ。しかし政治的に疎遠とはいえ、ドワーフの国は金属の交易があり、砂の国は東の国からもたらされた陶磁器や薬といった珍品の交易をしておる。民間でのつながりはそれなりにある」


「はい、閣下のおっしゃる通りです。もっとも、ネコ人との交易はドワーフに比べて小規模のため、あまり情報が入ってこないのですが……」


「それよな。ドワーフの国の情報は、意外と手に入りやすい」


「酒場に行けば、たいていあのヒゲ面が拝めるものね」


「ですが、一方のネコ人は謎が多いです。ベンデル帝国で彼らネコ人の姿を見ることは、まず無いといっていいでしょう」


「そうなんですか?」


「えぇ。ネコ人は砂の国を出ることがなく、彼らと接触したことがあるのは、東の国の商品を取り扱っている数少ない商人だけですね」


(ふむ……? ネコ人は自分たちの国を出ることがないのか。そういう文化なのか、それとも自分たちの国を出られない理由があるのかな?)


「ネコ人が国を出ることがないっていうのは、なにか理由があるんですか?」


 ふと疑問を思いついた東都は、エルに質問を投げかける。

 しかし、彼はそれに答える知識を持っていないようだった。


「わかりません。この世界の万物を著したとされる帝国の博物誌でさえ、ネコ人のことはたったの数行しか書かれていないのです」


「あらら、本当にネコ人のことって謎なんですね……」


「残念ながら……」


「あら? トート様は東の国から来たのよね? ならネコ人の国は通ったんじゃ?」


「あ、えーっと……」


(しまった、そういう『設定』だったのを忘れてた。なんてごまかそう……)


 東都はうっかりしていた。

 彼は『東の国』から来た魔術士という事になっている。


 東の国は、砂の国を越えた先、死の砂漠の果てにあるという。

 そう、砂漠を越えたなら、砂の国を通っていても何ら不思議ではないのだ。


 東都は口ごもり、言葉を詰まらせる。


「あの、実は……えーっと……」


「トート様、まさか……」


(ええい、もうなるようになーれ!!)


「実は、僕もネコ人の国には行ったことがないんです!!! 東の国から砂漠を越えたときは、魔術で水が補給できたのでそのまま突き進んじゃって……」


「なるほど……言われてみれば」


「トート殿の魔術なら、そもそも立ち寄る必要がないか。それもそうだったな」


「死の砂漠を単独で踏破するくらいですからね」


「……トート様の魔法が規格外だったのを失念してたわ」


 コニーは頭痛を感じているかのように頭をおさえる。

 まさか、トートがそんなことをするとは思ってなかったのだろう。

 実際していないのだが。


(ふぅ……危なかった)


 トートは安心して胸をなでおろした。

 つづけて彼は、エルにあることを提案してみた。


「ネコ人のことがよくわからないといっても、彼らと取引している商人はいるんですよね? その商人たちに話を聞いたら、何かわかりませんかね?」


「それがな……東の国の物品を扱う商人たちは、砂漠を越えるノウハウを他人に明かしたくないのか、秘密主義の傾向がとても強いのだ」


「あらら……」


「付き合いの多いドワーフに比べると、ネコ人の国はよくわからんのだ」


 ウォーシュ伯爵は、立派な口ヒゲをなでながら喉の奥でうなった。


 ドワーフの国は、交易を通してベンデル帝国と往来がある。

 しかし一方のネコ人は、特定の商人が交易を独占してしまっているらしい。


 この世界に詳しいであろう、伯爵やエルにとっても謎多き国らしい。


「伯爵、ネコ人と取引を行っている商人たちの名前はなんというんですか?」


「正確には商人ではない。彼らは『砂漠のキツネ』を名乗る傭兵なのだ」


「傭兵……ですか?」


「トート様、東の砂漠に近い領域は荒野となっており、危険な生物が多数生息しています。『砂漠のキツネ』は、依頼を受けてそうした生物を狩るのが本業なのです」


「なるほど……モンスターハンターみたいな?」


「そんなところですね」


「ふむふむ、『砂漠のキツネ』がネコ人との交易路を確立しているのは、彼らの能力に()るものが大きそうですね。ドワーフに比べて、ネコ人の国を訪れるのは難しそうだななぁ……」


「はい。普通ならばそうでしょうね」


「トート様には関係ないわよね」


「あっそうか、僕はトイレを召喚することで砂漠の中でも水を確保できる。だから、野外における生存は問題ない。問題は危険な生物だけか……」


「そうね。どちらの国も、難易度的には大差ないように思うわ」


「ふむむ……そうなると、どっちに行ってもいいわけか」


「トート様、いかがなさいますか?」


「うーん……伯爵?」


 東都は助けを求めるように伯爵を見た。

 どっちでもいいとなると、逆に決心がつかなかったのだ。


 この場で一番エラい人に決めてもらおう。

 そう思って東都が視線を投げかけると、伯爵は岩のような顔をほころばせた。


「トート殿がどちらに行くにしても、必要な物資は用立てしましょう。」


(うっ、勝手に決めてくださいとは言えない雰囲気になってしまった……)


「そ、そうですね……なら――」


 こうなれば、どっちになっても構いはしない。

 東都は目をつぶり、エルが持っていた蝋板を指さした。


しばらく更新がなかったのは、RPGツクールMZで作っているゲームの

イベント絵の作業をしていたせいでした…

作業が一段落したので、小説の更新を再開しました。


ちなみにこのお話、他サイトのコンテストに出してたんですが、

そちらの中間選考を通ってました。このまま世界を茶色に染めていく所存。

匂い立つなぁ……

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[一言] 中間選考通過おめでとうございます。 唯一無二のオーラが拡散されるのを願っています。
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