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【本格回】怪物の後始末

「さて、あらかた後始末はついたな……」


「お疲れ様です閣下」


「モレル皇帝、色々やらかしてましたね―」


「うむ……」


 一段落した後、東都たちは伯爵の屋敷の食堂に集まって事務作業を始めていた。

 もっとも、作業は伯爵とエルたちが行い、東都は見守るだけだが。


 あの後、モレル皇帝は議会の全会一致により廃位となり、皇帝は空位となった。

 そうなると、すぐさま次の皇帝を決めねばならないのだが……。


「議員が逮捕されたことで滞っていた仕事を再開し、皇帝の独断で進めていた事業を停止するだけで大騒ぎだったな」


(あの皇帝、無能な働き者すぎるんだよなぁ……)


 皇帝は帝国議会を機能停止に追い込んだ後、独断で事業を進めていた。


 ひとつは帝国軍の改変。ふたつめはフンバルドルフの再開発だ。


 帝国軍の改変の方は、帝国軍の装備をぬいぐるみをくくりつけたものから、職人が作った正式なきぐるみにアップグレードする計画だった。


 皇帝が残した書面によると……。


 現在の帝国軍は無骨で粗野でカワイクないとゲリーナが言っている。

 そこでワシは帝国軍をきゃわいくすることに決めた。

 ネコ、イヌ、ウサギ、そしてクマ。

 各種きぐるみをとりそろえ、帝国軍をカワイク、そして強くする。

 この計画は神聖不可侵な皇帝の偉業である。

 反対するものは即日処刑して、市門にさらしてみせしめとする!

 

 ちなみに、書面計上されていた予算もすさまじい。

 予算は今の帝国軍が、そのままもう一つ用意できるものだった。


 フンバルドルフの再開発の方も似たようなものだ。

 王宮と街の建物を改造する予定だったらしい。

 それもゲリーナ王妃の描いた落書きのようなスケッチを元に、だ。


 いくつものスケッチが残されていたが、そのどれもが重力と物理法則に対する挑戦とでも言うべき、エキセントリックなデザインをしていた。


 もしこの計画が進んでいたら、エルフの建物とはまた別のベクトルで町の住民が発狂していたことだろう。


「いやー、大惨事が防げて良かったですね」


「うむ……まさかここまでとはな」


「まぁ、これはこれで皇帝の偉業ともいえるかも、ですけど」


「むむむ? トート殿、偉業とはどういうことですかな?」


「ほら、これまでは帝国議会の権力が強かったわけじゃないですか。それのせいで、誰が皇帝になっても変わらない。そんなイメージがありませんでした?」


「ふむ……いわれてみれば」


「議会の権力が強すぎて、選帝侯の選挙も形骸化してたものね」


「モレル皇帝は、この『誰が皇帝になっても変わらない』という幻想をブチ壊した。次はもっともっと、きちんとした人を皇帝にしないとダメですね」


「なるほど……トート様のいうとおり、たしかに偉業ですね」


「考えうる限り、最悪の皇帝だったわよね」


「それにしても、議会って皇帝の廃位もできるんですね。ぶっちゃけると、そっちのほうが驚きましたけど」


「うむ。ベンデル帝国は領邦国家としての正確が強いからな。皇帝の権力は、フンバルドルフとその周囲にしかおよばんのだ」


「えーと、領邦国家……ですか?」


「トート様、説明してもよろしいでしょうか?」


「お願いします、エルさん」


「おほん、では……領邦国家とは、諸侯が半独立した状態の国家のことをいいます」


「それって国家っていって良いんですか……?」


「正直いって、難しいところです。ベンデル帝国では、帝国を構成する諸侯が事実上独立しており、皇帝は外交権のような限定的な権力しか持ちません」


「諸侯ってことは、ウォーシュ伯爵もか。伯爵は何をどこまでやって良いんです?」


「そうさなぁ。裁判、貨幣の鋳造、あとは築城の権利だな。それと自衛の範囲で戦争を起こすこともできる。まぁ、人間相手にやったことはないが」


「うーん……それって、ほぼ国家なのでは?」


「そのとおりです。国家の中の国家と言っていいでしょう。ベンデル帝国は分権化が進んでおり、各地の領主は集権化を強め、独自の軍隊すら持っています」


「ややこしいことになりそう。よく内戦になりませんでしたね」


「実際、今回の出来事はその寸前までいっておるぞ」


「ひぇっ」


「周辺諸侯からしたら、こんなのボーナスタイムですからね……」


「うむ。下手したら一戦おっぱじまっていたかもしれん」


「さっさと解決して良かった。マジで良かった……」


「しかし、次の皇帝を誰にするかがまた問題でなぁ」


「あっそうか。皇帝をおろしただけじゃ終わりませんよね」


「うむ。選帝侯の中から新しい皇帝を選ぶ、皇帝選挙が行われるな」


「え、皇帝って選挙で選ばれるんですか?」


「はい。ベンデル帝国の皇帝は、皇帝になる資格がある『選帝侯』と呼ばれる諸侯の中から選ばれます。ただ……」


「エルがさっき、国家の中の国家といっただろう? つまり……」


「自分の領土を統治するのに忙しすぎて、有能な人はそれどころじゃない?」


「その通りだ。ヒマで名誉欲のあるヤツを担ぎ上げることになる」


(神輿は軽くてバカが良いってやつかぁ…)


「じゃあどうするんですか? 空位ってわけにもいきませんよね?」


「それで今、こうして悩んで居るのだ」


「あっ、そっかぁ……」


「バカすぎるのを皇帝にすると同じことになるからなぁ」


「丁度よいのとなると、なかなか居ないわね」


「なんか、皇帝位が貧乏クジみたいになってる……」


「ほんっ……とに面倒くさいことになったなぁ」


「いっそのこと、ウォーシュ伯爵が皇帝になったほうがいいんじゃないですか?」


「いや、それはできん。それをしたら簒奪にしか見えんからな。」


「エッヘンさんはどうです?」


「「…………」」


 何気なく東都が彼の名前を口にすると、場の空気が凍りついた。

 なにか不味い事を言ったのだろうか。伯爵は押し黙って腕を組んでいる。


「…………」


(うわ、絶対怒ってるよ。これは……やっちまったか?)


「アリだな」

「へっ?」


「えぇ、宮中伯は一応選帝侯なんですよ。宮中伯は領地も権力も持ってません。ですが、名目上の権威だけはあります」


「フンバルドルフを統治していたわけだし、申し分は無いんじゃないかしら」


「よし、決まりだな。もうめんどくさいからこれで行こう」


「うわぁ、なんか雑に決まった」


「どうせフンバルドルフに居ないといけないんだから、あいつなら丁度いい」


「伯、またヘンテコなプロジェクトが見つかったぞ。なんでも港の改築案だそうだが、資材を発注した形跡がある。ちょっと見てくれ」


 その時、食堂の中ににエッヘンが入ってきた。

 彼もまた、皇帝のやらかしの後片付けをしていたのだ。


 伯爵はエッヘンから書類を取り上げると、にんまりと笑った。


「おいお前、皇帝になる気はないか?」


「……はぁ?」




ベンデル帝国のモデルになったのは、1600年代の神聖ローマ帝国なんですが

この国あまりにも複雑すぎんか?

国の内部にまた国があって、そのまた内部に・・・

ってなってるせいで、国境がワカメごはんみたいになっとるぞ???

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