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稽古場では、木刀のぶつかり合う音が響いた。

「くっ…」

「まだ行けるだろ!」

クロが激しくぶつかってきた。

「負けてたまるか…」

明楽は何とか抑えた。

「やるじゃん」

クロは蹴りを入れようとしたが、明楽はバックステップし避けた。

「だいぶ視野が広がったな」

「まだまだですよ…」

今度は明楽が飛び出した。木刀を突き立て、クロに一騎打ちを仕掛けた。クロは構えたが、予想を外れた。突き立てた木刀を瞬時に持ち帰え、地面スレスレに木刀を下に向けた。

「袈裟に切り替えるんか?」

だが明楽は木刀で攻撃しようとは思っていなかった。刀を離し、拳を込めクロの顔面に目掛けて構えた。

「っ!?」

クロは瞬時に木刀でガードしたが、明楽はクロの右腕にストレートを打った。

「ぐぅ…」

クロの中で何かが割れる音がした。クロは距離をとった。

「やるな…」

右腕がダランとしていた。明楽は我に帰った。

「あ…ごめんなさい。ムキになってた」

「大丈夫だ。これくらい」

そう言うと、クロは応急処置をした。

「出会った時より、動きが早くはなってる。だが、なぜストレート?」

明楽は木刀を拾った。

「何となく」

「気分屋だな。にしても、痛いよ」

「ごめんなさい」

「とりあえず、今日はここまでだ。明楽。行く準備をするぞ」

「でも…大丈夫?」

「大丈夫だ」

クロのサポートをしつつ、明楽は準備をした。

「クロの準備。私するよ」

「ありがとう。流石に利き手をやられると、どうも動けない」

「いや…私が力加減間違えたから…」

「気にしてない。それに、成長してるって感じてるから、俺的には嬉しいよ」

荷物を整え、城の外に出るとあの時の黒馬が馬装を整えて待っていた。ウルフもそばにいた。

「明楽。先に乗って」

黒馬に跨った。

「ウルフ。いってくる」

「はーい。明楽ちゃんも楽しんできてね」

「ウルフさんも、ゆっくり休んでください」

クロは黒馬を進めた。黒馬は灰色の世界を駆けていった。

どのくらい進んだのだろう。

「クロ」

「どうした?」

「腕大丈夫?」

「あぁ。大丈夫だ」

「前から気になってたんですが、この黒馬って?」

「この馬か?この馬は、俺が大学時代に乗ってた馬だ。この馬で大会も出てたんだ」

「すごい」

「だが、怪我で安楽死をしたんだ」

明楽は驚いた。

「え…でも、ここに」

「あぁ。俺がここに呼んだわけではない。自分から来たんだ」

そう言うと、黒馬は鼻を鳴らした。

「ちなみに、名前はルナだ。この子は元々真面目だが、いい成績残せてなくて大学が見放そうとしたところを、俺が担当して大会で一位取ったんだ。偉い子なんだぞ」

「すごいですね」

「この灰色の世界は面白いことに、生きてる者は夜になると影が襲ってくるけど、ウルフや兵士達みたいに死んでる者は何も襲って来ないんだ。だから、ルナが外にいても平気なんだ」

「だから、この間のは大丈夫だったんですね」

そうこう言ってる間に、目的のところについた。

「もう夕方だ。急ごう」

明楽は荷物を解き、クロは扉を開けた。ルナはまたどこかへ去っていった。

「ルナは意外と一人の時間が大好きなんだ」

「そうなんですね」

部屋へ入り、荷物を置いた。

「明楽。お茶でも飲むか?」

「やりますよ?」

「大丈夫だ。これくらい平気だ」

片手でヤカンに水を入れ、火を入れた。

「で、何で二人っきりになりたかったの?」

クロの問いに、明楽は少し赤くなった。

「実は、前から悩んでいたんだ」

「うん」

「城だと、なんか落ち着かなくて。ここの方が落ち着くから…」

すると、ヤカンが鳴り火を止めた。マグカップにお茶を入れ、明楽の方に置いた。

「私の、力の一部をクロに譲りたい」

クロは驚いた。

「え…なぜ俺?俺は明楽を傷つけてしまったし、ナイトを守れなかった。俺には、そんな資格はない。それに、明楽はまだ若い。明楽を狙う奴さえ居なくなれば、明楽は自由の身になれるんだぞ?」

「実は、人を好きになったの、クロが初めてなんだ」

明楽は俯いた。

「ナイトには言えなかったけど、多分気づいてた。私は早く死にたかった。生きていても、差別や虐めで嫌だった。生きてる意味って何だろうなって。ずっと思ってた」

「明楽…」

「あの時に、もう死のうと決めてた。学校を崩壊して、みんなを殺してさ。襲われるし、ナイトは殺されるし。もういいやって」

明楽はお茶を飲んだ。

「でも、クロに出会ってから人生が変わった。できたら褒めてくれる。楽しませてくれる。稽古と勉強にも付き合ってくれる。暴走したら止めてくれる。そして、守ってくれる。そんな人とこれからも一緒にいたい」

少し沈黙が入ると、クロが口を開いた。

「明楽。俺でいいのか?俺は、弱い人間だ。後悔だってする時もある。それでも、俺を選んでくれるなら、俺は守ってみせる」

クロの真剣な表情に、明楽は答えた。

「よろしくね。クロ」

すると、月がのぼった。今夜は三日月だった。明楽は鉢巻を解いた。

「どうすればいい?」

クロの問いに明楽はクロを抱きしめ、クロを見つめた。明楽の目はサファイアの様に青く輝いていた。クロは片方の腕で明楽を抱きしめた。

「怖いことはないと思う。私も初めてだから」

「明楽。俺を選んでくれて、ありがとう」

唇を重ねた。明楽の額の三日月が輝いた。すると、クロの体に熱い何かが流れてくるのを感じた。それと同時に、右腕の痛みが嘘のように引いてきた。

「明楽…これって」

クロは右腕が動けれることに気づいた。

「成功ね」

しかし、明楽はふらついた。クロは明楽を抱えた。

「大丈夫か?」

「ごめん。こんな強力だとは思ってなかった。でも、ありがとう」

椅子に座らせた。

「クロ。お腹空いちゃった」

「腕も治ったし、俺が作るよ」

「じゃぁ、クロの得意料理が食べたい」

クロは少し考えた。

「ビーフシチューにするか。パンも添えて」

「いいね!」

クロは早速調理した。いい匂いが漂うと、明楽はテンションを上げた。

「楽しみ」

「待ってろ。本当は時間かかる料理だが、魔法で短縮してるから」

皿に盛り付け、テーブルに置いた。レンジの音がなると、こんがりと焼き上がったパンを皿に乗せた。

「熱いうちに食べるぞ」

「いただきまーす」

明楽は勢いよく食べた。

「美味しい」

「よかった」

クロはパンにビーフシチューをつけて食べていた。

「この食べ方が俺は好きだ」

明楽も真似た。

「うま…」

「だろ」

あっという間に平らげ、満足した。

「ご馳走様でした。クロ。ありがとう」

「どういたしまして。明楽。先にシャワー浴びてこい」

「うん」

クロは食器を片付けてる間に、明楽はシャワーを浴びた。明楽がシャワーを終えると、入れ替わるでクロが入った。明楽はベットに座り、月を呆然と眺めていた。三日月は一番上までのぼっていた。

「今夜は綺麗な三日月だな」

上がりたてのクロが明楽の横に座った。

「明楽。俺の力の一部、受け取ってくれるか?」

しかし明楽は首を横に振った。

「今はその時期じゃないと思う。でも、絶対に受け取るから待ってて欲しい。ごめんなさい」

クロは明楽を抱きしめた。

「わかった。俺も待ってるから、いつでも言ってくれ」

「うん」

「今日は遅いから、寝ようか」

「そうだね。おやすみなさい」

「おやすみ」

クロは明楽の頭を撫でた。


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