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落ちていく

「すいません。取り乱して」

「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」

「ありがとうございます。なんかスッキリしました」

「そうですか。ならよかったです」

「でも、死ぬ意思はやっぱり変わりません」

「それでもいいと思います。生きるも死ぬも選択するのは自分次第ですからね」

「はい。でも私、怖いんです。崖に近づくと足が震えて…」

そう言って彼女は崖のギリギリの位置まで足を進め立ち止まった。彼女の脚は言葉通りガクガクと震え飛び降りることは難しいように感じた。彼女は少し立ち止まったあと、恐怖で崖から離れ瑠唯の横に戻った。

「怖いですよね、死ぬのも。あと、もう一回聞いてもいいですか?」

「はい、なんですか?」

「本当にここから飛び降りたいですか?」

「そうですね。飛び降りたくないですけど飛び降りたいです」

「そうですか。じゃあもし1人じゃ怖いなら一緒に行きますか?」

「え?でも…」

「俺も死ぬ意思は変わりませんから。ただし、一緒にあの世に行けるかは分かりませんが」

「どういうことですか?」

「ここからは落ちますが、黄泉の国に行けるかわからないということですね」

「黄泉の国って死んだ人が行く場所ですよね?なら行けますよ。ここから落ちて死なない人なんていないですし!」

「そうですね。そうだといいと願います」

「瑠唯さんって変わったこと言いますね」

「そうですかね。まあそれはさておき、一緒に落ちるなら準備しましょうか」

「あ、あの、でも、お兄さんは本当にいいんですか?死んでも」

「はい。俺も意思は硬いので」

「そう、ですか、じゃあ貴方に甘えさせていただきますね。私が死ぬために」

「はい、わかりました」

「あ、えっと今頃だけど、お兄さんの名前聞いても良いですか?」

「そういえばまだ名乗ってませんでしたね。俺は瑠唯と言います。貴方は?」

「私は莉乃です。莉乃って呼んでください。お兄さん顔立ちめちゃめちゃ綺麗ですよね。それに若そうに見えるけど学生ですか?」

「いえ、社会人です」

「そう、だったんですね…じゃあ敬語も使わなくていいですよ」

「そうですか?ではお言葉に甘えますね」

「はい。言ってるそばから敬語ですけどね」

そう言って莉乃はくすくす笑った後、真剣な顔で瑠唯の方をまっすぐ見つめ名前を呼んだ。

「瑠唯さん」

「はい」

「私と一緒に死んでください」

「はい、いいですよ。じゃあ準備しようか」

こうして少し会話をした後、瑠唯は車椅子に乗ったまま崖側に背中を向けた。そして少しづつバックで後ろに下がり崖に向かって近づいて行った。しかしその時、身体に全身の痛みが走り、車椅子が止まる。瑠唯はあまりの痛みに車椅子から落ち、地面に倒れ込んだ。幸いにもまだ崖からは少し距離があるので、崖からは落ちずにすんだ。

「くっ。あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

彼女は突然声を上げて悶える瑠唯を見ると、すかさず傍に近づき声をかけた。

「瑠唯さん!瑠唯さん!大丈夫ですか!?瑠唯さん!」

「ご、ごめ、ん。もう少し、まっ、て。平気、だか、ら…いつも、の、発作だから」

瑠唯は苦しみながらも必死に声を振り絞り、彼女にそう伝えた。

「なんか薬とかないんですか!?」

「あ、る…左、ポケット」

「じゃあすいません。ポケット失礼しますね!」

そう言って彼女は上着のポケットから薬を取り出し瑠唯に渡した。

「あり、が、とう」

瑠唯は彼女から薬を受け取ると薬を口に含み無理やり飲み込んだ。

そして暫く痛みに悶え唸り声が響いた後、10分ほどでだいぶ痛みがマシになってきた。

瑠唯はまだ痛むが紅羽がそろそろ来てしまうかもしれないと思ったので無理矢理体を起こした。

「ごめん。もうだいぶ良いから準備しようか」

「本当にもう大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫だよ。急にびっくりさせてごめんね」

「いえ、それは全然大丈夫です」

「ありがとう。じゃあ早速車椅子で移動したいんだけど1人じゃ戻れないから肩貸してもらっても良い?」

「はい」

「ごめんね、ありがとう」

そう言って瑠唯は車椅子に乗った後、再び崖のギリギリの位置までバックで下がり止まった。

「よし、ここで良いかな」

「どうやって落ちるんですか?」

「どうしようね。何か希望ありますか?」

「じゃあ、手…とか繋いどいて貰えませんか」

「いいですよ。けど俺握力も弱いのでずっと掴んでおくことできないけど良い?」

「そうなんですね。じゃあ…」

莉乃が続きを話そうとした時瑠唯の携帯の着信音が鳴った。携帯を開くと紅羽の2文字が表示されている。

「あ、どうぞ出てください」

「ごめん、ありがとう」

そう言って瑠唯は電話に出た。

紅羽は走っていたのか、電話越しの声は息が上がっていた。

「もしもし」

「瑠唯様今森に、着きました。お願いですので、死なないでください」

「それはできないよ」

そう言いながら瑠唯は紅羽を遠くからでも見つけられるように懐中電灯をつけて森の方を照らした。

「お願いです…瑠唯様。話しましょうもう一度…。瑠唯さま!?聞いてますか?瑠唯様!?」

紅羽は瑠唯に訴え続けたが瑠唯は何も言わず、携帯を一度耳から外した。そしてスピーカーにし、膝の上に携帯を置いた後、小さな声で莉乃の名前を呼んだ。

「莉乃ちゃん。もうそろで落ちるけど準備いい?」

「あ、はい、大丈夫です。でも、どうしたら…」

「大丈夫。俺も一緒だから」

「わかり、ました」

「この携帯切らずに持っててもらえる?」

「は、はい」

その携帯からはずっと紅羽が瑠唯を呼ぶ声が響いている。

「あの、いいんですか?返答しなくて」

「うん。多分そろそろ来ると思うから、姿が見えたら話すよ。うるさくてごめんね」

「いえ、平気です。大事に思われてるんですね」

「そうだね。俺にとってもあいつは大事だよ」

「そうですか。だから最後に会いたかったんですか?」

「そう。俺酷いやつでしょ」

「そうですね。残された方は地獄ですから。酷いと思います」

「そうだね」

すると電話から息の上がる声が聞こえた時、懐中電灯の先には片手に携帯を持ち、軽く屈んで息を整えている紅羽の姿が視認できた。

そして暫く息を整えた後こちらにゆっくり歩いてくる。

「来るな!!」

瑠唯は大きな声で紅羽に聞こえるように叫んだ。すると紅羽の脚はぴたりと止まる。

「ごめん莉乃ちゃん。携帯貸してくれる?」

「あ、はい」

「ありがとう。紅羽と少し電話で話したらすぐ飛ぼうと思う。もうこれで本当に質問は最後だから答えて。

俺と一緒に飛ぶ?」

「はい、飛びます」

「わかった。じゃあ俺が合図したら俺と一緒に落ちようか」

「はい」

話が終わると、瑠唯は切れていた電話を紅羽に掛け直した。瑠唯は自分の携帯を指差し携帯に出ろと言う合図をすると紅羽は自分の携帯を耳に当てる。

「はい…」

「来てくれてありがとうね」

「はい」

「最後に紅羽の姿見れてよかったよ」

「はい…」

「最後崖の下で俺の事死んだか確認してくれる?」

「は、い…」

「幸せに、なるんだよ?」

「やっ、ぱり、無理、です。無理です。瑠唯様…」

紅羽の声は段々と震え声に変わっていった。

多分泣いているのだろう。

「ごめんね、紅羽。もうお別れの時間だ。今までありがとう」

「瑠唯様ー!!!」

そう言って紅羽がこちらに走ってくる。

「おいで、莉乃。落ちるよ」

瑠唯は懐中電灯を地面に投げた後、両手を広げ莉乃に優しくそう言った。莉乃は瑠唯にそっと抱きつき身体をゆっくり瑠唯に預ける。

するとそのまま車椅子は後ろに落ち、2人の身体は崖へと投げ出された。

「ばいばい」

受話器越しで最後そう呟いた後、崖の上から手を伸ばして泣きながら俺の名前を呼ぶ紅羽が滲んで見えた。俺も上がらない手を必死に伸ばしたがもう届くことはない。

「瑠唯様ーーーーー!!!!!!!!」

俺は紅羽に名前を呼ばれながらゆっくりと落ちていった。あんなに俺のために泣いて、本当に優しい人だな紅羽は。どうかこのまま眠りにつけますように。そう思いながら涙で滲んだ目で見えなくなるまで紅羽を見た後そっと目を閉じた。

今回も読んでいただきありがとうございます。

一体瑠唯はどうなるのでしょうか…

続きをお楽しみに!

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