スーサイドの森
二人が寝静まった後、俺はタクシーを呼んだ。今から10分後、ここに到着できるとのことだった。そして俺はそれまでの間、紅羽と多々良に簡単な手紙を書いた。
【紅羽、多々良、今日はありがとう。最高の思い出になりました。そして紅羽ごめんなさい。紅羽は俺に死なないでと言ってくれたけど、俺はやっぱり死にたいです。もし今回死ねなかったとしても俺は死ぬために生きていきます。だからここから俺は何回も死ぬ事になるでしょう。多分今まで以上に傍にいることはしんどくなると思います。紅羽は傍にいると言ってくれたけど、ここから先は無理する必要はないよ。紅羽が俺の傍を離れたからって俺の大事な人なのは決して変わりはしないから。でもこれが最後のお願いにするから一つ言ってもいいかな。最後に紅羽の顔を見たい。もしこの願いを聞いてくれるなら
スーサイドの森のあの崖に来てほしい。そしてもし来てくれるなら電話をください】
俺は手紙を書き終わると自分の前の食器を重ねてどかし、そこに手紙を置いた。この手紙に書いたスーサイドの森まではここから車で20分ほどで着く。このスーサイドの森とは名前の通り自殺する人が多い森だからそう呼ばれている。実はこの森の中には俺の別荘があり高校の頃は良くそこで過ごしていた。父が自然が近くにある方がリフレッシュできると、病気の俺の為に小さな別荘をくれたのだ。何故自殺の森なんかにと思っていたが、建てた後に此処が自殺者の多い場所だと知ったらしい。しかし俺はこの森が好きで、車椅子で行ける範囲を良く探索していた。そして見つけたお気に入りの場所が別荘の奥を真っ直ぐ進んでいった先にある30m程の崖だった。晴れた日は特に心地よく、どこまでも広がる綺麗な青空を見ることができた。いつも1人になりたい時はそこでぼーっと空を見つめて心を空っぽにしていた。紅羽にはこの場所を教えていて、何度も一緒に来ているので知っている。
俺は寝室にある目覚まし時計を手紙の横に置き30分後の23時40分にセットした。そして携帯、小型の懐中電灯を持ち、家を出ると23時10分にタクシーに乗った。
「お客様、どちらに行かれますか?」
「スーサイドの森の近くに止めてもらえますか?」
「この時間にあの森に行くんですか?」
「あー、いえ。その近くに用があるだけですよ」
「そうなんですね。畏まりました。では出発いたします」
「はい、よろしくお願いします」
この森に行くと言うと自殺しに行くと思われてしまうので俺はこうして嘘をついた。今から死ぬ人をタクシーに乗せたくはないだろうしね。タクシーの運転手さんと時折会話しながら20分ほど経つとスーサイドの森の前に着いた。私はお金を払い
「ありがとうございました」
と言って車を降りた。
俺は懐中電灯をつけてさっそく森の中に足を踏み入れた。まずは別荘を目指して進んでいこうとそちらに向かっていると携帯の着信音が鳴り響いた。携帯の画面を見ると紅羽の二文字が表示されていた。俺はしばらく画面を見た後目的地に向かって進みながら電話に出た。
「瑠唯様!?聞こえますか」
「聞こえてるよ」
「お願いです。死なないでください」
「そう言うと思ったから先に来たんだよ」
「どうして今すぐ死のうとするのですか」
「生きる意味がないからかな」
「そんなことはありません。では、おこがましいですが私のために生きてください」
「紅羽は俺がいなくても大丈夫だよ。素敵な人と巡り会って俺なんか忘れて幸せな家庭を築いて、その人が紅羽の為に生きてくれる人で紅羽もその人の為に生きるんだ。俺はいなくても大丈夫」
「そんなあるかもわからない幸せなんていりません。私は今大切にしている者、大事な者の為に生きたいのです」
「ごめんね紅羽。でももう俺しんどいんだよ。何もかもしんどいんだ。死ねない身体、全身の痛み、社会から受け入れられない存在、恋もまともにできない、そして何よりこの辛い気持ちを何年続けていけば俺は幸せになれるの?紅羽だってきっと俺より大事な者を見つける日が必ず来るよ。その時俺の周りには何もない。だから俺の幸せはね、死ぬことなの」
「そんな悲しいこと言わないでくださいよ。生きていれば必ず、私以外にもあなたの傍にいてくれる人間は存在します!私が保証します!絶対にいます!だからまだ今じゃなくていいじゃないですか!!今死ななくてもいいじゃないですか!?」
「じゃあ紅羽が死んだ後ならいいの?」
「そ、そういうわけでは…」
「残酷だね紅羽。俺紅羽の死を見届けて平静でいられるほど心の余裕なんて残ってないよ。それにこのまま生き続けるということは俺が知ってる人全員の死を見届けるということ。俺そんなことしたらたぶん壊れるよ。心がね」
「わがままで、残酷で、自分勝手ということはわかっています。でも私もあなたが死んで受け入れられる程、心の余裕などありません。私も、ありません…」
「泣くなよ。映るじゃんか…でもごめんね。俺は何度言われても変わらないよ。もし今日死ねなくても死ぬ選択を変える気はない。今日死ぬ前に俺に会いに来てくれるならあの場所に来て、じゃあね」
「瑠唯さ」
という声が聞こえたが俺は電話を切った。
するとちょうど崖が見えてきたがそこには何と人の影があった。
俺はその人影が幽霊ではないか懐中電灯で照らすと長い髪の制服を着た女の子が目に映った。
そのライトに気づき女の子は振り返る。