幸せな飲み会
しばらく車を走らせた後、瑠唯の家の近くのコンビニに到着した。
瑠唯は降りるのが大変なので、買い出しは紅羽が言ってくれた。その間瑠唯と多々良は車内で2人にきりになり静まり返る空気の中瑠唯が口を開いた。
「多々良、ごめんね今日」
「何がですか?私は瑠唯様と楽しく飲めるの嬉しいですよ?」
「いや、そうじゃなくてさ、いろいろ気を使わせたかなって」
「いえ、全然ですよ」
「ありがとう。多々良は優しいよね。相手の気持ち汲み取るのも上手いし」
「そうですか?私も空気読めないときあるらしいですよ。紅羽さんによるとですが」
「2人の時はそう言うの気にしてないからじゃないの?それに面白くするためにわざと多々良が紅羽のこと煽ったりしてるでしょ?」
そう言って瑠唯がくすくすと笑う。
「ばれました?紅羽さんって瑠唯様の前では完璧でいたいと思ってるので、あえて崩したいという気持ちが出てしまって」
「3人でいるときはぜひ崩しにかかってよ。実は素の紅羽、面白くて好きなんだよね」
「そうなんですね。では私にお任せください。今日の目標は紅羽さんの素をさらけ出させる会ということにしましょう」
「そうだね!なんか余計楽しみになってきた」
そう言って笑顔で顔を上げると、ミラー越しに見えた多々良の表情が柔らかくなったことに気づいた。
それから二人の空気はさらに暖かいものに変わり、紅羽の話で笑いあっていた。
するとちょうど大爆笑したタイミングで車の扉が開く。
「なんかすごい楽しそうですが何話してたんですか?」
「内緒ー」
「瑠唯様が私に隠し事なんてー。さては多々良お前俺のことなんか言っただろ」
「いえ、特には」
「その顔は言った顔なんだよー!後で見てろや」
「どうしましょう瑠唯様。私がいじめられたら助けてくださいね」
「えーどうしようかな」
「えー!?そう言う契約では?」
「おい契約ってなんだ。ずるいぞ。私を差し置いて瑠唯様と契約など」
「多々良ー!とりあえず出発してー」
「畏まりました」
「いつの間にか瑠唯様が多々良サイドに変わっている。瑠唯様は私の見方ですよね?」
「えーどうかなー」
「多々良め。今日は吐くほど飲ませて三途の川渡らせてやる」
「えー。それは嫌ですね。でもいつも潰れるのは紅羽さんの方な気がするのですが」
「うるせ」
そんな2人の取り繕っていない会話が面白くて瑠唯は終始笑っていた。するとしばらくして自宅の近くの駐車場に車を止め3人は瑠唯の家に着いた。
「ただいまー」
「「失礼します」」
瑠唯は部屋用の車椅子に乗り換えた後、洗面所で手を洗いテーブルに着いた。
紅羽と多々良はてきぱきと動きお酒やつまみを用意している。
「瑠唯様はビールですか?」
「いや、さっきビール飲んだからウイスキーにする」
「本当ですか!?私もウイスキーにしますが私が作ったのと缶のお酒どちらにしますか?」
「じゃあ紅羽が作ったのにする」
「畏まりました」
そう言うと紅羽は嬉しそうに笑った後ご機嫌でお酒を作っていた。
「お待たせしました。こちら私お手製のウイスキーでございます」
「ありがとう」
「はい!」
一方多々良はお酒のおつまみになるようなものを作っているらしい。コンビニで買ってきたものそのまま出すだけでいいのに執事の何かが目覚めるらしくなぜかアレンジして出てくるのだ。
「お待たせしました。こちら生ハムのチーズ巻き、季節の野菜を取り入れた春のサラダ、コンソメ味のポテトチップスになります」
「ありがとう」
最後はそのままなんかいと思ったが声には出さず心の中で突っ込みを入れておいた。するとなぜか紅羽もそれに対抗し始めたのか紅羽の料理も運ばれてきた。
「瑠唯様お待たせしました。ふじのリンゴで作ったリンゴのカナッペ、チューリップの唐揚げ、ほうれん草とお豆腐のおひたしでございます」
「あ、ありがとう」
その後も料理が運ばれてくるが早くみんなで飲みたいので声をかけることにした。
「あのー、2人共もう料理作らなくていいよー。こんなに食べきれないし、この流れが続くと俺料理バトルの審査員見たくなっちゃうのでその辺で」
「すいませんつい楽しくなってしまい」
「まあ、楽しいならいいんだけどさ。せっかく集まったんだし皆で早く乾杯しようよ!今日は仕事じゃないしさ」
「それもそうですね!」
「畏まりました。瑠唯様がそうおっしゃるのならお言葉に甘えて」
そう言って2人が席に着くと3人で乾杯をした。
「じゃあ皆グラスもってー!今日もお疲れさまでしたー!かんぱーい!」
「「かんぱーい」」
そう言ってグラスを鳴らすと飲み会がスタートした。
「にしてもすごい量だね」
「まあ大丈夫ですよ。紅羽さんこう見えて結構食べるし」
「え、そうなの?」
「まさかそんなどうでもいいことですら瑠唯様の前では隠してかわい子ぶってるんですか?」
「かわい子ぶってねーし!次変な言い方したら熱燗の海に沈める」
「相変わらずですね紅羽さんは。俺に優しくないので大食い紅羽さんのエピソードを話しましょう!」
「おい!」
「いいねー」
「瑠唯様もそうおっしゃってるのでもう無理ですね!」
「はあー。まあ別にいいですけど、大した話じゃないですよ?」
「いいからいいからー」
「では、話しますね。実は紅羽さん、勤務の後とかに大盛りチャレンジとかしに行っちゃう人なんですよ!この前なんか2人で飲んだ後締めのラーメン言ったんですけど、デカ盛りスペシャルデラックス味噌ラーメン5人前を食べつくしたんですよ!凄くないですか?」
「えー!そんなに食べれるの!?その細い体で?」
「ほんとですよね。それが密な楽しみらしいのですが、なぜそれを隠しているかというと」
「おい!?それは言わなくていいだろ!」
「当時付き合っていた彼女にそれが原因で振られたかららしいです。外でごはんを食べる時、2人しかいないのに異常なほど頼むから恥ずかしくて無理だと」
「そんな理由で?それは紅羽可哀想だね。別に俺は引いたりしないから隠さず沢山食べればいいのに」
「紅羽さんは瑠唯様にそれほど嫌われたくないということですよ。紅羽さんにとって瑠唯様は彼女と同じぐらい大切な存在ということですね」
「うるせー彼女以上にだ!」
「ああ、すいません。彼女よりも愛が深かったみたいです。というか早くも紅羽さん酔ってきてますね。最初から一気飲みするからですよ。あ、実は紅羽さんお酒強くないんですよ」
「そうなんだ!なんかそれも意外だな」
「何か言わせたいときは飲ませるとすぐ吐いてくれますよ!」
「さすが多々良…。先輩なのに容赦ないね」
「その方が面白いですからね」
「多々良には気をつけよ」
「瑠唯様はお酒強いから大丈夫ですよ」
「じゃあ勝負する?」
「いいですよー」
この段階で紅羽はだいぶ酔っていて開始からわずか30分程で床に寝っ転がって眠ってしまった。
そしてその後ちょうど1時間ほど多々良と飲んだ後、俺はトイレに行くため席を外した。ほんの2、3分くらいだっただろうか。俺が部屋に戻ると多々良は机に突っ伏して爆睡してしまっていた。しかし俺にとってこの状況は好都合だった。
どっちにしろ2人が酔って深い眠りについてもらうことが目的だったからだ。
今日2人を飲みに誘ったのはそうだな。最後の晩餐とでも言っておこうか。