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気持ち悪い自分

 時刻は20時、瑠唯の自宅の扉は開かれた。

その扉を開いたのは瑠唯の専属執事の紅羽(くれは)という30代後半の男性だ。紅羽は瑠唯が病気に罹った時、早乙女家(瑠唯の家)にやってきた。瑠唯の家は早乙女製薬と言う有名な製薬会社で所謂いわゆる瑠唯は御曹司という奴だ。

今日瑠唯は、その紅羽に沙羅と解散する時間の20時頃に自宅に来るようメッセージを入れていた。しかし実際解散した時間は19時40分頃、瑠唯が自分の腹部を刺してからもう20分程経っていた。

「瑠唯様ー!玄関開けっ放しでは不用心ですよ。瑠唯様ー」

紅羽は廊下を歩きながら声を上げるが瑠唯からは何も返答がない。紅羽は何だか嫌な予感がし、恐る恐るリビングに向かう。そして扉を開くと台所で倒れている瑠唯を見つけ紅羽は颯爽と駆け寄った。

「瑠唯様!瑠唯様!聞こえますか!?瑠唯様!」

紅羽は必死に肩を叩きながら瑠唯の名前を呼びかける。すると瑠唯の目がゆっくりと開いた。

「る、瑠唯様!よかった目が覚めて。今救急車を呼びますのでもう少し頑張ってください」

そう言って紅羽は携帯で救急車を呼ぼうとするが瑠唯はその手を掴みこう言った。

「呼ぶな…」

「何を仰ってるんですか。このままでは死んでしまいますよ!」

「いいから、一旦俺の話聞いて」

「でも…」

紅羽の戸惑いの声を聴くこともなく瑠唯は右側にあるナイフを指さしこう言った。

「俺さ、さっきこのナイフで自分の腹思いっきり刺してすぐ抜き取ったんだ。そしたら大量出血してさ、段々と意識が遠のいて、やっとこの身体とサヨナラできるって嬉しかったんだよね」

「そんなこと、おっしゃらないでください。私はどんな瑠唯様でもずっとお傍で使えます。だからどうか生きてください」

「うん。ありがとうね紅羽。でも大丈夫だよ」

「この状態のどこが大丈夫だって言うんですか!?」

「ほら、よく見てよ。俺、腹から血出てる?」

「何言ってるんですか!そんなのあたりまえで…」

紅羽はそう言うと瑠唯の腹部を見た瞬間言葉が止まった。

「血、出てないだろ。でも俺はちゃんと腹にナイフ刺したんだよ。その証拠に服にはちゃんと穴が空いてる。それと、服めくってみて」

紅羽は瑠唯にそう言われ恐る恐る血まみれの服をめくった。

するとそこには、まるで手術が終わった後にできるような傷跡のみが刻まれていた。

「これは、どういうことですか」

紅羽は動揺しながら瑠唯に尋ねる。

「ほんとにね。俺が聞きたいよ。まあそう言うことだから俺、死ねないみたいなんだわ。まったくきもちわりぃーたらありゃしないよな」

「気持ち悪いなんてそんなこと思いません!どんな形でさえ、瑠唯様が生きていてくれてよかったです」

「どんな形でさえ…か」

「申し訳ありません。何か気に障りましたか?」

「いや、平気だよ。ありがとう紅羽」

瑠唯はそう言って優しく笑った。

「いえ、とんでもございません。それであの…不躾な質問とわかってはいるのですが1つ聞いてもよろしいですか?」

「うん。いいよ」

「何故急に死にたいと考えたのですか?」

「今日さ、沙羅に振られたんだよね。それだけって思うかもしれないけど、俺にとって沙羅は生きる希望みたいな存在だったからさ。一気に俺の世界が空っぽになったように感じて、もういっかなって思ってさ」

「そうだったんですか…。もっと私が早く駆けつけていれば…」

紅羽は下を向き悔しそうな表情を浮かべていた。

「なんでお前が苦しそうなんだよ。当たり前だけど紅羽が責任を感じる必要なんて1ミリもないぞ?でもありがとな。まだ俺が死んでも悲しんでくれる人がいるんだって思えて少し救われた」

「ありがとうなんてそんな」

「そこは素直に受け取る部分だぞ」

「申し訳ございません」

「あはは、なんか紅羽といるといつも通りで何もなかったように感じるのはなんでだろうな。もしかしたら俺が本当に壊れる時は紅羽を失った時かもしれないな」

「ではそうならないよう、長生きできるよう努力いたしますね」

「そうだな」

そう言って瑠唯はくすくすと笑った。そして少しの沈黙が流れた後

「よし、じゃあ風呂でも入るかな」

と言って瑠唯が身体を起こそうとしたので紅羽はとっさに支えながら瑠唯にこう言った。

「それはさすがにやめといたほうがいいかと…。いくら傷がふさがっていると言っても、まだ傷口が痛むと思いますし…。」

紅羽は瑠唯を壁に寄りかからせ座らせる。

「いや、大丈夫。まあ信じられないかもしれないけど、本当に腹にナイフが刺さったのか疑うくらい今はそんなに痛くないんだよ。何ならいつもの発作の方が何百倍も痛い」

「そう、ですか。まあ瑠唯様がそういうのであれば…。」

「うん。ありがとう。じゃあ車椅子お願いしていい?」

「はい。畏まりました。」

 紅羽は車椅子を取りに行きすぐに戻ると、瑠唯はさっそくお風呂に向かった。

一方紅羽は瑠唯の着替えを脱衣所に持って行った後、血まみれになった床の掃除に取り掛かった。

 それにしても本当に驚いた。あんなに出血していたのに無事でいられるなんて、普通の人間ではまずありえない。回復力も尋常ではないし、一体瑠唯様の身体には何が起こっているのだろうか。紅羽は床を磨きながら瑠唯の事をずっと考えていた。するとリビングにお風呂からの呼び出し音が鳴り響く。紅羽はその音で我に帰りお風呂場へと向かった。

 コンコン

「入っていいよ」

「失礼します」

紅羽は瑠唯に許可をもらい扉を開ける。

するとそこにはいつもと変わらない、瑠唯の華奢な背中が無防備に晒されている。

「ごめん紅羽。身体洗ってくれる?」

「はい。かしこまりました。」

紅羽は瑠唯の身体を背中から丁寧に洗っていく。

「前失礼いたしますね」

「おう」

紅羽は瑠唯の前に移動し、腰に巻いてあるタオルのギリギリまで腹部を洗っていく。

すると紅羽はさっき見た腹部の傷がなくなっていることに気づいた。

それはまるで最初からなかったかのように綺麗な傷1つない皮膚に変わっていたのだ。紅羽はそれに驚き、動揺した様子で口を開く。

「あ、あの瑠唯様。お腹の傷…」

「ああ。見ての通り。きれいさっぱり消えたよ。まるで何もなかったようにもう痛くない」

「そ、そうですか。でも万が一痛かったら言ってくださいね」

「うん。ありがと」

「いえ」

この後は沈黙が続き、身体を洗い終わると着替えを済ませ紅羽とリビングに戻った。

 瑠唯は台所の横にある、車椅子に合う高さのテーブルの前で紅羽が来るのを待機している。

「瑠唯様。どうぞ。」

紅羽はそう言って蓋が開いた瓶のコーヒー牛乳を瑠唯の目の前に置いた。

「ありがとう。紅羽も前座って」

そして紅羽が席に着くと瑠唯は一気にコーヒー牛乳を飲み干した。

「ぷはー!やっぱうめー!紅羽はなんか飲まなくていいの?」

「はい、私は平気です」

「そっか。じゃあちょっと話があるんだけど」

「は、はい。なんでしょうか」

紅羽が返事をしたところでちょうど瑠唯の携帯の通知音が鳴った。

「あ、ごめん。ちょっとその前に携帯確認していい?」

「はい、勿論です」

紅羽は先ほど沙羅と話していたカーペットが敷いてある机から、携帯を取って瑠唯に渡した。

瑠唯は紅羽から携帯を受け取るとすぐにメッセージを確認する。

「あー。そうだ。すっかり忘れてた」

「何かあったんですか」

「うん。明日中学の同級生と久しぶりに集まろうって約束してたんだった。1か月前とかに予定組んだからすっかり忘れてたよ」

「行かれるんですか?」

「うん。約束したし、何も予定ないし行くよ。せっかく生き延びたならせめて友達に会ってから死ぬのも悪くないでしょ」

「瑠唯様…」

紅羽はそう言って悲しい表情を浮かべた。

「あー。ごめんごめん。にしても相変わらず紅羽はどんな俺を見ても変わらず悲しんでくれるんだね」

「当たり前です。どんな姿であっても瑠唯様は瑠唯様ですから。優しい人柄なのも暖かい性格なのも何1つ変わりません。私の大事な主様ですから悲しむのは当然です」

そう言って紅羽は優しく微笑んだ。瑠唯は何だか急に照れくさくなり

「紅羽って本当に変わったやつ。でもまあありがとう」

と少し顔を赤らめて答えた。

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