エピソード2 獅子様
エピソード2
「双子って言うのはね、二人一緒に生まれてくることを言うのよ。」と夏美が言った。
すると、冬馬は不思議そうに首をかしげて、
「二人一緒なんて、ありえないじゃろ。」と言った。
「なんでありえないの?」
「生き物はみんな、生まれた時は二人一緒だけど、すぐ別れちゃうから。」冬馬は一言、つぶやいた。
冬馬が急に立ち上がったので、夏美も立ち上がり彼の後を追った。ふと、冬馬の背が先ほどよりひとまわり大きくなっているのに気付いた。
「こっちの世界では、ずいぶんと背が伸びるのが早いのねえ。」
「ヒノモトの世界では、僕たちよりも時間の流れがゆっくりだって、獅子様が言っていたからのお。ナツもすぐ、綺麗なお姉さんになるじゃろ。」冬馬が振り返って笑った。
冬馬の背中を見て、森の中を歩いていると、近くから笛の音が聞こえてきた。すると冬馬が
「おお、獅子様の笛じゃ。」と嬉しそうに言った。
「獅子様って誰?」と夏美が聞くと
「僕に何でも教えてくれる方じゃ。とても物知りなんじゃ。」と冬馬が答えた。
笛の音がするほうへ進むと、森の奥の方に大きな岩が見えた。スポットライトのように、岩の周囲に眩しい光が差し込んでいた。そしてその岩の上に一人の少女が座っていた。
「獅子様は目が見えないんじゃ。でもすごく頭がいいから、どこにでも行けるし、なんでも知ってる。」と言って、冬馬は岩の方へ歩み寄った。
夏美は不思議に思ったことを聞いてみた。
「獅子って言うけれど、私には普通の女の子にしか見えないわ。」
すると冬馬が、急に声を低くして
「じーっと見て。」と言った。
少女は笛を置いてゆっくりと立ち上がり、一度上を向いて光の方を眺めると、両手を岩場に下ろした。
すると少女は瞬く間に一頭の獅子に姿を変えた。夏美が見たことのある獅子とは違って毛並みが銀色で、光を受けてキラキラと輝いていた。
「すごく綺麗。私たちのこと食べたりしない?」と夏美が感嘆していうと、
「生き物は生き物を食べたりはしないよ。」と冬馬が言った。
生き物は生き物を食べない。なんて平和な世界だろう、と夏美は驚いた。
冬馬は獅子のそばまで行き、獅子に語り掛けた。
「獅子様。この女の子、ナツって言うんじゃ。この子、この世界のこと何も知らん。教えてやってくれないじゃろか?」
すると獅子は冬馬と夏美の方を向いて
「あなた、水の中で溺れてしまったのね。本当だったら死んでいたかもしれないけれど、ソラ様のお慈悲でここまでこれたのです。」と答えた。口は動いていないので、これもテレパシーだろう。獅子の目は閉じているが、まぶたの傍に蝶の羽のような模様がかかっていた。
「…?ソラって誰?」と夏美が聞くと、冬馬が夏美の方を向いて
「僕にはよくわからん。いつも獅子様が言うんじゃけれど、詳しいことは何も教えてくれないから。」と答えた。
獅子はゆっくりと立ち上がり、再び森の奥の方を向いて座った。
「あなた、追われています。本当はこの世界にいてはいけないから。」と獅子が言った。
「あまり長い間冬馬と一緒にいると、ソラ様がお怒りになります。そして私のように、目を奪われてしまいます。」
「それはどういうことなの?なんで私が、冬馬と一緒にいるといけないの?」と夏美が聞くと
「ソラ様は、気まぐれに誰かの目を取っちゃうらしいんだ。」と冬馬が言った。
「ところで、どうして獅子様は目を取られてしまったんじゃ?」と冬馬は首を傾げた。すると獅子は下を向いて、
「私の片割れが、ヒノモトで悪いことをしているからです。」と答えた。
「片割れがヒノモトで生き物を殺めているのです。ソラ様がお怒りになって、私と片割れに呪いをかけました。」
「それ故に私は目を奪われてしまい、私と片割れは獅子に変身してしまうのです。」