年上の女性上司は好きですか?
「木村くん、一旦休憩しよっか」
俺──木村直人は、会社の上司である山本美鈴部長に向かいの席から声をかけられ、パソコンの画面から目を離す。
この部署では、十二月二十四日のクリスマス・イヴは残業をしないという他の部署にはない決まりがあった。
この部署に女性社員が多いためか、この日に限っては定時の十七時に仕事が終わるようにする。
そして、もし仕事が残ってしまったらのなら、部長が残りを終わらせるという前部長がやり始めた謎の決まりである。
もちろん、前部長は山本さんに引き継ぐ際にこの決まりはもう終わらせてもいいと言っていたし、部署の社員にも終わらせることを告知していた。
しかし山本部長は、せっかくのクリスマス・イヴなのだし、この日くらいはプライベート優先にしてほしいと、この部長泣かせの決まりまで引き継いでしまったのだ。
そんな理由から、山本さんは例年のごとく残業し、俺は俺で居残ることを強く希望して山本さんを手伝うことになった。
「……はい、了解です!」
「疲れたわよね。イヴの日なのにありがとう。本当に助かるわ」
「このくらいお安い御用ですよ。むしろ部長とイヴを過ごせるなら、仕事でもご褒美です」
申し訳なさそうな声色に、慌ててそう返した。
作業を一つ終えたことに安堵し、つい無意識のうちに漏らした溜め息を聞かれてしまったらしい。
「相変わらず調子いいんだから。本当は残業なんてしたくないでしょう?」
そう言ってクスクスと笑う山本さんに釣られて俺も笑う。
出会った頃の山本さんに対する印象は、あまりいいものではなかった。
無表情というほどではないけど、それでも表情の変化に乏しく、性格は生真面目で男相手でも物怖じしないのか、言いたいことはガンガン言ってくる。
理知的で、理性的で、論理的な厳しい先輩。
何かと言い負かされ、泣かされそうになったこともあったっけ。
……あの頃は同僚と飲む酒が美味かったなー。
まあ、過去にそんなアレコレがあったというのに、それが今となっては居心地の良さすら覚えるようになるとはね。
山本さんのことが苦手だった頃の自分に『未来のお前は山本さんと笑い合えるような仲になるぞ』と教えたとして、一体どんな反応をするのだろうか。
「そりゃ残業は好きじゃないですよ? でも、部長にはお世話になりましたし、何かしら部長の手伝いができている時間っていうのは……なんだか嬉しいんですよね」
「ふふっ、なにそれ。あなたは私に対して苦手意識があるものとばかり思っていたのだけど」
「あ、やっぱり気づいてました? 確かに『苦手だなー』と思った頃もありましたけどね。でもまあ、その辺は色々とありまして、今ではそんなことはないですよ」
出会った頃の印象なんてものは、良くも悪くも、割と些細なことで変わってしまうものだ。
苦手な人だったはず、或いは友達だと思っていたはずの人だったのに、ある日突然異性として意識してしまう──なんてことはありふれたものだろうと思う。
きっと俺以外でも、こんな体験をしている人はザラにいるだろうさ。
俺は席を立ってオフィスの隣に備え付けられているキッチンへ行き、コーヒーメーカーからコーヒーを淹れた。
山下さんは甘めのコーヒーを好んで飲む。
いつもの俺ならエスプレッソを飲むところだが、今日は山本さんに合わせて甘めのコーヒーを飲むことにした。
戸棚にある砂糖と四つ、フレッシュを二つ取って机まで運ぶ。
「いつもありがとうね。本当に助かってるわ」
「いえいえ。入社当時にはお世話になりましたし、少しずつでも恩返しをしたいと考えてましたので」
コーヒーの入ったカップを山本さんのデスクに置いて、軽い調子で言う。
山本さんは短く感謝の言葉を言いつつカップに手を伸ばしたが、急にピタリと手を止めて、そのまま力無く机に置かれた。
そして肩を落としてシュンとする。
「そう思ってくれるのは嬉しいんだけど、ね。……こんなイヴの日まで付き合わせてしまうのは、流石に良心の呵責が……」
「本当に気にしないでくださいよ。今日の残業も自分で志願したんですから。それに、一緒に過ごす人のいない俺にとっては、イヴもただの平日です」
冗談めかしてそう言うと、山本さんはクスクスと小さく笑う。
「あれ、知らないの? 木村くんって部署内の女性に結構人気があるのよ?」
なにそれ、初耳なんだけど!?
なんで誰も教えてくれなかったの!?
ともあれ、漠然とモテたいわけでもないわけだし、それを知ったからといってどうこうようとも思わない。
嬉しくないわけではないが、それでも好きになってもらいたい相手からの想われなければ、どこか虚しく感じてしまう。
それはちょうど今、窓の外に広がる町を彩るためのイルミネーションのように、綺麗という感想以上のものを抱かせず、どこか空虚で儚げに感じてしまうようなものなのだ。
「そういう意味では、部署内の人達には悪いことをしたわよね」
ぼんやりと、天井に目をやりながら呟く。
「そんなことないんじゃないですか? 誰かに誘われていたわけでもないですし。人気があるのかどうかはともかくとして、誰とも過ごす予定がなかったのは事実ですから」
言いながら、俺も天井に目をやる。
山本さんがなにを見ているのかわからない。
いや、もしかしたら天井に目を向けているだけで、意識はまったく違うところにあるのかもしれない。
たとえどこに意識をむけていようが、別に構わないのだけど。
「まぁ、だから……不運にも予定のない俺が、尊敬する優しい先輩の役に立ちたいがために居残ったんだと思ってくださいよ」
俺は天井から目を離し、オフィスへと視線を向ける。
窓から入るイルミネーションの輝きが、この静かなオフィスを独特な雰囲気を作り出していた。
山本さんの方へ視線を戻すと、何故か俯いていてどんな表情をしているのか窺えない。
ただ、垂れた髪の隙間から見える耳と頬が朱に染まっていた。
「……私は、別に……優しくなんて……」
山本さんが自信なさげに、聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で呟いた。
しかし、それも次の瞬間にはなかったかのように、顔を上げて頬にかかった髪を耳にかけて普段と変わらない凛とした表情で言う。
「予定のないもの同士で過ごすということね。まあ、過ごし方が仕事という点は健全とは言えないけれど……」
「確かに健全と言えないですけど、それは他の人にイヴという日を健全に過ごさせようとした結果でしょう? でも、その本質は、とても善意に溢れていて、優しい思いやりに満ちた行動の結果ですからね。少なくとも俺は、これが悪い過ごし方だとは思いませんよ」
実際、他の人達はすごく感謝していた。
申し訳なさそうではあったけど、それでも家族や恋人、友人達と過ごせることに喜んでいたのは確かだった。
そんな一面を知ってしまったからこそ、俺はこの人のことに惹かれたんだよな。
我ながらチョロいと思う。
しげしげと眺めていると、山本さんはカップを手に取って口へ当て、小さな声で呟く。
「……そう。そうであるなら、いいのだけど……」
そう言ってちらりとこちらを窺う山本さんのなんと可愛いことか。
普段とのギャップもあり、好感度が天井知らずで上昇している気がする。
本当に、なんなのこの人……。
ちょっと可愛すぎない?
あ、ダメだこれ。
照れてる山本さんマジ可愛いわ。
「き、きっとそうですよ! 大丈夫です!」
うんうんと頷きながら、掘り出し物を見つけたオタクさながら、この状況をどうするべきか考えてみる。
正直、このまま照れている先輩を見ていたいと思うし、何なら普段は見られない山本さんの表情をもっと引き出して堪能したいと思う。
普段は絶対に見られないのだから、尚更そう思うのも仕方ないことだろう。
しかし、この残業をさっさと片付けて、食事でも行かないか誘うつもりだったりもするのだ。
……断られるかもしれないから、誘うかどうかはその時の雰囲気にもよるわけだが……。
もしかしたら、そんな雰囲気にはならず、あるいは誘うことができたとしても断られるかもしれない。
であるならば、今この時の珍しくも照れている可愛いらしい山本さんを見ている方が俺にとっては良いのではないか?
──いやいや。
もしかしたら食事に誘うことができて、たとえわずかな時間であっても山本さんとクリスマス・イヴを過ごすことができるかもしれないだろ。
そんなボーナスタイムを今この時の楽しみのために削ってもいいのか?
…………うーん、悩ましい。
悩ましいけど……せっかくの機会だ、ここは一縷の望みに賭けようではないか。
「さ、さて……そろそろ仕事をしましょうか。……このまま話を続けるのも悪くないですけど、仕事が片付かないことには落ち着かないですし……」
思考力と一緒にの頃の仕事もまるっと捨てて、このまま山本さんのことを見ていたい気になるも、そんな自分の欲望を抑えることにした。
「…………? ええ、そうね。あまり遅くなると電車がなくなってしまうものね」
妙にわざとらしくなってしまった俺の言葉に、山下さんは首を傾げながらも理由を訊ねてくることなく同意してくれる。
そのことに安堵した俺は、自分のデスクに腰掛けてパソコンへ向き直って、残りの仕事を片付けに入った。
* * * * *
時刻を見ると九時を回っていた。
昼間とは違う様相のオフィスは、何度見ても不思議な感覚になる。
人で賑わっているオフィスも悪くはないが、こうして静かなオフィスも悪くはないと思う。
今頃街では、恋人たちが楽しい時間を過ごしているのだろう。
あるいは家族で賑わっているのかもしれない。
山本さんをチラリと盗み見ると、パソコンを凝視しながら必死にキーボードを叩いていた。
そんな姿を見て、不意に笑みをこぼしていたことに気付く。
やはり、こうして好意を寄せている山本さんと一緒にいられるのは、とても嬉しいものだ。
それがたとえ、残業という形であったとしても。
もう少しこの時間が続けばいいのに、現実はそれほど都合よくいかない。
名残惜しいと思えば思うほどに、山本さんとの親密な関係を望んでしまう。
割り振られた仕事を終えることのできた俺は、ぼんやりとそんなことを考えていると、不意に「木村くん」と呼びかけられ、俺は咄嗟のことに「は、はい!」と大きくの声で返してしまう。
すると山本さんは、キーボードを打ちながらクスクスと笑った。
「急に声をかけてしまってごめんね? こっちはもう終わるから、木村くんの方はどうかなと思って」
「い、いえ、大丈夫です。俺の方はついさっき終わりました」
「それはなによりね。同じくらいの量を振り分けたんだけど……まさか木村くんの方が早く終わるなんて思わなかったわ」
クスリと笑って、どこか嬉しそう山本さんが言う。
こんな風に冗談めかすような山本さんを知っているのは、この会社にどのくらいいるのだろう。
「人は、日々成長するものなんですよ。伊達に部長のポチをやってませんよ」
「人の成長の素晴らしさを口にした次の瞬間、私の犬を自称することのおかしさがわかっていないのかしら?」
「訂正します。犬も日々成長するものなんですよ。伊達に部長のポチをやってません!」
「せっかく訂正したのに間違いを増やしてどうするのよ」
まったく、と山本さんは微笑みながらも息を吐く。
そんな様子に俺も微笑んでいたが、山本さんはそのまま聞き捨てならないことを口にした。
「それじゃあ、もう遅くなってしまったし、帰りましょうか」
「…………そうですね」
やばい、呑気に雑談している場合じゃなかった。
どうして終わりを確認された時に、そのまま流れで誘わなかったんだよ、俺。
焦る俺を尻目に、山本さんは自分の荷物をまとめていく。
俺も合わせて自分の荷物を片付けながら、どうやって誘うか考えてみる。
大丈夫、まだチャンスはある。
まずは食事をどうするのか確認するんだ。
それで山本さんが迷ったり、その辺で適当に済ますような感じだったら、俺と軽く食べに行かないか誘えばいいだけ。
何も変ではないし、自然に言うことができれば違和感を覚えられることはないだろう。
うん、大丈夫大丈夫。
シュミレートしてみても変じゃない。
堂々といつも通りの態度で言えれば問題ないはずだ。
……よし、食事に誘おう。
覚悟を決め、口を開こうとした──その時。
「そういえば、なんだけど……」
俺が言葉を発するよりも先に、山本さんが静寂に包まれたこのオフィスに石を投じた。
「……どうしていつも、残業に付き合ってくれるの?」
躊躇するような間が空いた後、それでも訊かずにはいられなかったのか、ぽつりと呟いた。
真っ直ぐに俺を見つめる目と、消え入りそうな声音には儚げは綺麗さがあった。
さて、なんと答えるべきだろうか。
三回ほど瞬きをしたくらいの僅かな時間。
時間にして数秒の間、俺は逡巡した。
いっそのこと言ってしまおうか、それとも適当なことを言って誤魔化すか。
そんな二択が頭を過ぎり、口を開くことができなかったのだ。
「……残業くらいしか、部長と一緒にいられませんからね」
「…………えっ?」
山本さんにとって予想外の返答だったのだろう。
大きく目を見張り、驚いている様子が見てとれた。
半開きとなった口からは、俺の言葉の真意を聞き出そうとする言葉が出てきそうだ。
「食事に誘って断られるだけならいいんですけどね。そこで不信感を抱かれてしまったら、今後の仕事に差し障りそうですし……何より、俺にはそんな勇気がなかったんですよ。でも、それ以外に一緒にいる方法なんて……残業以外になかったんです」
「どれだけ不器用なのよ……」
自分のデスクの前で、帰り支度の終えた状態で呆然と立ち尽くす山本さんの顔を、俺は自分の滑稽さに取り繕ったような笑みを浮かべる。
ほとほと自分の不器用さには呆れる思いだ。
「……そもそもどうして私なんかと一緒にいたいなんて思うの。あなたにとっての私は、ただただ口うるさい上司でしかなかったはずなのに」
まさかの言葉に、俺はギョッとした。
俺に告白させようとしてるん、だよな。
本気でわからないわけじゃ……ないよな?
「……言っちゃなんですけど、俺ってそこまでコミュ力高いわけじゃないんですよ。会社の人間とだって、必要だから関わっているだけなんですよね。孤立したって何の得もないから、それほど行きたくもない飲み会にも参加してたりします」
まあ、同期との飲み会はそこそこ楽しいですけどね、と苦笑混じりに溢して山本さんへ視線を向けた。
山本さんは不可解そうに俺を見つめて、無言で続きを促してくる。
「そんな俺が自ら望んで先輩と一緒に居ようとしているなんて……ちょっと考えればわかるんだじゃないですか?」
言いながら、呆れた様子をあえて見せつつ山下さんを見やると──
「…………ッ!」
見つめられた山下先輩はビクッと肩を跳ねさせて止まる。
驚いた顔で視線を彷徨わせていた。
「こんなこと言うのは慣れてなくて、すごく恥ずかしいんだけど……俺は部長を意識しない日なんてなかったですよ」
「……ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「慰めで言ってるんじゃないですよ。慰めでそんなこと、言いません。確かに最初は苦手な部長でした。そのせいか、ついつい視界に入ると追ってしまうようになって……気がついたら部長のことを考えない日はなくなってました。気持ち悪いでしょ?」
ははっと乾いた笑いをこぼして、繋がれた手を解く。
「俺も眠気でおかしくなってるんでしょうかね……。でも、もうここまで言っちゃったんだし、一人の男として伝えます。山本美鈴さんのことが好きです、俺と付き合ってください」
今日は、食事に誘うつもりだったんだけどな。
それなのに雰囲気に負けて、結局告白してしまってるとか……本当にどうしてこうなったんだか。
しかも、眠気まじりの状態でとか……情けないにも程がある。
けれど、いざ伝えてみるとどうだろう。
もちろん、振られるのは嫌だ。
振られた後にも職場で顔を合わせることを考えると憂鬱な気分になる。
それでも、ずっと胸にあった鬱々とした気持ちが消え失せていた。
ずっとすっと焦がれていて、それでも山本さんの足を引っ張りたくないと胸の内に秘めたけれど……結局はこの様である。
何かと理由をつけて逃げてきたけど、やはり俺は伝えたいと言う気持ちに嘘をつき続けることができなかったわけだ。
山本さんはじっと俺を見ていたが、暫くして躊躇いがちに口を開いた。
「私、君よりも四つも年上よ?」
「関係ありませんよ」
「頑固で理屈っぽくて、とても面倒な……いいえ、それどころか可愛げなんて微塵もない人間だと思うわよ?」
「俺はそういうところも含めて好きなんです」
「私、結婚を意識しちゃうから……」
「俺は結婚を見据えて気持ちを伝えました」
「きっと君にとって──」
「山本美鈴さん……あなたの気持ちを教えてくれませんか?」
言葉を続けようとする山本さんの声を遮って端的な答えを求める。
とはいえ、この流れでなんとなくわかっている。
付き合う気がないのなら、十中八九キッパリと断るだろう。
こんな風に俺に確認するようなことはしないと思うから。
「俺は本気です。よほど人として間違ったことでもしない限りは……きっと、貴女から離れたりしないと思います」
「……そこは断言してくれないのね」
ふっと息を漏らすと、不満げに口を尖らせる。
「断言なんてできませんよ。この言葉をそんな嘘っぽいものにはしたくないです」
笑おうとして、けれども笑い切れていない不出来な笑みを浮かべているであろうことが、自分でもわかった。
きっと他に言葉もあっただろう。
もっと冷静で、前準備をしていて、万全を期した告白だったなら上手いこと言えたと思う。
けれど、現実はそうじゃない。
こんな展開になることを予想してはいなかった。
こんな好機に恵まれるとわかっていたなら、もっと告白の言葉を考えてきたのにな。
山下さんは重い足取りで近づいてきて、俺の肩口にそっと額を軽く当てる。
そして、俺の胸辺りを軽く叩いてきた。
「そこは格好良く、断言するところじゃないの?」
「できないかもしれないことをできる、なんて言えませんよ。部長には正直に真摯的でありたいので」
「そうじゃないでしょう? 普段はそうあってほしいけれど、今この時だけは違うでしょう?」
言いながら、また叩いてくる。
痛みなんて感じないほどに軽い。
戯れてくる猫ような感じで、なんとなく微笑ましく思う。
「本当の意味で意思の誓いを立てるのは、一度だけでいいでしょう?」
そう言った瞬間、今までより少し強めに叩かれた。
照れ隠し、だろうか?
だとしたら可愛いな。
俺は手を胸に向けて手を持っていき、山下さんの手をそっと包み込む。
なんとも締まらない告白だと思う。
けれど、俺としてはこれで精一杯なのだ。
「……もう一度だけ、告白して? そしたら……返事、する」
「普段とのギャップがすごいですね。なんだかすっごく可愛いです」
俺が手を制しているせいか、今度は頭をこつんとぶつけられる。
ま、今のは俺が悪いな。
妙な照れ臭さのせいか、つい脱線してしまう。
ダメだな。
これじゃあ愛想尽かされかねない。
やっぱり、決める時はきっちりと決めないと。
「貴女のことが好きです。俺と付き合ってください」
言うと、山下さんは俺に包まれていた手を一度逃がし、そっと指を絡ませながら繋いでくる。
そして、肩口から額を離し、甘えてくるように猫のように頬を擦り寄せてきた。
「こんな私でよければ、よろしくお願いします」
顔を見れないのは残念でならないけど……これはこれで可愛いからアリ、かな?