私の運命の王子様はシンデレラと白雪姫
【毎週水曜の新作短編投稿】の第六弾です!
「ありがとうございました」
私は魔道具を購入して出て行くお客様に声を掛けた後、一息ついた。
やっぱり急にお客さん来ると変に緊張するなー……でも、もうお客さんもいないしまたゆっくりしてられる。
私リリス・コーラルは、今住み込みのアルバイト先である魔道具屋の受付兼会計机の前で大きく背伸びをした。
現在はアルバイト時間であるが、私の本業は魔法学院生である。
こう見えても私はここ、ミデリック国で一番と呼ばれる一流魔法学院ことウェンデルズ魔法学院の生徒なのだ。
ウェンデルズ魔法学院は、貴族平民問わず受験できる学院としても有名であり、厳しい試験に合格できれば誰でも入学する事が出来る学院なのだ。
そんな所に入学出来ている私が何故アルバイトをしているかと言うのは、入学金でほとんどの所持金が尽きたからである。
合格して意気揚々と入学したはいいものの、入学金でほどんどのお金が吹っ飛び、そこへ更に授業料の請求が襲い掛かって来たのである。
私は一般家庭に生まれたので、お金もそこまでなかったがウェンデルズ魔法学院に合格したと聞いた両親が頑張って稼いでくれたお金を託して送り出してくれたので私もこれだけあれば大丈夫と思っていたのだ。
だが、現実はそんな甘くなかったと思い知らされたのだ。
授業料に関しては、何とかある分を先に払って学院生を続けられているが、払えなければ学院を去らなければいけない。
教員に訊いた話によれば、毎年私の様な生徒はいるらしく同じ様に住み込みバイトをしながら学院に通うらしいが、結局は続かず学院を去って行く生徒が多いらしい。
その話を訊いて、私はゾッとしたが私が決めた道なのだから諦める事はしないと改めて決意し、この魔道具屋で働きながら学院に通っているのだ。
幸いここの魔道具屋はあまりお客さんが来ず、店番も辛くはないので店主のマルスさんからも暇なときは勉強していても良いと許可をもらっている。
マルスさんが経営する魔道具屋マルスは、様々な魔道具を扱っているが全く賑わう事はなく週に一人お客さんがくればいい方である。
品揃えも古い物から最新の物まで揃っており、大半はマルスさんが一から創った魔道具があり、私から見ても凄い店だとは思うが何故か人は来ない。
「立地的には確かに、裏道通りだし目につかない感じだけど、物は凄いから買っていく人が口コミで広がってもいいと思うんだけどな~」
私は店に置いてある品々を見回しながらぼやいていると、店の奥から店主であるマルスが現れた。
マルスは口周りに白い髭を生やしており、歳も六十手前であるが腰は曲がっておらず元気なおじいちゃんと言う風貌である。
「リリス、ちょっといいかい?」
「はい、何ですかマルスさん」
「すまんが今日はこのまま店番を任せていいか? 俺すっかり魔道具調整の仕事があったのを忘れててな、これから客先に行かなきゃいけないんだ」
「そうだったんですか。店番でしたら問題はないですが、マルスさん目的で調整しに来たお客さんはどうしますか?」
「あ~申し訳ないがまた後日だな。でもたぶん、そんな客どうせ来ないからいつも通りにしててくれればいいよ」
「分かりました」
「たぶん帰りは遅いから、時間になったら店は締めてしまっていいぞ。晩飯までには戻れると思うが、先に食べてしまってていいからな」
そう言ってマルスは急いで準備をすると裏口から出て行き、私はそれを見送った後再び受付兼会計机前の椅子に座った。
マルスは魔道具販売以外にも調整士という独自の仕事も行っている。
調整士というのはマルスしかおらず今の世には全く認知されていない職業である。
その仕事は魔道具の調整である。
持ち主の魔力に合わせ魔道具を調整し、持ち主に合った形へと変えるのだ。
魔道具と言っても結局は道具に過ぎないので、そんな事する人はあまりおらず自身の魔力が威力や精度に変化を起こすとされている為、自身を鍛える人がほとんどである。
だが、この世界では魔法発動に関しては必ず魔道具を経由して魔法を放つ為、自分の魔力にあった魔道具探しをするのも大切な事である。
ちなみに一般的には、杖や指輪など身軽に身に付けられる物が魔道具として有名である。
私の魔道具も指輪であり、マルスさんに調整士と言う仕事を教えてもらう為に目の前で調整もしてもらっている。
「目の前で見せてもらったけど、魔力調整とか私の魔力質にあった私だけの魔道具になったって感じで凄いよな。以前より一度に出せる魔力量も上がったし、微調整もききやすくなってるんだよね」
私は魔道具の指輪を見つつ、魔道具だけでここまでの変化が本当に起こった事に少し驚いていると店の扉が開き、扉に付いた鈴の音が響き渡る。
「いらっしゃいま――って、メネか」
「ちょっと、何その態度? 一応お客さんなんですけど私」
「じゃ、何か魔道具一つくらい買って行ってよ」
「それはリリスの対応次第かな~後、その赤髪いつ見ても綺麗だね」
「はいはい、ありがとう。そんな事言って、いつも何も買わないで話して帰るだけじゃん」
「リリスは私と話すのは嫌なの?」
「っ……嫌じゃないよ」
「恥ずかしながらそんな事を言ってくれるリリスも可愛いな~」
「もう! からかわないでよ!」
店へやって来た、髪がグリーンよりブルーに近い髪が特徴の女子はウェンデルズ魔法学院の同級生であり、唯一の親友でもあるメネ・グランディであった。
メネとは入学試験の時に出会い、そこで意気投合し入学してからも仲がいい数少ない友人である。
メネは貴族家の出身だが物腰の柔らかく、親しみやすく学院でも顔が広いので私以外にも知り合いも多い。
だが、私の様な貧乏学生とよく一緒に居る事が多く、それで一時期悪い噂が流れたがメネはそんなの気にする事無く、私との付き合いを続けてくれているのだ。
現在はそんな噂もなくなりメネも変な目で見られる事無く学院生活を過ごしている。
それはメネの性格や貴族家と言う事もあり、実力もあったからかもしれない。
真実は分からないけど、メネは私の親友だと言う事だけは揺るがない事実だと私は確信している。
ちょっと自信過剰かもしれないけど、私はそう思っているのだ。
「あれ? 今日マルスさんいないの?」
「うん。調整士の仕事が入ってたって言って急いで出てったの。だから、今日は私一人の店番」
「ふ~ん。ほぼいつも通りって事ね」
そう言いながらメネはニヤニヤしながらいつもの様に、受付近くにある椅子に座った。
「また寮から抜け出して来たの? そんなに頻繁に抜け出して来て、バレないの?」
「大丈夫よ。しっかし外出届を週の初めに一週間分だしてるから」
「でも承認されてませんってオチでしょ」
「あはは、バレたか」
メネはウェンデルズ魔法学院の学生寮に住んでいる。
大体の学院生は寮生活を送っているが、寮に入るにもお金がかかり私はそんなお金がない為こうやって学院近くで住み込みバイトをしているのだ。
貴族の人ならば毎日馬車で来ている人もいるらしいが、寮の方が自由もあり好きなような事が出来るので寮に入る人がほとんどである。
その代り規則はしっかりしているので、破ると罰則もあり成績にも影響が出るらしい。
まぁ全部メネから聞いた話なので実際はよく分からないのが、本当の所だ。
「で、成り行きで始めた魔道具創りの方は順調?」
「う~ん、マルスさんみたいに全然一から創れないんだよね。既存の物を組み替えるのはマルスさんと同じ様に出来るんだけどさ」
「そっか。でも良かったじゃん、学院じゃそんな事学べないし、マルスさんに認められて教えてもらえてるんだから才能があるって事でしょ。頑張りなよ、リリス」
「うん。最底辺だけども、特技は凄いのあるんだぞって所いつか見せてやる!」
「よ~し、それじゃ今すぐに私がそれを広めて来てあげよう」
「待ってー! 冗談、冗談だから! それだけはやめて~明日から廊下歩けなくなるから~」
「はぁ~全く、その引っ込み思案な所早く治した方がいいって言ってるよね、私」
そう、私は学院に入学したはいいが、成績もギリギリで貧乏かつ数少ない寮外生である為、かなり学院で浮いているのだ。
そこに拍車をかけるように私は弱気な一面もあり、細々となるべく目立たない様に学院生活を送っている。
だが内心ではいつか絶対に見返してやるぞ! と言う闘争心は持ち、他に誰も居ない時はこうやって強気に出たりしているのだ。
特にメネの前では大抵こう言うやり取りをして、メネに注意されて終わるのがいつものパターンである。
「まぁ、その性格は前よりマシになってるからいいけど。早く私と接する感じで、学院でも生活して行きなさいよね。所詮まだ私たちは一年生なんだから、これからどうなるかなんて分からないでしょ。まぁ、あの三花冠たちは別格だけども」
「三花冠?」
「嘘……リリス、知らないの?」
「えっ……あ~いや、ほら、あれでしょ、あれ。ししし、知ってるよ。あははは……」
「嘘言わなくていいって。リリスとは真逆の存在だし、別クラスだし知らないのも当然かもしれないけど、噂くらいは耳にしてると思ってたんだけどね」
「いや~ちょっと勉強に付いて行くので必死でして。後は魔道具創りとかにも休み時間を割いてたし……」
私が苦笑い混じりに答えると、メネは呆れた顔をしたが三花冠について丁寧に教えてくれた。
――三花冠とは、私と同学年で入学試験で最優秀成績を出した三人の男子の別名であった。
毎年入学試験で最優秀成績者は出るのだが、今年は現三年が入学時に出した過去最高成績に近い成績を叩き出した為、噂になっているのである。
彼らは実力以外にも容姿端麗でもあるので本名だけでなく、別名が付けられているのだ。
別名は彼らの性格や行動、容姿から許可などなく生徒たちが勝手に付けたものである。
その別名から彼らは男子ながらに、三花冠と呼ばれているのだ。
略称も生徒たちはバラバラでトリフラ、フラア、T3などと呼ばれている。
「あ~トリフラとかはクラスで女子が噂してたな。何の事か全然分からなかったけど、三花冠の事だったのか」
「うちの学年を代表する奴らだよ。ちなみに私はそいつらとは同じクラス」
「え、そうなの?」
私がメネに問い返すと、次に三花冠の三人を教えてくれた。
まず一人目は、ラッシュ・アルベルト。
特徴は瞳が白銀で、髪は金髪。
少しやんちゃで残念な一面があるが、熱く不器用な男子であり、その性格通り炎魔法を得意としている。
周囲からはしゃべらなければ容姿は一流王子並だが、残念な一面がある為容姿と言う魔法にかけられた時間が短いなどと言われている。
容姿とその話から、別名でシンデレラと呼ばれているのだ。
二人目は、シャーレ・ウィリアムズ。
特徴は瞳が赤く、髪は銀髪で眼鏡をかけている。
ラッシュとは幼馴染らしくよく一緒にいて、突っ走るラッシュのブレーキの様な存在である。
規律は守り、冷静に何でもこなすクールな男子だが、ラッシュに見せる冷たい態度や厳しい一面が女子には人気らしい。
魔法は白い氷魔法と少し珍しい魔法を使い、容姿とその魔法から別名で白雪姫と呼ばれている。
そして最後の三人目は、エンデ・ハクセン
特徴は瞳が蒼く、髪は黒髪で水魔法を得意とし、自身の容姿を活かしおんなたらしと呼ばれる男子。
いつも必ず女子生徒とおり、そのお陰なのか人脈が広く多くの情報を持っていると言う噂もある。
水を自在に操り、話術で女性を誘惑する姿からの別名で人魚姫と呼ばれている。
「以上が、三花冠の面子よ。ラッシュとシャーレとはまぁ話す機会があるけど、私はエンデとは全く話した事はないわね」
「シンデレラに白雪姫に人魚姫か……何か凄い別名だね」
「そうね。でも本人はそんなに気にしてない見たいよ。だって似た様に三年にも……いや、ややこしくなるからそれはまた今度にするわ」
メネはそこで一度話を止め、一息つくと喉が渇いたと言って来たので、私は奥に飲み物があると伝え案内しようとしたが、メネは「分かるからいいわよ」と言って一人で店の奥へと入って行った。
私がここで働き始めてから数週間後には、メネはここによく来てるからマルスとも顔見知りであり、もうだいたい何が何処にあるかを知っているのだ。
メネを見送った後、私は受付の椅子の背もたれにもたれて、天井を見上げた。
「三花冠か~私とは真逆の位置にいる人たちだな。それを言ったら、メネもそうなっちゃうか。私もこれから頑張れば、いつかはメネたちに並べるかな?」
そんな事を思いつつ、私は視線を受付机へと戻し、お客さんが来るまで今日の授業の振り返りをし始めた。
するとそこへメネも帰って来て、私が見ていた教科書の話をしていると、店の扉が開き鈴の音が聞こえるとメネは私から離れて邪魔をしない様に魔道具を見始めた。
私は教科書を閉じて店員としてお客さんに声を掛けた。
「いらっしゃいませ~」
店に入って来たのは、金髪と銀髪の男性二人であり、遠目だったが綺麗に整た顔立ちをしており少しだけ見惚れてしまった。
「いや~マジでこんな所に魔道具屋なんてあったのかよ。嘘だと思ってたわ」
「私が嘘を言う訳ないだろ。ここの店主の噂なら、お前の指輪も直ぐに直ると言ったのに、お前が全然私の話を聞かないからこうなっているんだよ」
「だってよ、有名な店に行った方が確実だと思うだろ? 腕のいい奴に見てもらったらすぐに治ると思ったんだよ。にしても、こんな古い店に、そんな凄い奴がいるのか?」
何だあの金髪の客……態度が気に食わん。
古くて悪かったですね! そんな事を言うなら、来なきゃいいのに。
私は内心そんな事を言いつつ、顔には出さずに二人のお客さんを見ているとこちらにやって来て銀髪の方が声を掛けて来た。
「あのすいません、ここに魔道具の調整をして下さる凄腕のマルスさんと言う方がいらっしゃると噂を聞いて来たのですが」
「はい。おっしゃる通り、店主のマルスは魔道具の調整をしていますが、本日は別件で店を空けていまして不在なのです」
「そうでしたか」
銀髪の方が少し困った表情をしていると、後ろの方で周囲の魔道具を見回していた金髪の客が急に前に出て来た。
「何だよ、いないのか。じゃ来た意味ねぇじゃんかよ。こんな古いのか新しいのかよく分からない魔道具揃えた店に来て、時間の無駄じゃねぇかよ」
「っ……」
「? 何?」
「失礼ですけど、さっきの言葉取り下げて下さい。この店には店主のマルスさんが丹精込めた作った魔道具も揃っていて、どれも凄いんですから」
「へ~その人が誰だか知らないけど、俺はこの魔道具を直してもらいたくて来てるんだよ。魔道具は買いに来てねぇの」
「だったら尚更です! うちの品を馬鹿にしないでくださいよ!」
「馬鹿にはしてないよ。率直な感想さ、感想」
私と金髪の客とで口喧嘩勃発寸前で、銀髪の客が間に入って来た。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
「止めんなよシャーレ、この店員が口でぶつかって来たんだから、受けてやらねぇと失礼だろう?」
「その態度何なんですか。あんな事言われたら、言い返しますよ普通」
「はぁ~あなたも見ていないで一緒に止めて下さいよ、メネさん」
その言葉に私はメネの方を向くと、呆れた表情で私の方を見ていた。
すると金髪の客もその言葉に反応して、メネの方に私と同時に視線を向けた。
「メネ?」
「え、知りあいなのメネ?」
「リリス、目の前の二人の特徴よく見て」
私は言われるがまま、金髪の客の横顔を改めて見ると整った顔立ちに瞳が白銀で綺麗な色だと思った。
そのまま仲裁してくれた銀髪の客の方を見ると、優しく微笑んでくれ一瞬綺麗な容姿も伴ってドキッとしてしまうが、改めて顔を見つめた。
すると瞳が先程の金髪の人とは違い綺麗な赤色で、髪の銀色と相まって見惚れているとメネが声を掛けて来た。
「リリスもう分かったでしょ? 二人はさっき話していた、三花冠の二人よ」
「えぇ? ……えーー!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「へ~君がメネの友人のリリスさんか。一時、メネの噂で聞いた子が君か」
「ど、どうも」
「まさか同級生だったとはな。そんで、俺たちの事も知らないとかマジかよ」
「……」
改めて互いに軽く自己紹介をしたが、シンデレラことラッシュは先程言った言葉を訂正せずにいた。
なので私はラッシュに対してあまりいい印象を持っていなかった。
「それよりも、ラッシュ。さっき言った事、早く謝れよ。あれは失礼だぞ」
「そうね。さすがに口が悪すぎるわね。同じ客として、気分が悪かったわ」
「うっ……悪かったよ。すまん」
ラッシュはシャーレとメネからの言葉もあり、私に素直に謝ってくれた。
まぁ、私も少しムキになっていた所もあるから店員としては失格ね。
反省しなきゃ。
そう思い、私もラッシュに対して失礼な態度を店員として取った事を謝った。
それから改めてシャーレから事情を訊くと、どうやらラッシュが大切に使っていた指輪の魔道具の調子が悪くなり、直してもらおうと魔道具を色々と回って見てもらっていたらしい。
が、どの魔道具店を回っても新しい物を勧められて少しイラついていたのだった。
どうやら、ラッシュが使っている指輪の魔道具は尊敬する父親から受け継いだ物らしく、直すではなく基本的には買い換えた方がいいと言われるばかりだったらしい。
まぁラッシュの大切にしたいと言う気持ちも分かるけど、一方で店員さんの気持ちも分からなくもない。
一般的に魔道具は道具であり、壊れたのなら買い替えるのが普通で直すと言う事はあまりないのだ。
しかし、マルスさんの様に魔道具を直している人は存在しており、そういう人を頼って大切な魔道具を直す人はいるのだ。
とは言っても、直すのには魔道具の構造や魔力回路などの知識に繊細な技術力と求められるものが多く、修理には時間がかかり、結果的に失敗と言う事もあるのだ。
だが、マルスさんはその中でも超一流と言える技術に、更にはカスタマイズまで行えると本当に凄い人なのである。
私もその辺の事情を知るまで全然分からなかったが、勉強し教えてもらうにつれてマルスさんの凄さを身をもって実感しているのだ。
「私の方でマルスさんの噂を聞いて、最初にこちらのお店に来る予定でしたがラッシュが話を聞かなくて、色々とお店を回ったと言う感じです」
「マルスさんを頼って来て頂いたのは嬉しいですが、タイミング悪くて」
「いえ、また改めて来ればいい事ですし、ラッシュには少し頭を冷やせるいい時間になるので」
「俺は乱暴に使ってねぇぞ。急に魔法が使えなくなったって言ったろシャーレ」
「ねぇ、リリスはマルスさんみたいに修理とか出来ないの? 色々と教わってるしさ」
メネの言葉にラッシュとシャーレが食い付いて来る。
「出来るのですか?」
「お前スゲーな」
「あ、いや、その教えてもらってるだけで、お客さんのとかやった事ないですし、そんな技術ないって言うか、早いって言うか」
私は慌てて期待された目を止めてもらう様に訂正するが、メネはそんな私の背中を押す言葉を言って来た。
「マルスさんもリリスに適性があるから教えてるんだろうし、見るだけでもいいじゃない。原因くらいは分かるんじゃないの? 熱中して学院の勉強よりも魔道具の勉強してるくらいなんだし」
「メネ! それは言わないでよ!」
「なら、一度くらいは見てもらっても損はないんじゃないのかラッシュ?」
「あぁ。どうせマルスって人はいないから直せないし、どうしてこうなったのかでももし分かれば、俺としては嬉しいね」
そう言って勝手にラッシュは指から魔道具の指輪を外し、受付の机の上に置いて来た。
「ちょ、ちょっと私の話聞いてます? 見たとしても原因が分からないかもしれないですし、そもそも私にそんな自信も資格もないって言うか……」
「自信なんて実際にやらないとつかないものだよ、リリス」
「メネ……」
「そうだね。経験に勝るものはないって言う人もいるからね。それに、リリスさんなら魔道具を大切に扱ってくれそうな安心感がありますよ」
「まぁ、俺としてはチラッと見てダメならダメでもいいけどな。変にいじられて壊されなければいいよ」
「お二人まで」
そこまで言われて私はようやく決心がつき、立ち上がって返事をした。
「分かりました。私でよければ、状況だけは確認する事は出来るので見させていただきます」
「あぁ。もう一回言うけど、壊すんじゃねぇぞ」
「はい、慎重に扱わせていただきます。では、店の奥の工房で見させていただくので、ついて来てもらっていいですか」
そして私はメネたちを連れて、奥の工房へと移動しそこで改めて座りラッシュの魔道具を受け取った。
外見的には、よく使いこまれており父親から受け継いだと言う事もあり、世代的には古い分類であった。
だが、よく手入れされており汚さや古さは全く感じなかった。
ひとまずいつから、どの様に調子が悪くなったかをもう一度確認ね。
私はそう思いラッシュに改めて、話を訊いた。
「急に使えなくなったのは昨日だ。今日は代理の魔道具で対応したが、やっぱりそいつじゃないと扱いづらい。元々癖がある魔道具だったんだが、こんなになったのは初めてで困ってんだ」
「なるほど。ちなみに癖と言うのは、どんなのですか?」
「あ~何て言うか、グッと力を入れて魔法を放つ感じだ。感覚で伝わりづらいと思うが、俺としてはそうやって力を入れられて魔法を放てるから、そんなに気にしてないし逆に気に入ってる所だ」
「私としては、見ていて使いづらそうとしか思わなかったけどな」
「俺が使えてるからいいんだよ」
う~ん、話を聞く感じだと少し強引に使っている印象だけども、もしかしたら魔力回路への魔力詰まりかもしれないな。
急に使えなくなる原因としては、魔道具の魔力回路の劣化もしくは魔力詰まりが大半だとマルスさんには教えられてる。
一応魔道具の魔力回路の展開と見方は教えられてるし、それくらいなら出来るし壊す原因にもならないからやって見るか。
私は今の事を話した上で、一応了承を貰いラッシュの魔道具の魔力回路を展開させた。
魔力回路は、簡単にイメージすると人間の血管の様な感じで、いくつもの血管が入り組んでいるイメージだ。
「(とりあえず壊れはしないってだけで了承したが、何か凄い事しててるってのは分かる)」
「(凄い。これが魔道具の魔力回路、実際には初めて見ましたよ。しかもあっさりと何事もなく、展開させてましたねリリスさん)」
……あ、あった。やっぱり、魔力詰まりが原因だ。
古いタイプの魔道具で、使い手が変わって流れていた魔力も変わった事で、魔力回路に合わない所で徐々に魔力が溜まって言った感じね。
で、たぶんラッシュが言っていた癖も、たぶんこの出力部分の問題ね。
前使用者は分散させて魔力を多く放つタイプだった様に見えるけど、ラッシュは一度に多くの魔力を放つタイプだから、分散型の所にぎゅうぎゅうに魔力を通すからさっき言っていた感覚になっているのね。
現に、魔力回路に少し無理をさせているからヒビが入り始めてる。
よく持っていた方ね。このままじゃ、いずれ壊れて使えなくなってたわ。
にしても、この魔力回路前にマルスさんに練習用として使わせてもらった奴に似てるな……これなら、直した事はあるし私でも出来るかも。
「リリス、どんな感じ?」
「うん。魔力回路見た感じでは魔力詰まりで間違いないよ。それとラッシュが言っていた癖は、この魔道具の出力先を少し調整すれば直るよ。今の魔力に合ってない感じで、回路にヒビが入って無理して使い続けたら壊れてたと思う」
「マジか……で、直せるのか?」
「ま、まぁ一応は。練習でやってた魔力回路に似てるし、魔力詰まりならそれを取るだけだからそんなに難しくはないし」
すると突然ラッシュが私の両肩に手を置いて来て無邪気な笑顔を向けて来た。
「何してるか分からなかったが、お前本当にすげぇよ! お前が直せるなら直ぐにそれ直してくれないか?」
私は顔が近いラッシュに驚いていると、シャーレがラッシュを引き離してくれた。
「こらラッシュ。急にそんなに近付いたら、誰でも驚くだろ」
「わ、悪い……直ると思ったらテンション上がっちまってよ」
私は少し顔を赤くしながら「大丈夫ですよ」と返した。
「それでリリス、直すのにはどれくらいかかるの? 時間がかかるものなんでしょ?」
「いや、この程度なら直ぐに終わるよ」
「え?」
「ラッシュの魔力計測して、その魔力を私が疑似的に再現して魔道具に流しつつ、詰まった箇所を解消するだけだから。ね、簡単でしょ」
と、私とメネに対して、ありのままの作業を伝えるとメネ意外のラッシュとシャーレは驚きの表情を向けて来ていた。
あれ? 私何か変な事言ったかな? 確かに修理には時間がかかるものだけど、これくらいなら直ぐに終わるし、普通な事だと思うけど。
この時の私は、皆が魔道具に関してそこまで深く理解があると分かっていなかったからの反応だったのだと、後々に気付いたのだった。
「ま、まぁリリスがそう言うのなら、任せてもいいんじゃないのかな、と私は思うけど」
「そうですね。最終決定権はラッシュにあるので、ラッシュの意思次第ですけど、どうするんだい?」
「簡単だって言うなら、やってもらうよ。難しい事はよく分からんが、直せるって言ったしな」
私はラッシュの承認を改めて得られた所で、ラッシュの魔力計測をする為に手を出してもらう様に伝えると、素直にラッシュは右手を出してくれた。
その様子をシャーレは、興味津々に見つめていた。
「(魔力計測と言ったが、彼女はどうやるのですかね? 魔力計測は、そう簡単な事ではないですし、一般的には魔道具をかえして計りますが……それに疑似的に魔力を再現すると言うのも気になりますね)」
よし、始めるぞ! いつも通りやれば問題ない。
私はラッシュの右手に向けて、自分の左手を合わせた。
「なっ!?」
するとラッシュは私が手を合わせた事に驚き、直ぐに手を引いた。
しまった、いつもの癖で何も言わずにやってしまった。
これやったのは最近だとマルスさんだけだったし、他の人からしたらそれが普通の反応だよね。
次からはしっかりと伝えてからやろう。うん。
「お前、急に何すんだよ。ビックリするだろうが」
「ごめんなさい。でも、今ので魔力計測は出来たので問題ないですよ」
「え?」
「(今ので魔力計測が終わった? 手を合わせただけで?)」
私は展開させた魔力回路に少しずつ、計測したラッシュの魔力を再現しつつ流し感覚を調整していった。
流した魔力で詰まりを取り除いて行き、まずは魔力詰まりを解消させた。
その次に、ラッシュの魔力に合わせた出力箇所の調整に取り掛かった。
魔力回路の調整に関しても練習時の様に魔力に合わせて大きさなどを変えるだけであったので、問題なく出来ると思いそのまま続行した。
細かく分散していた魔力回路を減らして、結合させてしまえばよりラッシュに合った魔道具になると確信していたので、その様に魔力回路を調整し修理を完了させた。
「終わりました」
私は展開した魔力回路を畳んで魔道具へと戻し、ラッシュへと指輪の魔道具を手渡した。
「お、おう。サンキュー……その、本当に直ったのか? 直ぐとは言っていたが思っていたより、早過ぎじゃないか?」
するとシャーレも似たような問いかけをして来た。
「ラッシュの言う通り、私としても早すぎる気はします。魔道具の修理と言ったものを初めて見ているので、こう言うのは失礼かもしれないですが。話では一時間程は掛かると聞いていましたので」
そうなのかな? マルスさんなら、もっと早いと思うけど。
確かに細かく調整とか、魔力回路を新品に直すとかだとそのくらいの時間はかかると思うけど。
私は改めて魔道具に関する修理などの説明を、私の理解している範囲で伝えるとラッシュとシャーレは納得してくれた。
するとメネが魔力計測に関して訊ねて来た。
「私、リリスから魔力計測が出来るとは聞いていたけど、手を合わせて出来るとは思わなかったわ」
「あれ言った事なかったけ? 昔からの特技的なもので、唯一自慢出来る事なんだよね。まぁ、ほとんど役に立たなかったんだけど。と言うか、マルスさんに教えられなければ、使い道が全然分からなかったんだよね……」
「(生まれた時から身に付けている、特異体質的なものですかね? 特異体質自体は既に確認されているものですし、それなら説明はつきますね。にしても魔力計測が特技とは、面白いですね。興味ががぜんと湧きます)」
「聞いてないんだけど?」
「ごめん、ごめん。別に隠してた訳じゃないんだよ。言ったつもりになってただけって。あはは……」
私は苦笑いをしながらメネに返事をすると、メネは「今教えてもらったからいいわよ」と言って小さくため息をついた。
「なぁ、ここで試し撃ちみたいなのって出来ないのか? どうなっているか確認がしたいんだが」
「出来ますよ。そうですよね、大切な魔道具ですしそう思うのは普通ですよね。広くはないですけど、地下にそう言う場所があるので、そこへ行きましょうか」
そうして私は、ラッシュたちを店の地下へと案内した。
地下には三十メートル程先に的を用意した魔法の試し撃ちが行える施設を整えており、ここでは新作の魔道具や調整・修理した魔道具の調子を確認する為にマルスがよく使う場所である。
私も練習で行った魔道具の調子を見る時に使っているし、マルスさんからも使用許可は貰っているので問題はないのだ。
ラッシュには、ここで使う魔法は一番威力の低い魔法だけと注意をしてから、私はメネとシャーレが待機している所へと向かった。
そして私が離れたのを確認してから、ラッシュは魔道具の指輪を付けた手を前に出し、的に向けて魔力を流し炎魔法を放つ。
が、ラッシュが放った炎魔法はどう見ても一番威力が低い魔法ではない火球であり、火球が的に直撃すると大きな爆発音が地下中に響き渡った。
その光景に私だけでなく、メネにシャーレも驚いており、何故か張本人のラッシュまで驚きの顔をしていた。
「ちょっと、私の話を無視したの?」
「い、いや違う! いつもの感覚で極小の火球を放ったら、あんなデカい火球が出たんだよ! 嘘じゃねぇぞ!」
「本当?」
「本当だっての! こんな所で嫌がらせなんかするかよ! 魔道具直してもらっておいてそんな事しねぇよ!」
するとシャーレが後ろから声を掛けて来た。
「ラッシュ、いつもの感覚って言っていたけど、どんな感じで魔法を使ったんだ?」
「え? そりゃ、いつも押し出す感じじゃないと魔法が放てない癖があるから、そうやったけど」
その話を聞き、私はその癖の部分も調整した事を伝え忘れていた事を思い出した。
あ~そう言う事か……言い忘れてた。
私は直ぐにラッシュに癖の部分に関しても、勝手に魔力に合わせて調整していた事を明かして謝った。
「なるほど。確かに、さっきの魔法を放った時は、以前の様に押し出す前に勢いよく放てたな。お前が変えていたのか」
「本ッ当にごめんなさい! 勝手にやってしまいました! あれでしたら、直ぐに直せるので」
「いや、このままでいいよ。こっちの方が物凄くスムーズに魔法が撃てて楽だ。今まで癖に合わせるのが大変だったが、魔法がこんな楽に撃て威力も前よりも高いと、こっちの方が全然いい!」
「気に入って頂けてるなら、良かったですけど……本当に勝手にいじってしまってすいませんでした」
私が改めて頭を下げてると、ラッシュは「そんなに謝らなくていい」と言って来た。
そして私が顔を上げてラッシュの事を見ると、ラッシュは少し視線をずらした。
「その、勝手にやったのは良くないけどな、俺としては結果的にいい方に転んだんだから、そんなに落ち込むなよ」
「……もしかして、励ましてくれてます?」
「ばっ! ちげぇよ! 俺はただ、その、いつまでもめそめそしてる奴が嫌いなだけだ! お前は誰も直そうとしなかった、俺の魔道具を直して更には前よりも凄くさせた。それでいいんだよ! 細かい事は今回は気にすんな!」
ラッシュの言葉に、私は後ろめたさがあったがそれを取り払ってもらった気持ちになった。
私は素直に「ありがとうございます」と感謝の言葉を口にすると、ラッシュは何故かたどたどしく「お、おう、分かればいんだよ」と口にした。
そのたどたどしさに、私が突っこんで問いかけるがラッシュは「何でもねぇよ」の一点張りだった。
そんな光景を見ながらメネとシャーレは話をしていた。
「貴方の話を聞いてこの店に来ましたが、リリスさんの実力を知っていたのですか?」
「いいえ、リリスが魔道具の勉強やマルスさんに教えを受けているのは知っていたけども、あそこまで出来る事は知らなかったわ。それに彼女の魔力計測が特異体質だと言うのは、今日初めて聞いたわ」
「なるほど、貴方にも想定外でしたか。あれほどの力を持っていながら、何故学院では劣等生の分類なのですか?」
「さぁね。リリスは勉強に追いついて行けないと言っていたし、能力的にも学院合格のギリギリのラインね。入学試験では本質的な能力や魔法試験に学科試験とあるわけで、適切な振り分けだとは思うわ。それに魔道具に関しては、入学してからここで学び始めたそうよ」
「確かに入学時点で今の力を持っていも、あまりその力が発揮される試験ではないですね。そう言えば、どうしてネモさんは彼女と友人に? 何か秘めている事を感じたからですか?」
「いいえ、そんな事何も感じなかったわ。ただ私は、普通に彼女と意気投合しただけよ。損得とかそう言うの一切なしの、本当の友として付き合っていける気がしたから、何を言われても彼女といただけよ」
「そうでしたか。それは失礼な事をいいました。でも、彼女の力は本当に凄いですね」
「なんなら、貴方の魔道具もラッシュの様に調整でもしてもらっては?」
するとシャーレは、眼鏡を軽く触りながら身に付けていた魔道具の杖の方へと視線を向けた。
「そうですね。改めてお願いしてみるつもりですよ」
メネはシャーレが何か企んでいる表情をしていると思ったが、あえてそこには突っ込まずに無視をするが釘だけは刺すのだった。
「そう。でも、リリスをいじめる様なマネでもしたら、分かっているわよね?」
「酷い事などしませんよ。何でしたら、後で教えてるつもりでしたよ。少し協力して欲しかったので」
「?」
シャーレの言葉にメネは首を傾げた。
それから私たちは地下から上がり、店の受付まで戻った。
そして私はラッシュから今回の代金を受け取り、ラッシュ改めて私に感謝をしてくれ満足げに店を後にして行った。
シャーレも「また学院で」と言ってラッシュの後を追って行くと、メネも時間的にそろそろ寮に帰ると言って、シャーレと共に店を出て行くのだった。
私はラッシュたちが店から出て行くのと同時に「ありがとうございました」と声を掛けた後、力が抜けた様に椅子へと座り込んだ。
そして店で一人きりになった所で、初めて一人でお客さんの魔道具を修理・調整出来た事に私は小さくガッツポーズをした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日、私はいつも通り学院の教室へと辿り着く。
そして教室に入り挨拶をするが、返してくれるのはほんの一部の生徒たち。
他の生徒は、私の事を見下しており劣等生として口も聞いてくれないのだ。
基本的に、クラス分けは入学試験の結果で振り分けられる。
しかし、クラスには入学試験で優秀だった生徒も半分はクラスに分けられるのだ。
私はギリギリに入学できる点数だったので、底辺のクラスに分けられている。
その為大半のクラスは優等生と劣等生で分けられている状態である。
優等生の全員が全員劣等生を見下している訳でもないので、雰囲気が物凄く悪い訳ではないが、極力優等生は優等生で劣等生は劣等生同士で班などを組んだりするのが暗黙のルールになりつつある。
まぁ、他のクラスがどうなのかは知らないがうちのクラスはそうなのだ。
しかもそれを先導する様な人が、どこかしらの貴族令嬢の集まりだから余計にたちが悪い。
クラスの皆はそれを知りつつ、面倒事にならない様に極力さけつつ、暗黙のルールに従っているのである。
そして、私もその一人である。
教室の後ろでは、貴族令嬢グループのリーダーが自慢話をしそれを取り巻きの令嬢が褒めると言ういつもの様に光景である。
私は彼女らには興味も関心もないので、自席にて授業の復習をしていると突然その令嬢たちが絡んで来たのだった。
「あら、劣等生のリリスさんは朝から勉強熱心ですわね。そんな簡単な箇所を復習しているなんて」
「あはは……私覚えが悪くて、こうしないと授業について行けないので」
「あらまぁ、それは大変ですわね。授業について行けないのでしたら、学院を早めにお辞めになった方が身のためでしては?」
「っ……い、いや~それはちょっと……せっかく入学出来たので、頑張りたいので」
「劣等生の分際で、どれだけ頑張っても無駄でしてよ。努力などでは埋められないものが、この世には存在しているのですから」
「……」
「まぁその様に、いつまでも無様に這いつくばっていればいいですわ。所詮貴方は平民なのですから、限界を知って絶望しない様に私がやさしく言葉を掛けていたのだと、後々実感すればいいですわ」
どこが優しくだ、どこが! 完全に馬鹿にしてるだろうが!
「ユウカ様、そろそろ行きましょう。その様な劣等生に構っていては、こちらまで悪い影響を受けそうですわ」
「そうですわね。では、劣等生のリリスさん、お勉強頑張ってくださいまし」
そう言ってユウカたちは、馬鹿にした笑い声を出しながら自分たちの席へと向かって行った。
私はその場から言い返す事無く、何事もなかった様に復習に戻った。
はぁ~朝から面倒な奴らに絡まれた。
その後クラス担当教員がやって来て、今日の授業が始まりいつもの様に時間が過ぎて行き、昼休みを迎えた。
私は今日は学食で食べようと移動しようとした時だった、廊下の方にやたらと人だかりで出来ており騒がしくなっていた。
何だ? 次から次へと人が右から左へと向かって行くな。
何かやってるの? そんな事何も言ってなかったけど。
すると徐々に廊下の騒ぎが教室の方に近付いて来て、私の教室にその中心人物が入って来て騒ぎを理解したのだった。
「え~と……あ、いたいた。おい、リリス」
そう言って私の名を呼んだのは、三花冠でシンデレラと呼ばれているラッシュであった。
ラ、ラッシュ!?
私は驚いたままその場で立ち尽くしていると、ラッシュが近寄って来た。
「リリス? 聞こえてるか?」
「……な、何をしてるんですか?」
「昨日も思ったが、別に敬語じゃなくていいぞ。同級生だしよ。それより、一緒に昼飯行こうぜ」
突然の昼食のお誘いに周囲にいた生徒たちもざわつく。
もちろん私も驚き「はぁ?」と返してしまった。
それもそうである、同学年で最優秀成績を出して有名人物が、同学年でド底辺劣等生をお昼に誘っているのだから。
私は完全にどうしていいか分からずに固まっていると、教室に遅れてシャーレとメネもやって来た。
「ラッシュ、先に行くなって言ったろ。リリスさんの事も考えろ」
「え? 昼飯を誘うのなら、早い方がいいだろ」
「そうじゃなくてだな、はぁ~」
そう言ってシャーレが頭を抱えると、メネがやって来て声を掛けてくれた。
「ごめんね、リリス」
「メネ~どう言う状況なの?」
私は小声でメネに助けを求める声を出した。
「全部ラッシュが悪いの、ごめんね」
「おいリリス、どう言う事だよそれ」
するとメネはリリスの問いかけに答えずに、私の手を握って歩き始めた。
「とりあえず、ここだと色々と目立つし食堂に行くよ」
「え、ちょっと」
そうして私はメネに引っ張れつつ食堂へと向かうと、ラッシュとシャーレも後ろから付いて来るのだった。
一方で、ユウカたち貴族令嬢グループが私の姿を睨む様に見つめていたのだった。
食堂へと到着すると、そのまま二階席へと引っ張れて行く。
食堂の二階席は、限られた者しか入れずその者たちの許可がないと勝手に入っては行けない場所なのである。
「ちょちょ、ちょっと! ここ二階席なんだけど!? 入っちゃダメなんじゃ……」
「大丈夫よリリス。私たちが居るんだから、問題ないの」
「え?」
そのまま私はテラスに近いテーブル席に座らされると、周囲にメネやラッシュにシャーレも順に席に着き始めた。
私が席に着いて周囲をきょろきょろとしていると、メネが話し掛けて来た。
「リリスは、二階席に入れる人がどう言う人か知らないんでしょ。なんせ、三花冠を知らないくらいだもんね」
「うっ……」
「リリスさん、二階席に入れるのは、各学年でトップクラスに在籍している生徒だけなのですよ」
「へ、へぇ~」
「マジで知らなかったのかよ」
「知らなくて悪かったわね!」
私はラッシュの馬鹿にするような言葉に強く言い返すと、ラッシュは笑うのだった。
そんなラッシュをメネが注意し、暫く黙っている様に言うとちょっとした言い合いになる。
私がそれをどうにかしなきゃと思っていると、シャーレが「あれは、あのままにしておいていいですよ」と言って来た。
「え、でも」
「それよりも、今日はラッシュが突然教室に押し掛けてすいません。あんな騒ぎを起こすつもりはなかったんですが、ラッシュが勝手に行ってしまって」
「確かに物凄い事になりましたけど、気にしないでください。それよりも、あんな事を言ったラッシュの方が心配です」
「ふふ、リリスさんは優しいですね。自分の事より、ラッシュの心配をするなんて」
「あはは……私の方は色々と言われるのは慣れているといいますか、日常といいますか」
私が苦笑いで答えると、シャーレは少しだけ黙った後に話を再開した。
「ラッシュの事は心配されなくても、ああいう性格ですし問題ないですよ」
「そうですか。またメネの時の様になったら、嫌だな嫌な気持ちにさせるんじゃないかと思いまして」
「もしそうだとしても、ラッシュはネモさん同様にそんな事気にせず、貴方に接して行くと思いますよ。リリスさんからしたら迷惑かもしれないですけど、彼なりに貴方を認めた証拠でもありますよ。言い方的に上からでしたけど、簡単に言えば貴方と仲良くなりたいのですよ」
「私なんかとですか?」
「リリスさんは自分が思っているより、人を引き付ける魅力があると言う事ですよ。現に、私も貴方と仲良くなりたくてこうしてお昼に誘ったのですから」
思いもしない展開に私は理解が追い付かずいた。
え、三花冠とも言われる人たちが私と友達になりたい? いやいや、嫌じゃないけどもどうして? 昨日会ったばかりだし、確かに魔道具を直した仲ではあるけども……
私はそんな事を考えていると、メネにその思考が読まれたのか「どうして、とか思ってるでしょ」と図星をつかれてしまう。
「だ、だって、ド底辺の劣等生だよ私。メネとは入学試験で会ってそれからトップクラスと言うのには驚いたけど、その最初の友達でもあったし……普通に考えれば、そんな事あり得ないじゃん」
「リリスの気持ちは学院のクラス分けとかで分かるけど、劣等生だからとかそう言うの関係なく、二人はリリスの事をもっと知りたいと思ってるんだよ」
「まぁ、間違いではありませんね」
「お、俺は別に知りたいとかじゃなくてだな、凄い奴とは交流がしたいだけだ」
「それは、相手の事が知りたいと同じなのでは?」
「うるせぇ、シャーレ!」
二人が私の事を知りたいからか……確かに、私もメネと話してからもっと一緒に話したいとか色々と知りたいと思ったから避ける事無く一緒に居たんだった。
それと似てるって事か。
「リリスは友達が少ないんだから、こういう機会に友達を増やしたらどう?」
「一言多いよ、メネ!」
「ごめん、ごめん。で、どうリリス?」
「……私としては友達が増えるのは嬉しい。しかもそれが学院で有名な人となると余計にね。でも、やっぱり迷惑なんじゃないかなって思う反面もあるの」
私はこの学院で劣等生と優等生が表立って仲良くしているとどうなるかを、既に知っているからためらっているのだ。
小さな嫌がらせや変な噂が流れて、私は無視をしていればいいけど、相手に私のせいで迷惑が掛かっていると思うと辛いのだ。
するとそこでラッシュが割り込んで来た。
「優等生とか劣等生とか関係ねぇだろ。そんなの他人が勝手に付けたレッテルだし、そんなの言ったら俺だって変な名前付けられてるしよ。気にし過ぎなんだよお前は」
「気にし過ぎって、自分のせいで他の人に迷惑かけたらって思うでしょ」
「それが気にし過ぎなんだよ。自分の事は自分がどうにかするもんだろ。自分が何かやっておいて、それを人の責任にする奴は俺は嫌いだね。もし自分のせいで相手が困ってるなら、話して一緒に解消でもすればいいだろ。何かやる前から、何でもかんでも相手に迷惑がかかるかって言うのは考え過ぎって言ってんだよ」
私はラッシュの言葉に反論が出来ずに黙ってしまう。
……確かにそうかもしれない、私は最初から迷惑が掛かるからとか言って相手が差し出してくれた物を断ち切ろうとしていたんだ。
「俺はお前にこの魔道具直してもらってから、ちょっと魔道具にも興味が出たから詳しい奴に話を聞きたいんだよ。お前以外にそんな奴いないしよ」
「ラッシュもたまにはいい事を言うな。リリスさんは優しい方で、私たちの心配をしてくれるのも分かりますが、そんな事気にしなくていんんですよ。もし私たちのせいでリリスさんが嫌な思いをされるなら、相談してくれれば力になりますよ」
「そうそう。私の時もあんまり思い詰めないで行ってくれればいいのにさ。我慢しちゃうんだから。人の心配より自分の事だよ、一人じゃないんだからさ」
「メネ……うん。ラッシュの言葉で目が覚めた感じだよ。私、今更にして人の心配が出来るほど、私は凄くないんだった。だから、友達の件私の方からお願いします!」
「おう! よろしくな、リリス」
「よろしくお願いします、リリスさん」
こうして、私はラッシュとシャーレと友達になった。
そして改めて自己紹介を行ったのち、口調などもため口でよいと言われたので直しつつ、昼食を共にした。
「ひとまず、これからは今日のような大胆な会い方は少し控えましょうか」
「うん。私もそうしてくれると嬉しい。急に教室にきて、あんな事されたら何を言われるか分からないし」
「何だよ、昼飯を誘いに行っただけだろ?」
「少しは周りの事も見ろってことよ、ラッシュ。私の時とは状況が違うんだからさ」
「そうですね。ならメネさんと一緒に居る時に、偶然を装って徐々に会う機会を増やして行き、メネさんの時の様に周知の事実としていきますか」
「私としてはいいと思うけど、リリスは?」
「うん。いいんじゃないかな」
その後、メネは私の店にも一人じゃなくラッシュやシャーレと行く機会もあると告げて来た。
私としては店に来てもらう分には問題ないが、来るならばただ話すだけでなく何か買ってもらえると嬉しいな、と少し思いつつ話を聞いていた。
するとシャーレは店の話が出た所で、ふと思い出し様に私に問いかけた来た。
「そうだリリスさん、突然なんですけどここで、私の魔道具の状態とか見れたりしますか?」
「突然だね。まぁ、修理とか調整でないから見れる事は見れるけども」
そう返すとシャーレは机の上に、自身の魔道具である杖を出して来た。
「ぶしつけで申し訳ないですが、見てもらってもいいですか? 昨日のラッシュの見たら、私のも見て欲しいと思いまして」
「リリス、シャーレの杖なんか別に見なくてもいいぞ~どうせ――」
ラッシュがそう言いかけた所で、シャーレがラッシュに向けてデコピンで何かを飛ばし額に当てる。
「いってぇ! 何すんだよシャーレ」
「少し黙ってろ、ラッシュ。それじゃ、見てもらってもいいかいリリスさん?」
「うん。分かったよシャーレ」
私はそのまま机に置かれたシャーレの杖を手に取り、状態の確認から始めた。
これはラッシュ同様に綺麗に手入れされていたが、少し綺麗過ぎたので新品なのではと思えた。
「あの、一応シャーレの魔力計測もしてもいいかな?」
「えぇ、構いませんよ」
了承をしてもらえたので、私はシャーレと片手を少しだけ合わせて魔力計測を終わらした。
その瞬間少しだけラッシュがムッとした顔をしていたようにも見えたが、気のせいだろうと思いシャーレの杖へと視線を戻した。
私はその場で杖の魔力回路を展開し、各回路を見たが特に異常は見られなかったが、一方で見れば見るほど、あまり使われていないんじゃないかと感じていた。
まだ使い初めで慣れていないのかな? 疑似再現して魔力を流しもしたけど、合っていない訳でもないんだよね。
そこまで見て、私は一度魔力回路を閉じて見て感じたままをシャーレへと伝えた。
「なるほど、そこまで分かるんですね。やはりリリスさんのその才能は、凄いですね」
「? どう言う事ですか?」
「シャーレ、やっぱりお前わざと嘘ついてリリスに見せたな」
ラッシュの言葉に私は余計にハテナマークが出てしまう。
するとシャーレが急に謝って来ると、メネが状況を説明してくれた。
「リリス、シャーレが今見せた魔道具は、表向きの魔道具で本当は別の魔道具を使っているのよ。シャーレは、貴方の力でどんな所まで見れるか気になって試していたのよ」
「えっ……そうなの?」
「はい、試す様な事をしてすいません。魔力回路でどう言った所まで見れるのか、気になりまして。実際にこの目でその様子を見て見たかったのです」
「は、はぁ」
「リリス、シャーレは常識人風に見えて、意外と変な知識欲があるから気を付けた方がいいよ。ラッシュといるから、余計に普通に見えるけどさ」
「おいメネ。それはどう言う事だよ?」
「それは自分の胸にでも聞いたら」
そんな二人のやる取りを見て私は笑っていると、ふと時間が目に入り次の授業の事を思い出す。
「あっ! ごめん皆、私次移動教室だから、戻って準備しないと」
「そうだったの? なら、私が送って行くわ」
「いや、そこまでしてもらわなくてもこのまま降りて行けば大丈夫でしょ」
「ダメよ。二階席から一人で降りるなんて、目立つでしょ。それに別に降りる所があるから、そっちなら目立たずに行けるからそっちに案内するわ」
するとメネは来た道とは真逆の方へと歩き出したので、私も付いて行くがラッシュとシャーレに改めて別れを告げ、その場を後にした。
「なぁ、ラッシュはリリスの事どう思ってるんだ? 異性として気になるか?」
「なっ! そ、そんな訳あるかよ! 俺はあいつが魔道具に詳しいし、凄い奴って印象しかねぇよ!」
「そう。なら遠慮なく、行かせてもらうよ」
「好きにしろよ」
ラッシュは腕を組み、そっぽを向くとシャーレは机の上に出した杖をしまった。
「何か面白そうな話が聞こえたけど、何話してんだ、お前ら?」
そこへ声を掛けて来たのは、両手を左右の女子生徒に回しながら黒髪と瞳の蒼さが特徴の男子であった。
「珍しいですね、ここに来るなんて」
「てか、学院にいたのかよエンデ」
「酷いな~ラッシュは。僕たち同じクラスだろ?」
するとエンデが連れていた女子生徒が小声で「早く行こうよ」と呟くが、エンデは二人の女子生徒に「先に言って待ってて」と返し二人から手を離した。
そのまま女性生徒たちは、エンデの頬に軽くキスをするとその場から離れて行き、エンデは椅子に座った。
「エンデ、今の先輩だろ? どこまで手を出してるんだよ」
「年齢なんて関係ないだろ。そう言うラッシュは、早く彼女でも作れよ。せっかくの容姿が勿体ないぞ」
「俺は、お前みたいに見境なく手を出さねぇんだよ」
「その言い方は酷いな。僕だって、好きになった子にしか手は出さないよ。おしゃべりをして仲を深めてから、肉体関係を持つ派だよ」
「そんな深い話はしてねぇよ! そこまで言わなくていいわ!」
ラッシュは少し顔を赤くしながら返事をすると、エンデはそれを見ながらニヤつく。
「ラッシュとこの手の話をすると面白いな~」
「面白がるな!」
「エンデ、女子と遊ぶのもいいですけど、少しは授業に出た方がいいですよ。このままでは進学どころか、退学処分になりますよ」
「分かってるよシャーレ。その辺もしっかりやるから、心配するなって」
「クラスメイトとしての助言ですよ。心配ではないです」
「シャーレは冷たいな。まぁ、いいけど。それよりさ、さっきメネと一緒にいた赤髪の子、見た事ないけどあの子トップクラスじゃないよね。知り合い?」
エンデの問いかけに、二人は急に黙る。
そのままエンデは机に肘をついて、ゆっくりと二人の事を見つめたが話す気配がないと分かり、小さくため息をついた。
「言いたくないならいいよ。髪が綺麗だったから、気になっただけだし、同じ学院の子ならいずれ会う事もあると思うからさ」
そう言うとエンデは椅子から立ち上がり、そのまま二人に別れを告げて女子生徒たちが向かった方へと歩いて行った。
エンデを見送った二人は、互いに顔を見合わせた。
「俺は、何となくリリスにエンデを近付けたくないんだが」
「私もそれは同感。メネさんも毛嫌いしてますし、注意はしておきましょうか」
「でもよ、あいつの事だ、どっかから情報を仕入れて接触しそうじゃないか?」
「そればかりは何とも言えないな。なるべく一人にならない様にしてもらうか、俺たちがあいつを見張るか。どちらも難しいがな。とりあえず、エンデの件はメネさんとも相談だ」
ラッシュはシャーレの言葉に頷いた後、二人も立ち上がりその場を後にするのだった。
そしてそれから、私とメネそしてラッシュとシャーレの関係性が始まった。
初めのうちはシャーレが提案した様に、メネと一緒に居る所に偶然を装ってラッシュとシャーレがやって来て話をしたりした。
それからは、数日おきに似たような事を繰り返していると変な噂も出始める、私にも以前の様な地味な嫌がらせもあったが私は無視していると、それも途中でぱったりと止んだのだった。
また、学院が終わってからはメネと共に店に来る機会も増え、そこで魔道具の事を話したり、つまずいていた勉強を教えてもらったりした。
そんな事を続け、一か月が経過した。
今では学食の一階で待ち合わせをして食事が出来る程度まで、周知の事実になる関係性となった。
と言っても、よく思われていないのには変わりないが、変に絡んで来る人や嫌がらせをする人がいないという状況であった。
耳を澄ますと陰口を言っている人もいるが、そんな事は気にせずに私は今の関係を続けている。
さすがに同じクラスの友人たちは、遠慮してメネたちとはほとんど関わらないが、居ない時にはメネたちの話もしたりする仲である。
「そう言えば聞いてるリリス、近いうちに交流授業があるって事」
「交流授業?」
「えぇ、うちのクラスが別のクラスと合同で授業をするんですよ。私たちの学年は四クラスあるので、二二に分けられると思います」
「確か課外授業だったか? チーム組んで、地形調査だったかな」
「へぇ~もしかしたら、午後にされるかも。うちの担当先生、朝いなかったからさ」
そんな会話をしたりたわいもない事も話して、昼食は終わり午後の授業前にメネたちから聞いた話が担当教員から伝えられた。
そして午後の授業も終わり放課後となったが、私はそのまま店には向かわずに図書館へと向かった。
今日はマルスさんが外へと材料などの買いたしに行く為、店はお休みなどでバイトもないので図書館で魔力の応用に関する勉強をする事にしていたのだ。
私は図書館で一時間程勉強した後、休憩しようと外に出て飲み物を買い近くの中庭のベンチに腰掛けた。
ふぅ~何かこうして放課後に学院にいるのは変な感じだな。
いつもはそのまま店番しながら勉強したり、魔道具いじったりしてるからかな。
あー後は、メネたちが来て話してたりもするからかな。
そんな事を思い出して、小さく笑っているとそこへラッシュが偶然通りかかって声を掛けて来た。
「リリス? 珍しいな放課後にいるなんて。もしかして、サボりか?」
「違うわよ。今日は店が休みなの」
「何だサボりじゃねぇのか」
「サボる訳ないでよ。住み込みバイトって言ったよね」
そう言いながら私の方へとやって来て、私と距離を空けて同じベンチに座った。
「で、ラッシュは何してるの? シャーレと一緒じゃないの」
「俺だって、毎回シャーレといる訳じゃねぇんだよ。一人の時間もあるっての」
「え、大丈夫なのそれ」
「何の心配してるんだよお前は!」
「冗談だって。ラッシュは不器用で少しおっちょこちょいなシンデレラだもんね」
「お前な~そんな事俺に言う女子は、メネとお前だけだぞ」
私とラッシュは、そんな冗談まで言い合える仲にまでなっているのだ。
最初の時からぶつかっていたので、その延長線上な感じで今でもちょっと互いに意見を言い合ったりする仲である。
「それで、ラッシュは一人でどこ行ってたの?」
「ちょっと訓練場にな。魔法の特訓ってやつだよ」
そうラッシュは少し真剣な顔で語った。
私はその横顔を見つつ、真面目に問い返した。
「ラッシュはいつも放課後は、魔法の特訓をしているの?」
「そう言えば、話した事なかったな。あぁ、そうだよ。お前に魔道具直してもらってから、色々と幅も広がってな。お前に魔道具見せて本当に良かったよ」
「っ、そう改めて言われると、ちょっと恥ずかしいな」
私はラッシュから少し顔を逸らすと、ラッシュは微笑みながら私の方を見ていた。
「さっきの言われっぱなしのお返しだ」
うっ……素直に褒められると恥ずかしいし、何かちょっとそれ以外にも恥ずかしい感じがして辛いんだよね。
「話は戻るが、俺が魔法を特訓してるのはある人に勝ちたいからなんだよ」
「ある人?」
「あぁ、その人は俺の憧れであり、絶対に一度は実力で勝ちたい相手なんだよ。この学院の三年なんだけどよ」
「三年の人なんだね。そんなに凄いの?」
そう訊くと、ラッシュは無邪気な顔でその人の凄さを語ってくれた。
この学院でトップ成績で、対人戦の成績は二年間負けなし、ラッシュと同じく炎魔法を得意としているらしい。
そんな話を聞いているだけで、その人の凄さは伝わって来て、ラッシュはそんな人と幼い時に成長したら勝負をしようと約束をしており、それを果たす為にこの学院に入学して来たとも教えてくれた。
憧れの人でありその人との約束を守るために、強くなり年に一度上級生と公式に勝負出来る日があるので、その日に向けて日々訓練をしていたのだった。
「前までは魔道具の事なんてあんまり気にしてなかったがよ、お前に教えてもらってから本当に色々と広がったんだ。だからさ……これからもたまにでいいから、魔道具見てもらったり詳しく教えて、くれるか?」
「うん。もちろんだよ、ラッシュ」
「そ、そうか! それなら良かった」
ラッシュはそう言って安堵の息をつくが、私はどうしてそんな態度をとるのか分からなかった。
「なんなら、後で見てあげてもいいよ」
「えっ! あ、いや、今日はいいよ! 今日は!」
「そう。ならいいけど」
私が少し近付いて言うが、ラッシュは何故か遠ざかる様な姿勢になっていた。
その後ラッシュはスッと立ち上がった。
「じじじゃ、俺はもう行くからよ。お前も何してたか分からないけど、頑張れよ! じゃあな!」
「あっ、ちょっと……行っちゃった」
ラッシュはそのまま逃げるように、その場から立ち去って行った。
なんかたまに、さっきみたいに勝手に話を切ってどっか行く時があるけど、あれ何なんだろ?
私はそんな事を考えつつ首を傾げたが、考えて分からない事なので細かく考えるのは止めて背伸びをした。
そしてそろそろ図書館に戻って、勉強の続きをしようかと思った時だった。
「君がリリスちゃんかな?」
「ちゃん!?」
名前にちゃん付けされ呼ばれた事に、驚きつつ声をした方を向くとそこには一人の男子生徒が立っていた。
「急にごめんよ。僕は、そうだな、人魚姫って言えば伝わるかな?」
「人魚姫?」
「あれ? もしかして、伝わらない? 嘘でしょ」
人魚姫、人魚姫……あ、三花冠の人か。
確か名前は……エ、エデンだったかな?
私はふわっとした状態のままそう返すと相手は頭を抱えてしまった。
しまった、名前違ったかも……
「エンデね、エンデ・ハクセン。初めてだよ、名前を間違えられたのも、人魚姫で伝わらなかった女性は」
「ご、ごめんなさい。その、本当にごめんなさい」
私は人の名前を間違えてしまったので、何度も頭を下げて謝っているとエンデは「もういいからさ」と言ってくれたので、私はゆっくりと顔を上げた。
するとエンデは笑顔で私に「とりあえず、座って話さない?」と言われたので、失礼な事をした手前断る訳にも行かないので、そのままもう一度ベンチに座った。
そう言えば、今更思い出したけど前にメネたちから人魚姫にはあまり近付かない方がいいって言われたんだった……まぁ、今更思い出しても意味ないんだけどさ。
そしてベンチに座るとエンデが口を開く。
「いや~リリスちゃんは、聞いて以上に凄い子だね。あ、リリスちゃんって呼んでいい?」
「嫌だって言ったら?」
「え、リリスちゃんって呼ぶけど?」
それもう確定じゃん。
何でわざわざ聞いたの? 何か変な人だな。
私は少し警戒していたが、エンデはそんなのお構いなくグイグイと話して来た。
「ねぇねぇ、リリスちゃんの髪って綺麗な赤色だよね~遺伝とか? それともリリスちゃん特有なの?」
「……何でそんな事?」
「気になったから。反応的に答えたくなさそうだし、今のはおしまい」
その後エンデは似た様に本当にたわいもない質問をし続けて来て、私は答えたり答えなかったりした。
答えるたびにエンデは物凄く食い付いて来て、別の話に変わってしまう事もあった。
私は次第に話しているうちに、初めよりも警戒心が薄れて行った。
変な人には変わりないけど、皆が言っていた様な人なんじゃない気がして来たな。
いや、もしかしたらこの変な人と言う意味で言ってくれたのかな? これくらいなら別に気にしないんだけどな。
「リリスちゃんと話していると、話題が尽きないな~あ、そう言えばちょっと前までラッシュたちとの事で、変な事されてなかった?」
「え?」
「え? じゃなくて、されてたでしょ。優等生と劣等生で仲良くしてるのが許せなそうな奴らからさ。嫌がらせ的な事とか変な噂もあったよね~」
「……あったけど。それが何? 貴方も、そう言う人たと同じ考えって言いたいの?」
「いやいや、まさか。僕としては変な差別だと思ってるよ。学力とか魔法が出来るとかで分けるとか。そんなので分けたら、出会えたはずの女子生徒に会えないじゃないか」
「はい?」
今何か女子生徒とか言わなかった? 私の聞き間違い?
「失礼、今僕の話はいいんだ。リリスちゃんの話さ。あの嫌がらせとか噂とか急になくなったと思わなかった?」
確かに、それは私も思ってた。
でも、それは私が特に大げさに反応する訳でもないし、流される訳でもなかったから諦めたのだと勝手に思ってた。
「あれね、僕が手を回して止めさせたんだ」
「!?」
「ビックリした? 嘘じゃないよ。知り合いの女の子たちに頼んで、こっそりとやってる人を特定してもらって止めさせたんだ。ちなみ、僕じゃなくてそれも女の子たちにお願いしたから、どうやったかは知らないけどね」
私はエンデが笑いながらあっさりと答えるのだから耳を疑った。
が、そうやって急に止まったと言われて見ればそうのかもしれないとも思った。
「信じても、信じなくてもいいんだけどね」
「……もし、もし仮に本当だとしたら、どうしてそんな事をしたの? ラッシュたちと知り合いだから? 私とは何の関係もないのに、どうして?」
「ラッシュたちは関係ないよ。ただ僕が、リリスちゃんの事を知って興味を持ったからやっただけ。恩を売ったとかそういうのでもないからね」
「私に興味を持ったから、やったって事?」
「うん、そうだよ。興味がない子にそんな事する訳ないじゃん。時間の無駄だし、女の子たちも可哀想だろ俺の興味がない事に付き合わせてもさ」
やっぱり前言撤回、エンデは警戒すべき人だ……何と言うか直感的にそう思える人だ。
笑いながら相手に警戒される事のない様に話しているけど、話している事が普通じゃないし、彼の言う事なら何でもする人がいるというのが更に怖い所だ。
「そんなに警戒しなくていいって。別に何もする訳じゃないんだし。あ、一応言っておくけど、女の子たちを脅していたりしないからね。そこは勘違いされると困るからさ」
そう言い終えるとエンデは立ち上がった。
「さ~てと、今日のお話はこの辺にしておこうかな。誰かさんに見つかると怖いし」
誰の事だろ?
「まぁ、何か困った事があったら僕を頼ってよ。リリスちゃんの為なら何だってしてあげるよ~何てったて僕、リリスちゃんに興味津々だからさ!」
私は理由がイマイチ分からない好意の言葉に軽く身震いしてしまった。
そしてエンデはそのまま上機嫌に立ち去って行くのだった。
私はエンデが去ってからも暫くはベンチに座ったままだった。
やばい人に、目を付けられてしまった……どうしよう。
とりあえず明日皆に相談しよう。
そう思い、私は図書館へと戻って勉強しようと思ったが、本だけ借りて自宅で勉強しようとこの日は帰宅した。
その日以降、エンデが私に接触してくる機会はなかった。
皆にも相談し、あまり一人にならない様にと警戒しながら暫くは過ごした。
そんな中で交流授業の日程が決定し、私のクラスはメネたちのクラスと合同授業する事に決まるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
交流授業を前日に控えた日。
私は一日の授業を終え、いつもの様に店番をしていると、そこへシャーレが来店して来た。
「いらっしゃい、シャーレ。今日は一人なの?」
「えぇ、今日は私だけです」
「そう。一人でわざわざ来るってことは、魔道具に関する事だったりする?」
私は何となくそう問いかけると、シャーレは驚いた表情をし、図星だった事に私も驚いてしまう。
「まさか言い当てられてしまうとは、驚きですよ。リリスさん」
「いや、私が一番ビックリしてるんだけど」
そしてシャーレは私の方へと近付いて来ながら、今日来た目的を話し出した。
「明日は交流授業ですので、その前に私の魔道具を見てもらおうと思いまして。もちろん、代金は払いますよ」
「なら、マルスさんがもうすぐ帰って来るから頼んでみるよ。たぶん大丈夫だと思うし」
「いや、マルスさんではなく、私はリリスさんに見てもらいたいんだけど」
「え、私?」
少し動揺する私にシャーレは「えぇ、リリスさんに」と念押しをして来た。
見てもらうならマルスさんの方が絶対いいと思うけど、まぁ私も見れない事もないし、そう言ってもらえるのはちょっと嬉しい。
私はマルスさんにラッシュの時の事を話し、知り合いのであれば承認を得られれば引き受けてもいいと言われたので、今回のシャーレの依頼自体に問題はない。
「ダメ、かなリリスさん?」
「いや、知り合いなら別にいいって言われてるし、問題はないんだけど……本当に私でいいの? 万全を期すとかなら、マルスさんの方が――」
「リリスさんにお願いしたいんだ。いいかな」
「う、うん。分かったよシャーレ」
私はシャーレの押しに負け、依頼を受けた。
するとシャーレは突然自分の眼鏡を外して私の前に置いた。
「シャーレ、どうして急に眼鏡を置くの?」
「それは、その眼鏡こそが僕の魔道具だからだよ」
まさかの発言に、私は驚いてしまった。
今までに眼鏡が魔道具なんて聞いた事がなかったからだ。
するとシャーレが私の反応見て笑いながら、事情を話してくれた。
元々シャーレは視力が悪く、眼鏡を掛けており魔道具も元々は杖を使っていたらしい。
だが、次第に成長につれて上手く杖が合わなくなって来て、何度も変えるが何かしら違和感が残っていたのだった。
そんなある日、腕利きの魔道具作成者にシャーレにあった魔道具を依頼した所、眼鏡を作って来たのだと言う。
最初は冗談で馬鹿にしていると怒っていたが、実際にシャーレが眼鏡を掛けて魔法を使った所、今まで以上に何の違和感もなく魔法を使えたのだと語った。
それからずっと眼鏡の魔道具を使っているのだが、こんな物普通じゃあり得ない物である為、シャーレは表向きは杖を使っているのであった。
「昔は、この魔道具で嫌な事もされたんだが、その頃にラッシュに会いましてね。変に思われるどころか、凄いと向こうから寄って来たんですよ」
「何かラッシュぽいね」
「ですよね。ラッシュとはそれ以来の付き合いで、私もそれを気にどうしてそうなのだとか、色々と調べて知識を集め出したのですよ」
なるほど、それがシャーレの知りたい欲の始まりだったのか。
シャーレ自身も今だにどうして眼鏡が魔道具として合っているのか分からないが、これを自分に作ってくれた魔道具作成者には今でも感謝していると教えてくれた。
昔の事でたまたま通りすがった人であったので、名前も顔も知らないらしい。
だが、この眼鏡をしていればいずれその人と会えそうな気がしているとシャーレは語った。
「いい話だね。でも、そんな物を私が見ていいの? 特に不調とかじゃないんでしょ」
「えぇ、これまでにそんな事は一度もありませんよ。ですが、一度は見てもらいたいと思いまして。ラッシュの件や私の杖も見通したリリスさんに、お願いしようと決めたのです」
「そう言われると、少し緊張するな。でも、そこまで頼ってもらってるのだから私はその依頼受けるよ」
「ありがとうございます。では、お願いします」
私は頷いてシャーレの眼鏡を受け取り、店の中に置かれた簡易作業台へと移動した。
修理とかではなく点検など、見るだけでなら奥の工房ではなくてもいいので、私はそこで作業を始めた。
シャーレは代わりの眼鏡を掛けて近くの椅子に座った。
そして私はシャーレの眼鏡型の魔道具の魔力回路を展開させた。
するとそこに広がったのは、緻密で膨大な魔力回路であった。
私はその凄さと美しさに圧倒されていた。
凄すぎる……こんなにも細かく入り組んだ魔力回路始めて見た。
それにどこも劣化してないし、魔力詰まりも破損もしてないなんて、凄いな。
シャーレの使い方もそうだけど、これを組み上げた人も凄い。
私は見るたび「凄いな」と言う感想だけが出て、細部まで目を通し点検を終えた。
そしてシャーレに眼鏡を返して、その魔道具の凄さを私はシャーレに伝え始めた。
私は身振り手振りでそれを一方的に伝えていたが、シャーレは文句も言わずに笑顔で頷きながら聞いてくれるのだった。
語っている途中でハッとなり、シャーレに謝ったが気にせず続けていいよと優しく言われ「私ももっと聞きたいからさ」と言われたので、遠慮なく私は話を再開した。
そんな光景を店の外から覗いている人物がいた。
その人物は小さく舌打ちをすると、そこへ店主のマルスがやって来て声を掛けた。
「おや、うちの店に用事かな?」
「っ!」
するとその人物は逃げるように何処かへと行ってしまうのだった。
「(? マントで隠していたが、あの学院服はリリスと同じだったような)」
マルスはそんな事を思いつつも、お客さんでないならいいかと直ぐに忘れ、店の扉を開け入って行くのだった。
そして交流授業当日。
私たちは、学院を離れ近くの山岳地帯へと来ていた。
本日の授業は、渡されたマップを元とに地形調査をチームで行うと言う授業であった。
互いに情報交換しながら周囲を探索し、マップを協力し合いながら埋め協調性や交流を深めようと言う授業であった。
ちなみにチーム分けについて、一チーム四人で担当教員たちの方でランダムに目の前で行われて既に決定している。
私は、ラッシュと同じチームになるが同じチームには、クラスの貴族令嬢グループのリーダーであるユウカとその取り巻きとでも言えるもう一人の女子と同じチームとなった。
「今日はよろしくお願いします、ラッシュ様」
「あ、あぁ。よろしく。後、様は止めてくれ。ラッシュでいいから」
「はい、ラッシュ様!」
ユウカともう一人の女子がラッシュにご執心していると、私が視界に入ったのか急に顔つきが変わり私の方へと近付いて来た。
「今日はよろしくお願いしますわ、劣等生のリリスさん」
「えぇ、よろしくユウカ。互いに頑張りましょうね」
「そうですわね。足だけは引っ張らないでくださいね。ラッシュ様にも迷惑が掛かりますので」
ラッシュ様って、何かラッシュのダメな部分知っている分笑いそうになるな。
と、私は少しだけ笑いがもれると、ユウカは小さく舌打ちをした。
「貴方、最近ラッシュ様たちと関わっているようですが、勘違いなさらない方がいいですわよ」
「っ、どう言う事?」
「何やら魔道具に関して凄い知識を持っているらしいですが、ラッシュ様たちはそれに興味があるだけ、決して貴方に興味があって付き合っている訳ではないという事ですわ」
「そうですか。ご忠告ありがとうございます。以後、態度には気を付けますので」
そう私が返すとユウカは再び小さく舌打ちをすると、その場から去って行った。
そして入れ替わる様にラッシュがやって来た。
「リリス。今日はよろしくな。足引っ張るなよ」
「ラッシュも同じ事言うの? それ相手に言うの流行っての?」
「? 何だか分からないけど、馬鹿にされた気分だ」
「馬鹿にはしてないよ。今日はよろしくね、ラッシュ様」
「お前まで言うか」
そうやって、私とラッシュがいつもの様に楽しく話していると、ユウカたちが物凄い目で睨みつけていた。
「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって! 劣等生の分際で、ラッシュ様たちに寄生しやがって! 必ず駆除してやる!」
ユウカはそんな事を口にしてから、不敵な笑みを浮かべるのだった。
その後私たちは一連の注意事項の説明を受けた後、マップと支給品を貰いチームごとに目的地に向けて出発した。
私たちのチームが担当するのは、近くに崖が存在している付近であった。
この辺りには魔物を出ると言われているが、この時期は魔物は下の崖や反対側の密林側を縄張りとしているので、足元に気を付けていれば問題ないと言われた。
更には安全の為に柵も張られていたので、万が一の事故も起こらない様になっていたのだった。
「分かれ道か。一応また同じ道に当たるらしいが、どうするか」
ラッシュが悩んでいるとユウカが二手に分かれてマップを埋める事を提案すると、直ぐに取り巻きの女子も賛成してきた。
私もその意見には反対はなかったので、頷くとラッシュはその意見を受けて二手に分けようとしたが、先にユウカがラッシュと行くと言い出た。
私としてはいつも変に絡まれるユウカと二人きりでなければいいと思っていたので、ラッシュには悪いがそれに賛同した。
ラッシュはまさかの即決に驚いていたが、ユウカが引っ張る様に先に左の道に行ったので、私ともう一人の女子と共に右の道へと進んで行った。
その時一瞬ユウカが私を笑った様に見えたが、ラッシュと楽し気に歩いていたので何かの勘違いだと思い進み出した。
意外と道が険しく、途中で私ともう一人の女子も息切れをしたので休憩する事にした。
するともう一人の女子がマップで書き忘れた所があったと言って、少し戻って行った。
私は直ぐに戻って来ると思い、待っていたが一向に戻って来ないので心配になって様子を見に戻ると、そこでもう一人の女子が劣化した柵から落ちそうになっていたのだった。
「っ!? 大丈夫!?」
「え、えぇ……でも、動いたらこのまま落ちそうで、手を貸してくれませんか?」
今女子の状態は、何とか柵に引っかかっている状態で落ちずに持ちこたえていたが、ちょっとしたバランスで落ちそうな状況であった。
私は直ぐに助けを呼ぶよりも、ここで助けないと彼女が落下してしまうと思い独断でゆっくりと彼女に近付いた。
そしてゆっくりと手を伸ばした。
「ゆっくり、ゆっくりね。私の手を掴んで」
「は、はい……」
その子は少し震えながら私の方へと手を伸ばしており、私もそこへ手を伸ばした。
そしてようやく手を掴むと、女子は安堵した表情になり、私も一安心した時だった。
何故か手を掴んだ女子が私と入れ替わる様に、私の手を引っ張って来たのだ。
「ちょっ!?」
私は咄嗟に、劣化し外側に飛び出た柵を掴んだが完全に体は外へと出ており、手で掴んでいる柵が命綱状態であった。
「あれ? 落ちなかったの?」
「ちょっと! 何で急に引っ張ったのよ!」
何とか柵を掴む手に力を入れていたが、次第に力が抜けて来て耐え切れなくなっていた。
「と、とりあえず、もうきついから、手を出してくれない?」
私はもう片方の手をもう一人の女子の方へと伸ばすが、彼女は何もしようとせずにただ立ち尽くしていた。
「ねぇ、もうやばいの……助けてよ……」
そう訴えると彼女はやっと動いたと思ったら、突然私が命綱として掴んでいた柵を蹴り始めた。
「やめ――」
と、言いかけた時だった、柵が壊れ私は下の密林地帯目掛けて落下するのだった。
嘘……何で、何で、こんな目に……
徐々に遠くなっていく山岳地帯を目にして、私は密林の中へと落ちると何本かの枝に当たり、それが落下の勢いを落としてくれ私は強く地面に体をぶつける事無く地面へと仰向けで降りられた。
が、枝での切り傷は多く所々がひりひりとした痛みがあった。
そのまま私は起き上がろうとしたが、あまりの出来事にそこで意識が一度飛んでしまうのだった。
一方で私を落とした彼女は何事もなかった様に、歩き進めもう一方のラッシュとユウカと合流していた。
彼女は私が疲れたから、少し休んで行くから気にせず先に進んで欲しいと言われたと伝えていた。
「まぁ、何て勝手ですの? 貴方はそのまま言われた通りにして、来たのですか?」
「いいえ。休むなら一緒にと言ったのですが、本当に直ぐに追いつくからと押されてしまいまして」
「なるほどね。まぁ、リリスなら言いかねないかもな。なら、ここで皆で待つか。リリスがそう言うなら、すぐ来るだろうし」
そうラッシュは告げるが、ユウカは待つならここではなく、少し先にある開けた場所にしようと提案して来た。
ラッシュは待つなら近い方がいいと言うが、ユウカともう一人の女子に少し強引に言われてしまい、引っ張られるように連れて行かれてしまう。
そしてラッシュたちは先に進み出すが、ユウカの言った開けた場所はかなりの先で直ぐに着くような場所ではなかったのだった。
その頃私はと言うと、目を覚ましてどうにか元に戻れないか周囲を探したが、木々が高く何処に山岳地帯があるのかも分からず困っていた。
「う~ん、とりあえず支給品に水があるから、少しは大丈夫だけど。どうしよう」
私が何故こんなに冷静なのかと言うと、もう既に困惑し、ある程度わめきもし終えた所で一周回って冷静になったのだ。
まさか落とされるとは……絶対にこれユウカの仕業だな。
はぁ~まさかこんな事をされるとは、思ってなかったな……とりあえず、それは後回しにしてこれからどうするかだな。
私は体を休める為に安全そうな場所を探していると、いい感じの洞窟を見つけその中へと入って行った。
が、その奥には熊の魔物が食事中であったのだった。
私はその姿を見て、ゆっくりとバレない様に引き返そうとしたが、運悪く小石を蹴とばしてしまい存在に気付かれてしまう。
すると熊の魔物が私を見つけて、大きく叫ぶのだった。
私は全速力でその場から逃げ出しすと、熊の魔物も食事を止めて追って来たのだ。
ひぃーー! 最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪! 最悪ーー!
そして私は何とか洞窟を抜けた先で、更に一回り大きい白銀の狼の魔物に遭遇してしまうのだった。
あ、これ終わったな……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ラッシュが、ユウカに引っ張られる様にしてようやく開けた所に着くと、ラッシュはユウカの手を払った。
「おい、何でお前らリリスの奴を待ってやろうと言う事に反対したんだよ。途中で、いくらでも待てただろうが」
「あの辺は道が狭くて危険ではなかったですか。待っている間にラッシュ様の身に何かあっては」
「それにリリスさんなら、直ぐに追いついて来ると思うので問題ないですよ」
「いや、そもそもここじゃなくて合流する所で良かったろ。何で、こっちにお前らはこだわったんだ?」
「ですから、こっちの方が安全だと思いましたので」
「……お前ら、何か焦ってないか?」
ラッシュの言葉に、ユウカたちは一瞬身がビクッとなるが、ユウカは焦る事無く「そんな事ないですわよ」と返した。
が、ラッシュはユウカから目を離さずに見つめていると、そこへ偶然シャーレのグループがやって来た。
「何してるんだ、ラッシュ?」
「シャーレ」
ラッシュはシャーレに事情を話すと、シャーレは他のメンバーに先に言っててくれと伝え、その場に残り状況を整理し始めた。
「それで待っているが、リリスさんは一向に来ないと。本当にリリスさんは、先に行ってと言ったのですか?」
「は、はい! 私にそう言いましたよ。嘘なんて言っていまん!」
「別に嘘とは一言も言っていないので、そこまで強く言わなくて大丈夫ですよ」
「っ……」
ユウカの取り巻きである女子はシャーレにそう言われ、少し動揺するのだった。
「だとすると、向かって来る途中で何か事故に遭ったとも考えられますね」
「リリスがか!?」
「あぁ、これは一度教員に報告した方がいいかもしれないな」
するとユウカが口を挟んで来た。
「もし、リリスさんが事故に遭ったのであれば、それは彼女の責任ですわ。彼女が一緒に待つと言ったのに、強がって一人で追いつくと言ったのが原因ですわ。全く迷惑な話ですわ。これだから、劣等生は困りますわ」
「おいお前、リリスが劣等生とか今は何の関係もないだろ」
「ひっ……」
「ラッシュ。もう少し口調を考えてください」
シャーレがラッシュを止めると、ユウカも怯えずに安堵の息をつく。
「ですが、ユウカさん。貴方も少し口が過ぎる様なので、気を付けてください。リリスさんは私の友人でもありますので」
「っ……」
その言葉にユウカは視線を逸らし、小さく舌打ちをした。
そしてラッシュとシャーレがこの後どう報告しに行くか話していると、そこに仲悪そうにエンデとメネのグループがやって来たのだった。
「あっれ~? 何で、別チームのラッシュとシャーレが一緒にいるんだい?」
「何そのわざとぽいっ言い方。ムカつくんだけど、止めてくれないエンデ」
「あ~もう嫌だよ~二人とも助けて~メネが僕に厳しんだよ~」
と、二人にエンデが駆け寄るとメネは呆れた表情をしていた。
エンデのチームは他の二人も女子で、態度からエンデに懐柔されてしまった女子であった。
「で、二人は何してるの? と言うか、ラッシュはリリスと一緒のチームじゃなかったけ? リリスが居ないけど」
「それが――」
「いなくなっちゃったんだよね? リリスちゃん」
「「!?」」
そこに突然エンデがそう語り出し、皆が驚く。
「僕、リリスちゃんがどこにいるか知ってるよ~」
「どう言う事だエンデ!」
「ちょっと、急に熱くなるなよラッシュ」
「うるせぇ! てめぇ! リリスに何かしたんじゃねぇんだろな?」
「違う、違う。僕がリリスちゃんに興味があるのは真実だけど、シャーレみたいな陰湿ないじめはしないよ」
「エンデ」
「ごめんって、今のはジョークだよシャーレ」
エンデはラッシュに捕まれた手を、簡単に振り払い軽く服のしわを伸ばした。
「まぁ僕が全部教えてもいいんだけど」
「エンデ、勿体振らないでさっさと言いな。私の親友に何かあったら、あんたでも私は許さないよ」
「メネはリリスちゃんの事になると怖いな~……だってさ、ユウカちゃんと取り巻きちゃん。怖い事される前に、言っちゃった方がいいと思うな~」
ラッシュたちは一斉にユウカの方へと視線を向けた。
「な、何を言っているのかよく分からないんですけど、エンデ様」
「あれれ? おかしいな~僕情報通だから知ってるんだよ。今日ユウカちゃんと取り巻きちゃんたちが、計画的にリリスちゃんをおとしめようとしていた事。しかも、嫌がらせとか言うレベルじゃなくて、命に関わるレベルで」
「っ!?」
エンデの言葉に、一気に顔色が悪くなるユウカともう一人の女子。
そしてもう一人の女子の方が耐えられなくなって、ユウカに話し掛けて打ち明けた方がいいのではと言うが、ユウカはそれを聞かずに黙り続ける。
見かねたラッシュが近付こうとしたが、それより先にメネがユウカの前に立つのだった。
「何俯いた顔しているの、貴方?」
「……」
「黙ってないで何かいいなよ」
その状況に、ラッシュもシャーレも黙って見守っているとエンデは後ろの方で「メネ、こっわ」と呟いていた。
「黙り続けてるって事は、認めるって事だよね? で、リリスはどこ?」
「……」
するとずっと黙ったまま俯いているユウカに対して、メネはゆっくりと覗き込む様に顔を近付けて問いかけた。
「さっさとしゃべれよ。私は、ここであんたの顔ぐちゃぐちゃになるまで殴っても構わないんだよ。どうとでも出来るし、貴方が何を主張しても何にも通らないし、退学させる事だって簡単なんだよ」
「っ!?」
そこで突然ユウカは顔を上げると、口元が小刻みに震えていた。
ユウカは咄嗟にもう一人の女子の方へと視線を向けると、メネも威圧する様に視線を向けた。
もう一人の女子は、その視線で完全にしゃべれなくなってしまい、震えていた。
そんな様子を後ろから見ていたエンデが口を挟んで来た。
「来た道の劣化した柵から、下の密林地帯にリリスちゃんを落としたんだよね?」
「……エンデ、それ本当?」
「本当だよ。だから、僕にその目を向けるのやめてくれるメネ? もう結構時間が経ってるから、下手したらもう――」
と言いかけた時だった、遠くの密林地帯から何かが爆発する音が聞こえて来た。
すると、ラッシュが来た道を勢いよく戻り始めた。
そしてシャーレはエンデに詳しい場所を聞いてから、ラッシュの後を追うのだった。
「こっわ……つい怖くて答えちゃったよ。で、メネは行かないの?」
「私が行くより、あの二人が行った方が確実でしょ。それよりも、こっちの方が問題よ」
そう言ってメネは腰が抜けた様にその場に崩れ落ちたユウカたちに視線を向けた。
そこへエンデが寄って来て小声で話し掛けて来た。
「確かに、ちょっとした事件だよね。でも、公表すると色々と面倒じゃないメネ的にも? いや、学院長の娘的にもさ」
「……どこでそれを?」
「う~ん、秘密。で、どうする? 僕なら平和的に終わらせる方法を提案出来るけど?」
エンデのにやけ顔にメネはため息を漏らした後に、話を聞き始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ラッシュとシャーレは、エンデに教えてもらった場所に到着しリリスの名前を大きく叫ぶが反応はなかった。
すると躊躇なく、ラッシュがそこから真下へと飛び込んで行く。
「ラッシュ! ったく、あいついつも勝手な事しやがって!」
そう言ってシャーレも追いかけるように飛び込む。
そして二人は落下しながら魔法を真下に向けて放ち、その勢いを使い無事に地面へと辿り着き、再び名前を呼ぶが返事はなかった。
二人はそのまま周囲を見回していると、支給品バックを見つけるのだった。
「ラッシュ、これ」
「支給品バック。ってことは、この辺にリリスがいるって事か」
と、話した直後だった。背後に殺気を感じ二人が振り返るとそこには巨大な熊の魔物が立っていた。
「魔物!」
するとシャーレが熊の魔物の口元にある物がついているのを見つけるのだった。
それは、学院服の袖であり口周りには赤い液体が滴っていた。
それを見てシャーレは呆然としていると、ラッシュも遅れて気付き最悪の状況をイメージしてしまうのだった。
「お前……お前が……お前がリリスを!」
そう口に出すとラッシュは、最大威力の火球を放つと熊の魔物に直撃し大爆発を起こす。
更にそこへ畳みかける様にシャーレが、周囲を銀世界に変えると周りに白い氷柱を創り出し、熊の魔物へ向けて一斉に放ち動きを完全に封じる。
そして、突っ込んで行くラッシュに対して階段を創り出し、ラッシュはそれを登り飛び込みながら、右手に炎を纏い熊の魔物の顔目掛けて叩き込み、爆発を起こして吹き飛ばした。
二人は一気に魔力を全力で使った為、息切れをしていたが最大火力を魔物に叩き込んだので、大丈夫だろうと思っていると遠くから熊の魔物がゆっくりとこちらに向かって来てるのを目撃する。
「(嘘だろ!? あれほどの攻撃くらって、まだ生きてるのかよ)」
「(マズイですね。感情のまま全力を使ってしまって、魔力切れ寸前ですよ)」
熊の魔物が二人の前に戻って来て、大きく叫び声を上げた時だった、二人の背後から声が聞こえて来たのだった。
「見つけったぁぁー!」
すると二人の真上を熊の魔物より一回り大きい白銀の狼が飛び越えて行く。
その背中にラッシュとシャーレは、私が乗っているのを見つけて目を疑った。
そのまま白銀の狼は熊の魔物に噛みつくと、その上に乗っていた私は熊の魔物の飛び移りながら叫んだ。
「さっきのお返しだーー!」
そう言って、勢いよく魔道具の指輪を身に付けた右手を叩きつけると、大きな衝撃音が響き渡ると熊の魔物は白目をむいてその場に倒れるのだった。
私はそのまま高い所から落ちそうになったが、白銀の狼が助けてくれて、無事に地面に下ろしてもらった。
「ありがとう、主様」
私が白銀の狼に感謝を伝える為に撫でていると、ラッシュとシャーレが話し掛けて来た。
「リ、リリス?」
「これは、どう言う状況ですか?」
「あれ? ラッシュにシャーレ? どうしてここ? と言うか、大丈夫?」
すると二人は同時に大きくため息をついて、同じ事を私に言って来たのだった。
「「それはこっちのセリフ!」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
事の顛末から言うと、私は熊の魔物に襲われそうになった直後出会ったのが密林地帯を統べていた主様であったのだ。
主様は熊の魔物が周囲を食い荒らしているのを敵視していたらしく、私が襲われていると思い助けてくれたのだ。
言葉は何故か伝わり、元の所に返してくれると言われたが、熊の魔物にやられたままだと何となく気がすまなったので、咄嗟に自分の魔道具の出力を変えて魔力を叩きつけ衝撃を与える様に変えて主様と共に熊の魔物を探していたのだ。
そこからさきは、ラッシュとシャーレが見た通りの結果である。
私はその後二人に怒られつつ、主様に落ちた所まで送ってもらった。
そして、エンデやメネたちと合流すると、首謀者と実行者の二人が私に謝罪して来た。
本当は許す気はなかったが、もう二度とこういうことをしないという条件で私は許した。
甘い対応かもしれないが、これ以上に私は面倒事になる事が嫌だったので、これで終わりにしたかったのだ。
その後、エンデとメネの提案として教員への報告は、劣化した柵に引っかかり落ちそうになったがラッシュや他のチームが偶然通りかかって助けてもらったとういう事にしたのだ。
ひとまず色々と事情は聞かれたが、それで何とか通す事が出来事件は終わったのだった。
ユウカたちの処分も学院側からは特になかったが、自主的に一週間程休学をしていた。
何やら噂では、寮の掃除活動を自ら立候補して行っていたとかなんとか。
まぁ、変に退学されたりするよりもそう言う事で反省しているのなら私はいいのではないと思っていた。
そして事件から一週間後が経過した。
今まで通りに何事もなく学院生活を送っていたが、その日私は食堂の机で突っ伏していた。
「どうしたのリリス? 突っ伏したりして」
「メネ~どうしよう~明日から期末試験なんだけど~」
「何だ、試験の事か」
「そっけな! 私にとっては運命の日なんだよ、ここで最低点とったりしたら学院にいられないんだよ~」
と、私はもう事件の事など引きずらずに目の前の試験に怯えていた。
そんな私を見てメネは同情もする事無く、淡々と昼食を食べるのだった。
「一週間前に、死にそうな目に遭ったて言うのに。試験で弱気になるってどう言う事なの? と言うか、私も分からない所教えたりしてるんだから、大丈夫でしょ」
「そうかもしれないけどさ……不安」
私は再び机に突っ伏すと、メネはため息をついた。
そこへラッシュとシャーレが合流して来た。
「どうしたんですか、リリスさん?」
「何突っ伏してるんだよ?」
「明日の試験が不安なんだってさ。二人からも言ってあげてよ、大丈夫だって」
そこで私は突っ伏していた顔を上げた。
「リリスさん、大丈夫ですよ。もし心配なら、今日お店の方まで出向いて私が勉強に付き合ってあげますよ」
「本当!?」
「えぇ、ラッシュよりは出来ますし、任せて下さい」
「おい! 待てよシャーレ、何抜け駆けしてんだ」
「抜け駆け? 何の事かな、ラッシュ」
ん? 何の話?
私は小声で話す二人に首を傾げていると、ラッシュが私の方に視線を向けて来た。
「勉強なら、俺が付き合ってやるよ。得意な所と苦手な所が似てる俺の方が、感覚とかつまずく所も似てるし分かりやすく教えられるしよ」
「確かに、ラッシュと傾向が似てるんだよね私」
「なぁ、だからシャーレよりも俺とやろうぜ」
「いやいや、ラッシュは感覚で教えるから、分かりづらいですよ? 私なら、的確に丁寧に教えられます」
「何言ってんだ、お前のは硬くて分かりづれえよ」
と、ラッシュとシャーレが言い合いを始めた所で私が「決めた」と言うと、二人は言い合いを止めて私の方を向いて来た。
「勉強は……」
「「勉強は……」」
「メネに教えてもらうよ」
私の答えにラッシュは「おい」とツッコんで来て、シャーレは小さく肩を落とすと、メネが提案するのだった。
「もう、全員でやればよくない?」
「あ~いいね、それ!」
「ナイスアイデア、メネ!」
「効率も考えるといいですね!」
「(何か見ていて飽きないな~)」
メネはそんな事を思いつつ、昼食を食べ続けながら私のたちの話に耳を傾けてくれていた。
「よっしゃ~見てろよシャーレ、俺が教えられるところ見せてやるからな」
「ラッシュ、強がりを言わなくていいんですよ。勉強に関しては私の方が上なんですか」
「あ~これで明日の期末試験を乗り越えられる! よ~し、打倒期末試験!」
「はいはい、早く食べないと時間なくなるよ」
私はメネにそう言われて、慌てて昼食を食べ始めるのだった。
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