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第三話〜Aサイド〜

ラブでコメな内容が多少含まれております。


 SIDE A



 どうしてこんなことになったんだ?

 待て。

 考えろ。

考えるんだ俺!

 えーと、仕事を終えて帰ってきたメルヒストさんをベルたちとお迎えして、それから今日から新しい住人が二人増えるからと、その準備を頼まれて。

それで風呂場の掃除にやってきて・・・。

 そこにいたのが・・・。

 長くてさらっとした赤い髪。

知性的な瞳。

すらりとした肢体。

 脱ぎかけだったスカートが、ストンと床に落ちると同時に女性の動きが止まった。

まるで部屋の中全体の時が止まってしまったかのような感じだった。

 「さ、さっきはどうも・・・」

 「あ、ああ・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 ど、どうしよう・・・。

 「・・・・・っ!!」

 突然、女性が息を飲んだ。

 やばい、非常にやばい!

 ・・・くるぞっ!!

 「き、きゃあああーっ!」

 女性は叫ぶと、慌てて胸を押さえた。

そして、あごを引き、俺を上目遣いで睨むと、壁に立てかけていた剣を掴み、すごい勢いで飛び掛ってきた。

 俺は繰り出された剣を必死に避ける。

 「誤解!」

 「黙れ!」

 「事故!」

 「喋るなっ!」

 女性は俺の主張を聞いてくれず、続けて俺の眼前に剣を繰り出し、俺も必死に避け続けた。

 「痴漢!」

 「違う!」

 「婦女暴行!」

 「違う!」

 「死ねー!」

 俺は女性の猛攻をなんとかしのぎ弁解する。

 とにかくこの人の敵意を何とかしないと!

 そんな緊急事態を聞きつけたメルヒストさんが風呂場にやって来た。

 助かった! これで・・・。

 「そんなっ! ひどいわトレインくん! 私だったらいつ襲われても大丈夫だったのに!」

 「何っ!? 貴様っ! メルヒスト様にそのようなことを!」

 「してない! してない! メルヒストさんには指一本触れていない!」

 「本当か!?」

 「本当です!」

 「酷いわ、トレインくん! あの夜誓い合った愛は嘘だったって言うのっ!?」

 「わぁっ! 何を言っているんですか!?」

 「き、き、貴様ーっ!!!」

 女性の剣先が頬をかすった。

横ではメルヒストさんが、よよよ、と泣き崩れている。

「ちょっ、メルヒストさん! 何とか言ってくださいよっ! 俺はメルヒストさんに頼まれて・・・っ!」

 「私はトレインくんにお風呂場のお掃除は頼んだけれど、メディーを襲えだなんて一言も頼んでないわー! よよよ・・・」

 「このっ! 貴様っ! まさか、自らの罪をあろうことかメルヒスト様になすりつけようとするとは! 責任転嫁もいいところだ!」

 「だって本当のことなんだから仕方がないだろっ!」

 「仕方がない!? 仕方がなかったから私を襲いにきたというのか!? これだから男は!」

 「違う! 襲いにきたんじゃなくて風呂場の掃除にきたんだ」

 「なんだ? 騒々しいな」

 騒ぎを聞きつけ、新たに女性が一人やってきた。

 もしかして新しい住人っていうのはこのお二人?

 「お前は・・・」

 女性は俺を品定めするような視線で見つめてくる。

 「お前がトレイン・バレンタインか?」

 「え・・・どうして俺の名前を?」

 「運命・・・とでも言っておこうか」

 「運命?」

 「うむ。そう思っていたほうが、お互いロマンチックだろ?」

 そう言うと、女性はじっと俺を見つめて笑う。

大人の女性の微笑みに少しだけたじろいでしまう。

 女性はそんな俺を見てまた笑い、次に赤い髪の女性を見つめる。

 「ほう、覗きか・・・」

 「はっ?」

 「どうだ? メディーの身体をじっくり鑑賞した感想は」

 「どうって・・・」

 「お前の正直な感想を聞かせてくれ」

 「リ、リザ様! 何を・・・」

 リザ様ってことは、この女性はどこかの貴族か何かか? 

それにしても感想を聞かせて欲しいも何も俺は覗きをしていたわけじゃなく、掃除をしにきたわけであって・・・。

でも、しっかり見ちゃったよな。

あの綺麗な小麦色の肌。

甲冑を身に付けていたときには想像することは出来ても見えなかったが、メルヒストさんに負けず劣らず魅力的なスラリとした肢体だった。

 「どうした? ほら、思い出したか? なに、怒ったりしないよ。君の正直な感想を是非私に聞かせてくれ」

 「そ、その・・・」

 「ああ」

 「リザ様!」

 「ちょっと黙っていろ。今いいところなんだから」

 「あの・・・」

 「ああ」

 「き、斬る!」

 「リーシャ、少しの間メディーを抑えていてくれ」

 「はーい」

 やけにうれしそうに従うメルヒストさんと、必死に抵抗しようとするメディーと呼ばれる女性。

 そんな・・・本人がいる前で感想なんて・・・。

 「なーに、心配するな。あれはメディーの照れ隠しだ」

 そ、そうなのか? 

いや、そんなはずはないと思いつつも、リザさんが言うと、まるでそうだと思い込んでしまいそうだ。

 「と、とても魅力的なスタイルだと・・・」

 「もっと具体的に」

 具体的!?

 「む、胸が、とても大きくて・・・」

 「そうか。メディーの胸は大きいか」

 「は、はい・・・」

 「よかったなメディー。トレインくんはお前の胸が魅力的だと言っているぞ」

 「くっ、くぅぅぅぅっ・・・・・・」

 メルヒストさんに組み敷かれたメディーさんは顔を真っ赤にし、瞳に涙まで溜めてうめいていた。

 「ゆ、許さんぞ・・・」

 「へ?」

 「このような辱めを受けたのは初めてだっ!」

 「あ、あの・・・」

 「黙れ! それ以上口を開くな!」

 強烈な眼光で俺を睨むメディーさん。

俺は身体がすくんでしまった。

 「メディー。許してやったらどうだ? トレインくんも男だ。そこに魅力的なスタイルの持ち主が現れたら覗きもしたくなるだろうよ」

 「だから覗いていません! 誤解です!」

 「おおっ、そうだったか。すまん、すまん。だが、メディーはそうは思っていないみたいだぞ?」

 「ええー!?」

 メディーさんを組み敷いていたメルヒストさんの拘束が弱まると、メディーさんは何やらぶつぶつと言いながら、ゆらりと立ち上がる。

 「斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る・・・・・・」

 「トレイン」

 「は、はい?」

 「お前は大きな胸が好きなのか?」

 「え、ええ。どちらかと言えば・・・」

 そう答えた瞬間。

 カチャンと音が鳴ったかと思うと、メディーさんは剣を鞘に収め、鞘ごと剣を俺に突きつける。

 「貴様を斬り捨てる♪」

 語尾に♪までついていそうなほど機嫌よく笑いながら、この上なく物騒なことを口走る。

 「え? 嘘っ?」

 「本当だ♪」

 「おーい、メディー。どうせだったら騎士らしく決闘なんてどうだ?」

 「そうですね。そのほうがお互い後腐れないでしょうし♪」

 「いや、後腐れあるから! 第一騎士同士じゃないですよ! 俺、騎士じゃないですから!」

 「ん? そうなのか? ならばお前の腰に提げられたそれは何だ?」

 そう言って、俺の腰に提がった剣を見るリザさん。

 「これは飾りです!」

 「そうか」

 「そうです! だから・・・」

 「メディー! 手加減無用でお願いしますだとさ!」

 「こちらこそ♪」

 「あー、一応言っておくが、今のメディーはあまりの恥辱に少しぶっとんでいるから気をつけろよ」

 「頑張ってね、トレインくん」

 メルヒストさんの激励に涙が出そうだった。

 「メルヒストさん! メルヒストさんからも止めてくださいよ! ここで暴れたりなんてしたら・・・」

 「ご安心を」

 俺の言葉を遮るように言ったメディーさんは、にっこりと微笑み言う。

 「リーシャ様の大切なこの家では暴れたりなどいたしません。さっ、思う存分戦える場所へ移動しましょうか♪」

 俺はいつの間にか着替え終えていたメディーさんに肩を掴まれて外へと連れて行かれた。

 「本当にこれでよかったの?」

 リーシャはリザに視線を向けて言う。

 「ああ。言っただろう? 私の認める男は、強く、優しく、女を守れるだけの力を持つ男だ。まずはあの男の強さを見せてもらおうではないか」

 リザは不敵にほくそ笑む。

 「でも・・・」

 「大丈夫だ。メディーにもちゃんと伝えてある。今回の目的はトレインの力を見極めるだけであり、いつものように叩きのめす必要はないとな。メディーもわかっているだろう。なーに、心配いらないさ」

 「そうかしら・・・?」

 「たぶん・・・」

 少し不安そうに言うリザを見て、リーシャは一抹の不安を隠しきれなかった。


 日が沈み始め空がオレンジ色に染まってきた頃、俺はメディーさんに連れられて人気のない鬱蒼とした森にやって来た。

 この場所は普段は騎士たちの修練場らしく、大きな木々や岩などに無数の傷が残されており、騎士たちの修練の後が垣間見れた。

 俺とメディーさんに少し遅れる形でやって来たメルヒストさんとリザさんは、一緒に連れて来たベルたちを少し離れた場所に座らせる。ベルたちは無邪気なもので、これからどんなことが起こるのかとわくわくした様子でいた。

 「ではいきますよ♪」

 笑顔とは真逆の気配を身体中から撒き散らしたメディーさんは助走一つせず、あっという間に俺との距離を詰める。

 「はぁっ!!!」

 気合一閃。

 メディーさんは鋭く剣を振り切る。

俺は咄嗟に後ろへと跳躍して攻撃をかわす。

その瞬間、まるで地上が爆発を起こしたような、大きな破壊音が響いた。

 「上手くよけましたね♪」

 俺がさっきまで立っていた場所には深い割れ目が出来ていた。もしあのままあそこに立っていたらと考えると、背筋を氷のように冷たい汗が滑り落ちた。

 「では、改めましてっ!」

 ズドン! とした衝撃が起こったかと思うと、メディーさんは再び俺との距離を縮め、剣を鋭く振る。

メディーさんの一撃を避け、腰に提げられた剣を抜き構える。

そんな俺を見てメディーさんは形のいい眉を崩した。

 「どういうことですか?」

 怒りに満ちた声を隠そうともせず、メディーさんは言い放つ。

しかし、俺にはメディーさんが何故怒っているのかわからなかった。

 「私をからかっているのか?」

 「そんなつもりは・・・」

 「だったら何故武器をちゃんと構えないっ!」

 「え? この構えじゃ間違いなんですか?」

 剣を扱ったことのない俺はどんな構えが正しいのかわからない。

今も楽な構えを取っているだけだ。

 「間違いですか・・・だと?」

 「あ、あの・・・?」

 「ふふっ、馬鹿にされたものだな」

 「メディー・・・さん?」

 「そんな構えでは人は斬れないぞ!」

 俺の構えは剣を両手で持ち、それを右肩に乗せるといった格好だった。

やっぱりこの構えは間違っていたのか。

メディーさんや他の騎士たちと比べると構え方が違うと思っていたからもしかしてとは思っていたが。

だけど仕方がないじゃないか。

俺は剣の扱いには慣れていない。

というよりまったくの初心者だ。

メディーさんは女性であれば決して軽くない剣を片手で持ち、それをレイピアの構えのように前に突き出している。

 「ふんっ、まあいい」

 そう言うとメディーさんは剣を大きく振りかぶり、それをその場に突き刺した。

 その直後。

 大きな地響きが鳴り、地面が激しく揺れだした。俺は地面に上手く立つことが出来ず、よろけてしまう。

 「こ、こんなの人間業じゃないだろっ!」

 あまりに常識はずれな事態に思わずそう叫ぶ俺の背後から声が聞こえてきた。

 「当然だ。私は人族ではない」

 キンッ!

 剣と剣が激しくぶつかる。

 メディーさんの攻撃を俺は必死に剣で受け止める。

さっきから防戦一方でこちらから仕掛ける余裕などどこにもない。

仮に仕掛けたとしても、俺のような素人剣技じゃメディーさんに軽くあしらわれることがわかっているため、攻めることなど考えられなかった。

 「背後からなんて卑怯ですよ!」

 「黙れ! 婦女暴行魔に卑怯呼ばわりされる筋合いはない!」

 「だから誤解です!」

 「言い訳など聞かんっ!」

 メディーさんは俺を組み伏せると顔面目掛けて剣を突き出す。

それを間一髪で避けてメディーさんを振り払う。

だが、すぐに態勢を立て直したメディーさんは再び俺を組み伏せようとして近づいてくる。

 こっちは地響きのせいで立っているのがやっとだって言うのに・・・!

 「がんばれトレインー!」

 「まけるなー!」

 「よけてー!」

「がんばれー!」

 「トレインー!」

 ベルたちの声援が聞こえてくる。

 「負けて・・・たまるかっ!」

 なんとかメディーさんを押し返した俺はすぐに態勢を立て直して距離を取った。

だが、この程度の距離じゃメディーさんは簡単に差を縮めるだろう。

かといってこちらから攻撃を仕掛けたとしても結果は目に見えているし。

くそっ。どうしたらいいんだ。

 「その首飾り・・・」

 突然、メディーさんが呟くように細い声で言った。

 「え?」

 メディーさんは驚くような顔で俺を見ている。

いや、正確には俺の胸元を凝視している。

メディーさんが何を見てそんなに驚いているのか気になった俺は自分の胸元に視線を落とした。

 「あ・・・」

 そこにあったのは、ベルたちが俺にプレゼントしてくれたケヤキナギノ葉という花で作られた首飾りだった。

 「何故貴様がそれを持っている・・・」

 震えた声で言うメディーさんだったが、ベルたちをちらっと見た後、

 「いや・・・」

 何かを納得したような顔で首を横に振り言った。

 「大切なもののようだな」

 「なにを・・・」

 「しっかり守っておけ」

 心なしかメディーさんが優しく微笑んだように見えた。

そんなメディーさんに俺は少し戸惑ってしまった。

その間にメディーさんは剣を構えて突っ込んでくる。

俺はさっきのメディーさんの表情が気になったが、気持ちを切り替えて応戦する。

だが、メディーさんは俺の剣を身体を捻ってかわし、握った剣を振り上げる。

 「終わりだ」

 後ろにさがってかわそうとしたが一歩遅かった。メディーさんは高速で剣を振り下ろす。

 「くそっ・・・」

 ここまでか。

 俺は咄嗟に後ろへと振り向きメディーさんに背中を晒した。

 「なっ!?」

 メディーさんは驚きの声を上げて、振り下ろしている剣を止めようとしたのだろうが、それは間に合わなかった。

 「避けろっ!」

 メディーさんの悲痛な声が聞こえたが多分もう遅いだろう。

 そう思った瞬間、俺の背中に激痛が走った。

 「ぐっ・・・」

 痛みに耐え切れず膝ががくっと地面に沈む。

そして数秒もしないうちに視界がぼやけてきた。

どくっ、と勢いよく背中から血が吹き出ているのが感覚的にわかる。

 これは・・・駄目だろ・・・。

 その場にゆっくりと前に倒れる。

 俺は意識を失う前に最後の力を振り絞って視線を子供たちに向けた。

幸いにもベルたちはメルヒストさんが抱きしめるように包んでくれていたため、俺のこんな姿は見ずに済んだようだ。

 よかった・・・。

 そこで、俺の思考は停止した。


いかがでしたでしょうか?

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