第二話〜サイドB〜
長くなりそうな予感がしてまいりました。
Side B
王宮に赤い髪の騎士が戻ってきた。
彼女の表情はどこか不満気で、道行く少女たちに自然と道を空けさせる。
「どうしてあの子たちが・・・」
彼女はついさっき遭遇した男を庇っていた子供たちのことをよく知っていた。
だから尚更疑問に思ってしまう。
執務室に辿り着くと、赤い髪の騎士は乱暴に扉を開く。
「どうしたんだ? メディー」
凛々しい声がメディーと呼ばれた少女に届く。
赤い髪の騎士を改め、彼女の本名はメディア・ネイロンド・アークス・シュバイン。
極端に長い名前のため、彼女と親しい者はみんな彼女のことを親しみを込めてメディーと呼ぶ。
女王もその一人である。
「陛下、敵兵を全て掃討してまいりました」
「ん、ご苦労。すまなかったなメディー。応援が遅れて」
「いえ。お気になさらずに・・・」
そう言うとメディーは女王の隣に立っている人物を見て言う。
「隊長、どういうことですか?」
思わず詰問口調で言ってしまったとメディーは少し後悔する。
「何が?」
問われた女性はわけがわからないと言った風に困った顔で聞き返す。
「さきほど敵兵との戦闘時に男と遭遇しました」
「男などアバルト帝国兵ならば珍しくも何ともなかろう?」
そう言った女王の言葉をメディーは首を横に振り否定する。
「どうやらその男はアバルトの手の者ではないようでして・・・」
言ったメディーを女王がジロリと睨んで言う。
「どういうことだ? 敵以外の男がこの国に紛れ込んでいると言うのか?」
「はい・・・」
「そうか・・・。ならば至急全軍を挙げて探し出し、私の前に連れて来い」
隊長と呼ばれた女性は一瞬驚いた顔をし、次の瞬間、「リザ!」と、女王の名前を叫んだ。
女王は普段の隊長と呼ばれる女性を知っているだけに、自分の名前を叫ぶように呼んだことが信じられなくて驚いていた。
「な、何だいきなり」
「え? あっ、ごめんなさい!」
「いや、いいがな。それよりどうした?」
「な、何が?」
「惚けるな。男をここへ連れて来いと言った直後にこれだ。誰にでもわかるぞ?」
「えーと、ね?」
「さっき話しかけていたことと何か関係でもあるのか?」
「う、うん」
「話?」
メディーが訝しげに訊ねると、「ああ」と女王は答えて返事を寄越した。
「この国の未来について、さっきから延々と聞かされていてな」
「敵兵が攻めてきていたというのにそのようなお話をされていようとは・・・」
「いやな、悪いとは思ったのだが、隊長様がどうしてもと聞かなくてな。それに、襲撃場所を警備しているのがメディーだと聞いていたから大丈夫だろうとは思っていたぞ」
「はぁ・・・。それで、具体的にはどのようなお話を?」
「ん? ああ、なんだったかな? えーと・・・」
「この国には子供が少なく、子供がいなければ今は大丈夫でもいつかこの国は滅びる。そういう話だったでしょ?」
「そうそう、そんな話だったな。メディー。お前はこの話を聞いてどう思う?」
「はっ、大変遺憾ながら隊長の仰る通りかと・・・」
「そうか・・・」
「だ、だからね・・・」
そう言って隊長が本題に入ろうとしたときだった。
「しかしな、私は自分が認めた男にしか抱かれるつもりはないぞ?」
「なっ!?」
「だ、抱く!?」
隊長とメディーの二人は女王の白昼堂々とした大胆発言に顔を真っ赤に染めていた。
「何だ? どうかしたか?」
「あ、あのね、リザ。いくら何でも・・・」
「そ、そうですよ。隊長は子供が少なくては国が危ないと仰っているだけで・・・」
「しかし結局はそういうことだろう? 子供が少ない→男に抱かれて子供を生む→国の危機回避」
「ま、まあ、そういうことだけど・・・」
「だがな、二人とも。忘れたわけではあるまいな? この国の男たちが行った蛮行を」
怒りに満ちた声で言う女王に隊長とメディーは思わず顔をしかめる。
「忘れるはず、ないじゃない・・・」
「ええ、あのような悪魔の所業を忘れるなど・・・」
「そうか。ならばいい」
「え?」
「イクシード王国騎士隊隊長及び、羽翼、獣人、エルフ部隊総隊長リーシャ・メルヒスト!」
「は、はい!」
リーシャは突然の呼びかけに背筋を伸ばし、返事をする。
「私の認める男は、強く、優しく、女を守れるだけの力を持つ男だ。もちろん、最低条件として、今この場にいる三人よりも強いことが条件だ」
「リザ?」
「いるんだろう? お前をそこまで惚れさせた男が」
「な、ななな何をっ!?」
「隠すな、隠すな。それがおそらくメディーが見たという男か・・・」
「隊長の反応から見て、おそらく間違いはないかと」
「ははっ! 楽しみだな! よーし、私が直々に品定めをしてやろう!」
「品定めって・・・」
リーシャは呆れたような顔で言い、小さくため息をついた。
「何だか楽しくなってきたぞ! そういうことだ。今日からまた世話になる! いやー、ベルたちに会うのも久しぶりで私は今から楽しみで仕方がない。よし、メディー、我が家へ帰ろうじゃないか! おっとそうだ。これからよろしくな!」
言ってリザはリーシャの肩に手を置き楽しそうに笑った。
その様子を見ていたメディーはこれから女王に試される男が哀れでならないと少し同情した。
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