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第二話〜Aサイド〜

皆さんに楽しんで頂ければ幸いです。


Side A


 「ねえトレイン」

 リリスが俺の足をくいくい引っ張りながら言う。

 「どうした?」

 「わたちね、ちょっとようじをおもいだちたの!」

 「用事?」

 「うん! そいでね、いまからおそとにいってきてもいい?」

 「うーん、リリス一人でか?」

 「うん!」

 「駄目だ」

 「どーちて?」

 「いくらこの国には女性しかいないといっても、リリス一人じゃ危ないからだ」

 「それじゃあ、わたしたちがリリスについていくよ!」

 と、ベルがにっこり笑ってリリスの頭を撫でながら言う。

 「ベルたちがついていってもなー」

 頭をかきながら言う俺を、ベルは可愛らしく頬を膨らまして言う。

 「なんだよ。なんかもんくでもあるのかー?」

 「うーん、心配だなー」

 年頃の娘を持った父親の心境がわかるような気がした。

 「たのむよトレイン!」

 「おねがいトレイン!」

 「おねがい!」

 「わたしも!」

 「おーねーがーいー!」

 まあ、大丈夫だろう。ベルたちもまだまだ遊びたい盛りなんだな。

 「わかった」

 そう言った瞬間、ベルたちはうれしそうに飛び跳ねた。

 「ただし、家の近くで遊ぶこと。いいな?」

 「え・・・。とおくにいっちゃだめ?」

 リリスが可愛らしく首をかしげた。

 「駄目」

 するとリリスは愛らしい瞳をうるうると潤ませて俺を見つめる。

 「うっ・・・」

 「どーちても?」

 「どーしても」

 「うぅ・・・」

 リリスは今にも泣き出しそうな顔になる。

 「リリス」

 ベルはそんなリリスに声をかけると耳元で何やら話す。話が終わるとリリスの表情は輝いていた。

 「うん! わかった、ベルおねーちゃん!」

 「そうか! リリスはえらいな! よし、それじゃあいくぞー! いってきまーす!」

 「ベル」

 「なんだー?」

 「一応どこに遊びに行くのか教えてくれ。心配しすぎてどうにかなりそうだ」

 「おしえてもいいけど、ぜったいくるなよなー!」

 「ああ、約束するよ」

 「それならおしえてやるよ! わたしたちはこれからまちのいりぐちで・・・」

 「ベルおねーちゃんだめー!」

 リリスが後ろからベルの口を小さな両手で塞ぎ、他の子供たちも口元に指を一本立てて、「しぃー!」と、同時に言う。

 「あ、そっか。ま、まあ、そういうことで!」

 そう言ってベルは、リリス、ミスト、マリー、キャロルを率いて外に遊びに行った。

 「ふぅ・・・。やれやれ」

 リリスがあんなに駄々をこねるなんて・・・。


 ベルたちが遊びに行って少しした頃、外が妙に騒がしかった。

 気になるけど俺は外に出れないんだよな。

暇つぶしに本棚に置いてあった本を適当に見繕って読むことにした。

静かな時間がゆっくりと過ぎていく。

そんなときだった。

 「ん・・・?」

 雄叫び? 

それに聞きなれた金属音だ。

いや、これは・・・。

剣と剣のぶつかり合う音だ。

どういうことだ? 

騎士同士がこんな街中で剣の稽古をするはずがない。

だとすると・・・。

 「まさかっ!」

 俺は遊びに行ったベルたちを探しに急いで外に出た。

 どこを探せばいいんだ? 

えーと、たしかベルは・・・。

 『まちのいりぐちで・・・』

 そうだ! 入り口だ!

 俺は目的地を決めると全速力で走り出した。

 

 街の入り口に着くとすぐに俺は大声でベルたちの名前を呼んだ。

こんなことをしていて他の女性たちに俺の存在が知られてしまうとメルヒストさんに迷惑をかけることになるかもしれないが、仕方がない。

 「ベルー! リリスー! ミストー! マリー! キャロルー!」

 だが返事は一向に返ってこなかった。

 その後もずっと名前を呼び続けたが返事はなかった。

 街の入り口付近は混乱している。

 逃げ惑う女性たち。

街に入ろうと剣を構えて走ってくる男たち。

 昔の記憶が蘇りそうになった俺は首を横に振ると、再びベルたちを探し始めた。

 だが、周囲は武装した集団に囲まれ、既に乱戦になっていた。

そんな中で、女性騎士がたった一人で戦っていた。

敵を誰一人街に近づけていない。

 大剣を振りかぶった敵兵が、女性目がけて襲い掛かる。

 「くそっ!」

 女性は悪態をつきつつも咄嗟に大剣を受け止めて弾き飛ばす。

弾き飛ばされた敵兵と対峙していた女性を、もう一人の敵兵が背後から襲い掛かる。

 だが、

「なめるなぁぁぁぁっ!!!」

 女性は美しく舞うようにかわすと次いで斬撃を繰り出し、敵兵を切り捨てる。

 「くそっ! 何故これほどまでに敵の進行を許せたのだ!」

 湧き上がる疑念を考えているほど余裕はなかった。

 敵兵は次々と飛び掛ってくる。

 「こっのーっ!」

 女性は疑念を振り払うかのように剣を振って、群がる敵を叩き伏せる。

そして、そのときだった。

 伏兵の放った弓が女性の持つ剣を弾いた。

 「くっ・・・」

 俺は咄嗟に自分の腰に提げられた剣を掴み、彼女の目前に投げつける。

 「使えっ!」

 女性は一瞬驚くが、すかさず剣を手に取ると一気に弓兵との距離を縮め切り捨てた。

 「はあっ!」

 彼女の長い赤髪は剣を振るうたびに揺れ、さながら戦場に咲いた一輪の薔薇を思わせた。俺が一連の動きに見とれてしまっているうちに彼女は全ての敵兵を掃討していた。

 彼女の肌は小麦色の健康的な肌で、銀の甲冑を身に付けているためわからないが、おそらく滑らかな身体のラインであり、恐ろしく無駄のない均整の取れた身体をしているのだろうと簡単に想像させた。

そして、どこか気品のある面立ちに形のいい眉。

何より彼女の瞳から『この国を絶対に守る』という、強い意志が伝わってきた。

 「・・・・・・」

 彼女は無言で俺を見つめてくる。

 冷たい眼差しで俺を見ている彼女は、こっちにこいというようなジェスチャーを指でして俺を呼ぶ。

 俺は慌てて彼女に近づこうとして、無様にこけた。

 「痛っ・・・」

 起き上がろうとした俺の首筋に冷たい物が突きつけられた。

 顔を上げると、先ほど彼女に渡した剣が首の横で光っていた。

 「えーと・・・」

 「・・・・・・」

 彼女は変わらぬ冷たい目つきで俺を見ている。

 どうしてだ? 

助けたはずの俺がどうして?

 そのとき、メルヒストさんの言葉が脳裏をよぎる。

 『男を見たらまず殺しにかかるはず』

 ああ、そうか。

俺、死ぬかもしれない。

 首筋の冷たい金属に、俺を見つめる冷たい視線。

 俺の人生これまでか。

 そう諦めかけたとき・・・。

 「だめー!」

 リリスが叫びながら俺と彼女の間に小さな身体を震わせながら割り込ませてきた。

 「なっ!」

 彼女はリリスの介入に狼狽していた。

 リリスに続き、ベル、ミスト、マリー、キャロルがリリスのように俺と彼女の間に小さな身体を割り込ませる。

 みんな同じように身体を震わせているが、その背中は何よりも強く見えた。

 そうか、こんな小さな子供たちでも戦っているんだな。

 「行け・・・」

 彼女は素っ気無く言う。

 「待ってくれ! 誤解のないように言っておくが、俺はさっきのやつらの仲間じゃない!」

 「だろうな・・・」

 「そうだ! って、え? あれ?」

 あまりにも簡単に信じてくれるものだから、何だか拍子抜けしてしまう。

 「あいつらの仲間だったとしたら私にこの剣を渡さなかっただろうしな。それに・・・」

 彼女は俺を庇うように両手を広げているリリスたちを見て言う。

 「この子たちがこんなにも身体を震わせながらお前を庇っているんだ。とりあえず敵ではないのだろう」

 「あ、ありがとう・・・」

 「礼ならその子たちに言え」

 「ああ、そうだな」

 「わかったらさっさと行け」

 「すまない・・・」

 リリスたちに礼を言い、立ち去ろうとした瞬間。

 「ちょっと待て」

 その一言で身体が硬直した。

 「な、何か?」

 「返す」

 女性は一言そう言うと、剣を俺に突き出す。

 「あ、そうか」

 「今度こそ行け」

 「ありがとう」

 そう言って俺はリリスたちを連れてその場を去った。

 去り際にベルが「またなー!」と、言っていたのが少し気になったが、それは気にしないでおこう。


 家に帰ると、まずベルたちの無事を確認した。

 「よかった。みんな無事だったんだな」

 「おう! いきなりあらわれやがったからびっくりしたけど、ずっとかくれてた!」

 「そうか・・・」

 俺はベルたちの頭を撫でて話を聞いているうちに、ベルたちが無事で安心したのか涙を流していた。

 「トレイン?」

 そんな泣き顔を見られたくなくて、ベルを抱きしめた。

しかし・・・。

 「ないてんのか?」

 ベルにはバレていたみたいだ。

いや、ベルだけじゃなく、みんなにバレていた。

 「みんな、ごめんな・・・」

 リリスを抱きしめて言うと、俺の頭を小さな手で撫でてくれた。

 「な、なかないのー」

 その手の主はミストだった。

ミストは自分が泣いているにも関わらず、俺の頭を優しく撫でてくれた。

 「トレインー? どうちてないてうの? おなかいたいの?」

 リリスが心配してくれる。

 「トレイン・・・」

 マリーは俺の手を「きゅっ」と握り締めてくれた。

 「いいこいいこ」

 キャロルは俺の背中を優しくさすってくれる。

 「どうしてないてんのかわかんねーけど、きにすんな!」

 最後にベルがいつもの生意気な口調で俺を元気づけてくれた。

 「・・・トレイン」

 リリスが何かを言いたそうにしていたので、リリスを抱きしめていた手をどける。

 「あのね、トレインに、わたしたちからぷれぜんとがあうの!」

 「俺に?」

 「うん! これ!」

 うれしそうに笑いながらリリスは俺の首にそれをかけてくれた。

 「まさか・・・これのために?」

 「そうだぜー! そのケヤキナギノはじゃなくちゃだめだったから・・・って、トレイン?」

 「ありがとう」

 俺はベル、リリス、ミスト、マリー、キャロルを一気に抱きしめた。

 「これは・・・俺の宝物にするよ・・・」

 リリスがプレゼントしてくれたもの。

 それは花で綺麗にデコレーションされて作られた首飾りだった。

 ベルたちは、俺のために危ない目に遭いながらも、花を摘んで首飾りを作ってくれたのだ。

このプレゼントは今まで生きてきた中で、何よりうれしいプレゼントだ。

だから俺はもう一度、心からの感謝の言葉を口にした。

 「ありがとう」


どうか見捨てないでやってください。

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